表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ODD  作者: 巫 夏希
19/53

第十六話 フルの機転


 科学者はレバーを下げた。


「あれはまだ実験段階では!? いつ形が崩れるか……」

「うるさい! これしか方法は無いのだ!!」


 水槽の底が中央からどんどん開いてゆく。

 水があふれ出す。

 床にたたきつけられ、水しぶきを上げると、フルとルーシーはその水を大量にかぶってしまった。

 水槽の底が完全に解放され――



 ドシィィィン



 メタモルフォーズがついに姿を表した。


「え?…そんなまさか……」


 フルが驚くのも無理はなかった。

 巨大な凹凸<おうとつ>の少ない人間のような姿。

 それを構成しているのは――


「水!?」

「管理者命令 実験体547号へ 命令コード001 ターゲットは、おまえの水をかぶった侵入者2人!!」


 科学者がそう叫ぶと、巨人の頭の中に見える赤い光が、ピカピカと点滅した。


「せっかくだから冥土の土産に教えてやろう…… 命令コード001というのは殺害命令だ! そしてこいつの能力は、触れている水を支配下に置き、意のままに動かすこと。つまり、人間に触れれば体の水分を支配、一気に抜きとって殺せるというわけだ。そして分離した水、こいつは発信機の役割をはたす。その水にかかった貴様らは、いくら逃げても追いかけられるというわけだ!! アッハハハハ!」



 ガルゥゥゥゥウ!

 笑い声に共鳴するかのようにメタモルフォーズが吠えた。

 ターゲットに小走りで近寄ってゆく。ただ、その体躯からの歩幅は、人間の並ではない。


「と、とりあえず逃げよう。 フル!」

「うん!」


 後ろを向いて思いっきりダッシュ。

 角を右に左に曲がって、何とか差をつけてゆく。


「フル! どうしよう……あの科学者が言うには倒すしかないらしいよ」


 顔を合わせずに、ただ走りながら話す。


「確かにそうだけど…… 何か案はないの?」

「えーと…魔法で炎を出して蒸発させるのは?」

「ムリだよ。炎は出せるけど、火力が圧倒的に足りない」

「じゃあ、この前みたいに錬金術で温度を何千倍にしちゃうとか……」

「それもムリ。あの術を使ったのはメアリーだし、僕は錬金術は使えない」

「メアリー……か」

「……!! 『第四倉庫』? ルーシー、ここに入ってみよう。何か使えるものがあるかもしれない」


 2人は急ブレーキ。

 人1人分くらい開いていた巨大な鉄扉から中へと入る。


「広いなー」


 ルーシーはあまりの広さに驚く。


「フル、このデッカイ機械、何かな?」

「……発電機じゃないかな」


 機械の横には燃料らしいドラム缶と、太い導線が並べられている。

 そして他にも、さまざまな薬品が入っているらしい大きな袋が詰まれている。

 その中で、1つの薬品が、フルの目に留まった。


「……水酸化ナトリウム?……そうか、これなら!」


 フルはさらに入口の近くのクレーンを確認する。


「よし、これも動く…… ルーシー! その発電機、動くかな?」

「動くと思うよ。燃料もたっぷりあるし」

「よかった! いいこと思いついたんだよ」





 ドシィィン ドシィィン と地を鳴らしながら、メタモルフォーズは第四倉庫へとたどり着いた。

 中から水のにおいがする。己からの水をまとった2人が。

 大きく開けられた扉から中へと入る。

 1歩。

 2歩。


「今だ! ルーシー!!」


 ぎりぎりまで張りつめられた弓が解放される!



 ヒュッ



 矢はメタモルフォーズ頭上、クレーンで吊るされた袋に命中した。

 袋は弾け、白い粉がメタモルフォーズへと降りかかる。

 その粉は瞬く間に溶けて、メタモルフォーズの全身へと回った。


「スイッチオン!」


 フルが発電機を始動させ、轟音とともに地を這う2本の導線に電気が流れ始める。

 その導線の端につながっているのは――メタモルフォーズ、本体。



 グオォォォォォォオオオ!!!!



 水に大量の電気が流れ、メタモルフォーズが悲鳴を上げる。

 急激なスピードで、メタモルフォーズが小さくなってゆく。

 そう、これは電気分解だ。

 特定の液体に電気を流すことによって、気体や固体に分解される現象。

 水は、水素と酸素に分解される。

 そして、ルーシーが射抜いた粉は水酸化ナトリウム。水に溶けると、電気が流れやすくなるという性質を持っている。

 巨大発電機による大電力と、水酸化ナトリウムの性質が組み合わさって、メタモルフォーズを急速に分解する電気分解装置が出来上がったのだ。

 ついに全ての水が、水素と酸素になった。

 頭の中にあった赤い玉が床に落下し、四散した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ