時間外
封印の扉がこれでもかとばかりに厳かに開いてゆく。
ゆっくりと時間をかけて。
「今日の分は、もう少しで終わりなんだけどなあ」
退屈だとばかりに傲慢な声が魔窟奥深くの扉の前であがる。
「何言ってんだリファ、最後の敵は目の前なんだぞ今更」
如何にも脳筋な声を上げて、戦士風の青年が声を荒げる。
そうこれは、勇者のパーティーだった。
「エヘルス、なんてこと言うの大魔導師様に対して」
心配顔の聖女らしき少女がおろおろとふたりの顔色を伺いながら声をかける。
「皆さまご油断なさらずに、出てきますよ!」
ただひとり冷静に扉の向こう側の様子に注意を払っていた聖職者の男が声をはりあげた。
途端にあたりの空気が重いものへと変わり、禍々しい香りの色に染まってゆく。
「我の…眠りを…妨げる…」
ジリリリリリ
けたたましい音が扉より現れた邪悪なる偉大なものの声を遮る。
「ほらね、時間だ。じゃあ俺は戻るわ、そうそう、このあと二三日休むから。こう毎日穴蔵にこもってばかりじゃ気が滅入って、広々としたところでリフレッシュするつもりなわけ」
懐から取り出したアーティファクトの音を止め、時刻を見つめながらローブ姿の男が宣言する。
「だから、もう少し待てよリファ。せっかくの情報源のお出ましだ、もう少しぐらいパーティーの為に働けよ」
「最初からそれが条件だろ?時間外じゃ魔道士としての能力に差支えが出てきちまうんだよ」
「仲間なんだからそのくらいはなんとかしろよ」
「決まりなんだから、無理!」
「お前の態度は人として間違ってる!」
「いや、俺って人じゃないから」
いつもの如き時間の無駄とも思えるやり取りが続く。
やりとりを諌めたのは、おろおろとした少女ではなく、常に警戒を解かない生真面目な聖職者でもなく、いわば最大の見せ場に尊大なポーズと小難しい応対を要してあった魔窟の最後の敵であった。
「お前たちいい加減にしないか、それとその魔道士らしき男その態度はなんなのだ」
その重き暗き邪悪なる力を乗せた言霊が二人の言い争いをとめた。
「んあ?てめえごときがなに首を突っ込んで来るんだよ。こっちは時間なんだ決まりなんだ、勇者ごっこは今日は終わり。つべこべゆうと消しちまうぞ!」
リファと呼ばれた男は苛立ちを募らせ邪悪なるものに言い返す。
「虫けらの如き存在の者のくせに儂を舐めおって…」
無慈悲で強大な力がリファに向けて放たれる。
「んあ??消し飛べ!…じゃあな、また」
リファの姿は魔窟奥より掻き消え、残されたのは憤慨するばかりの戦士と有益な情報源を失い戸惑う聖女、それと緊張に耐え切れず倒れ込んでしまった聖職者のみとなってしまっていた。