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ODD  作者: 巫 夏希
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第十話 エルフの隠れ里

 4人は山中を歩いていた。

 馬車の通れないような細い獣道。

 木が生い茂り、木漏れ日に溢れている。


「みんな、伏せて……。」


 先頭を行くシュリアが、険しい顔をして、足をとめた。


 ガリッ


 ボリッ


 ボリッ


 グチャ


 無作法に何かを食べる音。

 音の方に目を凝らす。

 獅子、いやこの世のものとは思えない異形と化した獅子が小さな人の形をしたものを食らっていた。


「イヤァァァァァッ!!!!」


 皆が呆然とする中、メアリーがその光景に恐怖のあまり悲鳴を上げた。


「ガルゥ!」


 獅子は食らうのをやめ、その赤い目をこちらに向けた。


「逃げて!」

「「「は、はい!!!」」」


 シュリアの言葉とともに走りだす。

 逃げる、逃げる、逃げる。

 獣と人間の能力差は、やはり明らかだった。

 悪路という条件も重なり、どんどん差を詰められていく。


「これじゃ、きりがないわ!」


 シュリアは立ち止って反転。

 心を落ち着かせて、詠唱を始める。


『我、大地の力を借り、我に仇なす敵を閉じ込めん』


 獅子のまわり、円を描くように土がせり上がり、対象を覆う。

 一瞬で獅子を土のドームに閉じ込めた。

 内部から、壊そうとする音が、ドンドンと響く。


「これはあくまでも簡易的なものよ!逃げて!」


 シュリアは三人を追いかけ始めた。

 いつ破壊されまた追われるか、そんな恐怖に駆られ、ひたすら走る。


『みなさん、お待ちください。』


 4人の脳に声が直接響いた。


「誰だ!」


 フルは思わず叫び、立ち止まって振り向いた。

 すると、目の前からどこからともなく表れた小人が浮かんでいた。

 そう、飛んでいた。

 背中に生えている黄緑色の羽をはばたかせている。

 身長は人間の4分の1にも満たず、耳は斜め上方向にとがっている。


「え、エルフ!?」


 ルーシーは驚きを隠せないように、目を丸くした。


『そう、私は森の精。あなた達がエルフと呼ぶ存在。しかし、私にもミントという名前があります。以後、そうお呼びください。』


 エルフの特徴である、かわいらしい声が頭に響く。


「それじゃあ、ミントさん。早速聞くけど、私たちの村の大樹、何で枯れるのかしら?エルフであるあなたがいれば、あの木は生きていられるんじゃないの?」


 シュリアは憤りをあらわにしながら、ミントをにらんだ。


『確かに、私があの樹の管理を受け継ぎました。しかし、あれほど大きな樹は一人の力で管理できないのです。』


 ミントはシュリアをすまなそうに見つめる。


『そして今、この森にエルフは私一人しかいません。私は何とか逃れましたが、みんなあの怪物に食われてしまいました。』


 ミントは悔しそうにうつむいた。


『エルフというのは木から、草から、花から、自然から生まれます。新しい仲間の誕生を待っても、誕生と同時にあの怪物が現れ、食らってしまうのです……。』

「あ、あの……あいつを倒す方法はないんでしょうか?……聞いていると、あいつを倒せば、全て丸く収めるように思えるんですが……。」


 フルは思いついたように恐る恐る訊く。


『よく訊いてくれました。あいつを倒すための力をあなたに授けようとしたところです。』

「え!?ボク!?」

『そうです、あなたです。早速あなたに加護をお渡ししましょう。』


 ミントはフルの目と鼻の先に移動すると、詠唱を始めた。


「………………」


 微かしか聞こえない小さな声、ミントのホントの声。

 脳への直接な声はこのせいだったようだ。

 詠唱は終了し、フルの頭の上を円を描いて飛ぶ。

 その軌跡から光の粒がフルに降り注ぐ。

 フルの頭には様々情報が流れ込んできた。

 魔法の原理、作用、歴史、術式。

 魔法に関するあらゆる知識。

 その莫大な情報量はやさしく、ゆっくりと蓄積される。

 情報の流れがプツリとやんだ。

 全てが脳の中に格納され、それによってフルは理解した。


「これが…魔法……。」

「そう、それが魔法。あなたは魔法を手にした。しかし、その大きすぎる情報はあなた自身を蝕むでしょう。どうか、気を付けてください。」


 ミントは少し悲しい表情をした。


「あ、ありがとうございます!みんな行こう!」


 フルは深々と礼をすると、逃げてきた方へ走りだした。


「ちょっと待ってよ!フル!」


 メアリーは追いかける。

 それに続いてルーシーとシュリアも駆ける。

 4人はもうミントから見えないところまで行ってしまった。


「ガラムドよ…。本当にこれでよかったのですか?」


 ミントは空を見上げてつぶやく。

 そのあまりにも小さな声は4人が近くにいたとしても聞こえなかっただろう…。


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