堕落
「下界か…。随分と天界とは違うものだな」
そうつぶやいた男は、周りを見渡してため息のようなものをついた。
頭上にあるはずの光輪も輝くばかりの背中の羽も今はなく、それまでの当たり前のように使えていたはずの力さえ感じられない。
かつてリファエルと呼ばれ、天界において自由気ままに存在していた男は見慣れぬ景色の中自身の小ささを改めて感じていた。
天界における懲罰、彼が枷られたそれがいつまで続くのかは彼自身伺い知ることはもはやできなく、それゆえに今までしたこともなかったため息が出るのも仕方のないことであった。
強大すぎた力その異質さ故に多くの波紋を呼び、神の慈悲さえも超えて余る所業は、彼自身をこの荒んだ世界へと堕とすこととなった。
力は削られ下賤なる肉体に封じ込められる形となって。
「まあ、なるようになるか」
幾ばくかの思考のうちに彼は直様気を取り直す。
世界を揺らぐほどの力は神の名において封じ込められはしたが、彼の魂は変わりようもなく、その気ままな趣はかえようもなかった。
「先ずはこの境遇を楽しんで、それに飽きたら何か考えよう」
そんなつぶやきをあげ男は歩き出す。
それはこれまでと同じく、行動こそが彼をあらわすものだったからだ。