第十二話 記憶の糸
揺り籠のように揺れる馬車の中で、フルは夢を見ていた。
記憶が、思い出が、走馬灯のように逆再生されてゆく。
森での獅子との戦闘。
――初めて魔法を使い、みんなもそれぞれの武器で援護してくれた。
船が爆発して海に放り出された。
――手を離さず、みんなとはぐれずに済んだ。本当によかった。
転送魔法で港まで送られた。
――魔法ができる光景につい、見とれてしまった。
五感を封じられた中での戦い。
――生死が自分たちの動きで決まる。そう思うとホントに緊張した。
この世界に来てメアリーと出会った。
――不安のときに助けてくれた。本当に感謝してる。
現代。新発売のゲームを求め、チラシの店へ。
――見るからに怪しい店だったけど、まさか殴られるとは思いもしなかった。
記憶の再生は、どんどん加速する。
ダラダラと日々を消化した、これからも消化するはずだった高校生活。
別れる悲しみと、未来への希望の入り混じった中学の卒業式。
ひたすら騒いでた小学校時代。
外を駆けまわった幼稚園のころ。
“こんなに鮮明に覚えてるもんなんだ……”
過去を遡るにつれ、記憶の正確さに驚く。
幼稚園に入る前の、とても幼い自分。自ら言うのもなんだが、とてもかわいい。
――プツン
突然、記憶の逆再生がストップした。
見えるのは、何もない真っ黒な空間。
最後、自分が生まれるその瞬間までを、思いだすのではなかったのだろうか?
途切れた記憶の先を自ら開こうとする。
何も起こらない。
「自分は母親から生まれた」
という“記録”はある。
しかし、その場面の“記憶”がまるでない。
『フル……! ………きて!』
記憶とは別の所からの呼びかけ。
体をゆすぶられている。
「フル!フル起きて!」
「え…… なに?……」
目を開けるとメアリーが起こしてくれたのだと分かった。
「城に着くわよ。まず王様に会うらしいから、ちゃんと目、覚ましてよね」
「うん……分かった」
フルは目をこすりながら、窓の方に目を向ける。
そこには、多種多様な店が軒先を並べ、人があふれていた。
しかし、馬車から見える光景は、活気あふれる街から、徐々に厳かな雰囲気へと変化していった。
「城に着きました。どうぞお降りください」
馬車が止まり、ゴードンがドアを開る。
降りると、正面には大きな門がたたずんでいた。
ギィィ
大きな音を響かせ、門が開く。
「それでは、さっそく国王のもとへご案内いたします」
ゴードンに連れられ、3人は門をくぐった。




