第七話 予言の勇者
サリー先生が言うには、まだ皆旅から帰って来ないので、三日程授業はない、とのこと。
学校は先生たちとフル、メアリー、ルーシーのみとなり、学校は静かだった。
何をするにも、誰も居ない。ただ、じっとするしかなかった。
フルは屋上で空を眺めていた。
そしてボソッと呟いた。
「…元の世界に…帰りたいなぁ…。」
「?」
フルは気配に気付き、振り向いた。
メアリーだった。
「…メアリー。どうしたの?」
「…いや…暇だからさっ」
明らかに何かを隠したような口調だった。
「…ところでさ」
フルが話を切り出す。
「なに?」
「君は何故日本語が喋れるか、は聞いた。でも、『何故僕が日本語しか喋れない事』が分かってたんだい?」
「…こう言っちゃアレだけどさ」
「夢を見たのよ。」
「夢?」
それは、フル・ヤタクミがこの世界にやって来る一週間前の事だった。
メアリーは寝ていた。
「メアリーよ。起きなさい。」
「メアリーよ。起きなさい。」
「う、う~ん…。」
「やっとお目覚めになられましたか。」
「あなたは…?」
「あなたの遠い先祖です。」
「…ハッ!もしかして…」
「ガラムド!?」
「そうです。しかし最近の者は信仰心が無くて、この私でさえ呼び捨てにする…。困ったものです。」
「それだけを言いに来たなら寝ますけど」
「いや?本当の用件はこれからですよ。」
「?」
「『予言の勇者』を、守ること、それをあなたに任せたい。」
「『予言の勇者』?」
「数ヵ月前、テーラの弟子が『第二のガラムド現る』と予言したのです。そしてその人は近い内にあなたの側に現れます。」
「…分かりました」
「ありがとう。…じゃあ、あなたと本当に会える日を楽しみにしています!」
その言葉を喋った直後、メアリーは寝ていた。
「寝ちゃったの…。」
チラリ。
時計を見ると午前一時を回っていた。
メアリーの隣にいるとき、ガラムドは考えていた。
(絶対に、絶対に予言の勇者を守り通して下さい。)
(さもないと、この世界が生まれないかもしれないからね…。)
(メアリー。あなたに希望がかかっている。)
(神の子孫のあなたに…。)
「そうだったんだ…。」
「えぇ。」
「…待てよ。って事はメアリーは…」
「えぇ。校長先生が言ったでしょ?左利きが神の子孫の証、って。」
「…ん?でも、日本語が喋れる…よ…ね?ってことはガラムドは…」
「いや?実際は神ガラムドの母と父が世界を浄化する為に異世界から来て、ガラムドが誕生した、って聞くけど。なにしろ、2000年以上前の話だからね。」
「う~ん…。そっかぁ…。」
三日後。
通常なら授業が始まる筈なのに、
この日まで帰って来いと言われていたのに、
アルケミークラスはフル、ルーシー、メアリーを除いて、誰も帰って来なかった。
カチャ。
「授業、始めるわよー。席につきな…あれ?」
サリー先生が異変に気付いた。
「あれ…他の皆は…?」
「いや…見てませんけど?」
「おかしいわね…。今日までに帰れ、って言ったのに…。」
「ちょっと、待っててね」
ガチャ。
「…まさか」
フル、メアリー、ルーシーに一つの事が考え付いた。
みんな、拐われてしまったのだろうか…。
〔校長室〕
コンコン。
「どうぞ」
「失礼します。」
「サリー先生。授業中の筈だろう?」
「そっ、それが…」
「なに、アルケミークラスの殆どの生徒が帰って来ていない、だと?」
「えぇ。一応寮の部屋も見てまいりましたが…やはり誰も…。」
「そうか…。」
「…………」
「サリー先生。」
「なんでしょう?」
「どうやら、テーラが予言した『世界の終末』が近づいておるのかもしれませんぞ。」
「えっ……。」
「考えてみなされ。サリー先生。我々も気付かないように敵が入り込んでいたんだ。ということは奴らも目を付けている事になる。」
「まっ、まさか、ヤタクミ達に旅をさせようと言うのですか!?あんな危険な目に合わせておいて!?」
「これからもっと危険になるのはあの三人は百も承知だろう。」
「で、でもっ…それは…。」
「大丈夫。」
「わしに任せておけ。」
「は、はぁ…。」
〔A-1教室〕
ガチャ。
「…今日は…休講です。」
「!?」
「ただし、」
サリー先生は一息おいて、言った。
「フィールドワークをしてもらいます。」
「えっ」
「えっ」
「ええ~っ!!!!」
三人と先生しかいない教室に三人の悲鳴が響いた。
これが壮大な冒険の始まりだとは…
誰も知る至はなかった。




