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6.現在

――現在、昼休み

 余は屋上への階段を昇っていた。

 あの“副担”に“源語”で呼び出されたのだ。

 昔を思い出しつつ階段を一番上まで昇り、塔屋の扉を開けた。

 屋上を通り過ぎる風が、余の頬を撫でる。

 そして、余を呼び出した相手は……いた。

 フェンスにもたれ掛かる様にして、こちらを見ている。その口元には微かな笑みが浮かんでいる。


「お呼びですか? 咲川先生」


 余は彼女に歩み寄る。


「よく来てくれたわね、宇都木君。いえ……アルジェダード様」

「……何の用だ?」

「ふふ……久々にお会いしたかった、という理由では駄目ですか?」

「まぁ……悪くはないな。だが、本当の理由は何だ?」

「ええ。主上はこの世界について知りたがっております。そして、貴方が転生した理由も」

「ふん……転生した理由は余にも分からぬよ。最初は主上の意図かとも思っていたがな。しかしどうやらこの身体には、前世世界との“縁 (えにし) ”は繋がっていない様だ」


 死の直後“何か”を見た気がするが、覚えてはいない。

 ま、いつかは思い出すだろうが……


「……やはり」

「ああ。だから、今は一人の“人間”としてこの世界で生きるつもりだ」

「おや、あちらの世界の事については気にならないのですか?」

「今は無い。向こうに帰る術もなければ、“力”も無いしな」


 気にならぬといえば、嘘になるがな。


「そう……ですか」


 彼女は少し寂しげに微笑む。


「本当に、そうでしょうか?」

「……何がだ?」

「例えば“マヤ”について、とか」

「!」


 よもや、マヤの身に何かあったというのか!?

 考えてみれば当然だ。余と関わりがあったと思われる者には迫害の手が伸びる恐れがあった。

 だが……例えそうであっても、今の無力な余には何も出来ない。

 せめて彼女は無事であってほしいがな。


「そうですね。彼女は……おっと、ここまでですね」


 彼女は意味ありげな笑みを浮かべると、俺の背後に視線を向けた。


「……! 麻耶か」


 塔屋の扉の前で、彼女は頬を膨らませて余を睨みつけていた。



――放課後 教室

 帰りのホームルームが終わった。

 帰宅するもの。部活動に向かうもの。

 クラスメートたちは、三々五々教室から出て行く。



 余は帰り支度をしつつ、昼休憩でのアゼリアとの会話を思い出していた。

 彼女が余の前に現れ、そして余をアルジェダードと認識していた……。

 つまり、余の“前世”の記憶は、妄想では無いと確定した訳だ。

 そして、この世界と前世世界は何らかの手段で行き来ができるという事だな。

 前世での死から、どれほど時間が経っているのか? あるいは時間の流れの差異ははあるのか。

 思わぬ邪魔が入ったためにそれ以上聞くことができなかったが、まだまだ知りたい事は沢山ある。

 そして、俺の前に現れた意図も。

 ……もっとも、彼女が素直に答えてくれるとは限らないが。

 何せ今の余は、使徒でも魔王でもない、何の力も持たぬ人の子なのだ。


「ちょっと……話、聞いてるの?」


 と、いきなり耳をつねられる。

 横を見ると、麻耶がムッとした顔をしていた。

 そういえば、さっきから俺に話しかけてたようだな。


「うっ……すまん。考え事をしていた」

「もう……」


 彼女は何かを言いかけ、一つため息をついた。


「もしかして、咲川先生の事考えてるの?」

「いや……」


 正確には、彼女の話した内容についてだが……思わず言い淀む。

 眉間にしわを寄せる摩耶。


「へぇ〜、やっぱり雄介クンも咲川先生の事気になってるんだ〜。男子はみんなそうみたいだモンね〜〜」


 いつの間にか桧山が隣に来てニヤニヤと笑っている。


「ちょっと……水希ちゃん?」


 麻耶が彼女を横目で睨んだ。


「おお、怖い怖い。でもやっぱし同じ女としては脅威だよね〜。美人だし、何よりあのスタイル! 出るとこ出てるし腰は細いしね……」


 段々声が小さくなり、最後は自分の胸のあたりに目を落としてしまった。

 自分の言葉に自滅してしまったか。

 しかし彼女はチラと隣――麻耶の胸――に目をやり、顔を上げた。


「うん、まだ大丈夫」

「ふむ……とはいえ、下を見て安心するのは建設的ではあるまい?」


 余は肩をすくめ……。

 隣で急激に殺気が膨れ上がった。



――廊下

 余は図書室へ向かっていた。そして何故かついて来る麻耶。

 それにしても、さっきは酷い目にあった。顎が痛い。

 ついうっかり桧山に突っ込んでしまったのが運の尽きだ。

 しかもあやつめ、速攻で逃げよったしな。

 とはいえ、今の麻耶の身体も決して悪くは無いのだがな。女らしい華奢な骨格にそれなりの筋肉が付き、それを薄い脂肪層が覆っている。麻耶自身は発達不良だとコンプレックスを抱いている様だが。

 そういえば、向こうのマヤも、スレンダーな肢体であったな。


「……今何考えた?」


 頬をつねられる。

 おっと。ついうっかり彼女の胸を見てしまっていた。


「いや、別に?」

「考えてたわよね? どうせ、咲川先生に比べたらまだ幼児体型よ! 色気も何もないわよ……」


 いつもの覇気が無いな。これではいかん。


「なぁ、麻耶よ。これはこれで良いものだぞ?」


 すかさず彼女の背後に回ると、掌に丁度収まるサイズの小ぶりな柔肉に背後からそっと触れる。うむ。なかなかの感触だ。筋肉の土台もしっかりしているし、何より形も良い。アゼリアの様にボリュームと弾力があるのも良いが、こっちもなかなかだ。


「何事にもバランスというものがある。華奢な身体に大きなモノをつけていても……うぐぉっ!?」

「ななな何するのよこのスケベ!」


 鳩尾に彼女の肘がめり込む。

 一瞬呼吸が止まり、がくりと膝が折れる。

 ……何とか踏みとどまり、跪くのはかろうじて避けれた。

 ま、今となってはつまらぬプライドかもしれぬが。

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