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3.覚醒

――余がこの地上に転生して約十年

 宇都木なる家の長男として生まれ、市井の一少年として子供時代を過ごしてきた。

 その間余の記憶は意識の深層に埋もれたままであり、表面化することはなかった。

 つまり、何の変哲も無い少年時代を過ごしてきたわけだ。

 ……多分。

 断片的に浮かびあがる前世の記憶に引きずられ、言動が麻耶の言うところの“厨二病”じみていたりとか、暇さえあればテレビやアニメ、ゲームの必殺技を練習したりとか、今にして思えば少々……いや、かなり痛いところはあったが……



 転機が訪れたのは確か7歳か8歳の頃。

 余は母親の手伝いで、父の書斎の掃除をしていた。

 ちなみにこの頃、父は何かと忙しく留守がちであった。

 数日前に起きた、とある航空機事故のせいらしい。

 父の会社の社員を乗せた旅客機がオセアニアの島国あたりで行方不明になったという話で、その後処理を行わねばならないとの事であった。

 今思えばその近辺は、余がかつていた世界と“重なって”いた場所に近い所であるが、当時ただの少年だったが故に、何も気にする事はなかった。



 余は押入れの整理を行っていた。

 父が趣味で集めた模型やら漫画やらを整理していると、古ぼけたパソコンの箱が出てきた。

 母によれば、どうやら結婚前に使っていたモノらしい。

 興味本位で箱を開けてみると、パソコン本体とともに何枚かのフロッピーデイスクが出てきた。

 ゲームか何かか? と、期待して見てみると、ラベルには手書きで『魔王戦役』なるタイトルが書いてある。

 メジャーなゲームじゃなかったので少々がっかりしたものの、そのタイトルには何か惹かれるものがあった。早速、母にこれをもらっていいかとたずねてみたところ『使ってないみたいだから、いんじゃない?』との返答をもらった。

 余は手伝いを終えると、早速パソコンを部屋に持ち帰り、起動してみた。

 これより少々新しいタイプのパソコンが学校にあり、何度か触ったことがあったおかげでなんとか起動に成功した。幸運な事に、中身はまだ健在であったのだ。

 早速ディスクを入れてみると、無事ゲームが起動出来た。

 先刻の『魔王戦役』とやらは、RPG作成ツールによって作成されたデータであるらしい。

 つまり、誰か――おそらくは父――が作ったモノだろう。

 それを見てしまっていいのか? と少々気になりはしたが、好奇心に負けてデータを開いてみる。ヴェルザンドなる勇者が王の命で旅立ち、魔王ユーリルを倒すという、まぁ良くあるタイプのゲームだ。

 それよりも……ヴェルザンド? ユーリル? 聞いたことがあるような、ないような……

 その名には、少々引っかかるモノがあった。

 そして余は、急かされるようにゲームを起動し、プレイを始めた。



――三十分程のち

 玄関で人の声がした。どうやら父が帰ってきたらしい。

 しかし余は、ゲームに夢中であったため、さして気にはしていなかった。

 母と話していた父が、突然大声を上げ、階段を駆け上がってきたのはそのすぐ後であった。


「雄介!」


 荒々しくドアを開いた父が怒鳴る。


「な……何!?」


 突然の事に当惑する余。優しい父がこんな声を上げるのを聞いたのは初めてだった。


「ああ……」


 画面を見て、固まる父。

 そして余の肩に手を掛け、


「何してるんだ! それを触るんじゃない!」


 荒々しく引き剥がした。


「えっ!? うわっ!」


 余はバランスを崩して椅子ごとひっくり返り、タンスに頭をぶつけた。

 その瞬間だ。

 余の脳裏に、膨大な記憶が流れ込んできた。

 1万数千年にも及ぶ膨大な情報量は、当時の余の発達途上の脳では処理仕切ることはできず、そのままフリーズしてしまったのだった。

 倒れこみ、そのまま動かなくなった余。

 その有り様を目の当たりにし、我に帰り蒼白となる父。

 そしてそこに母親が駆けつける。


「何してるのあなた!」


 これまた珍しく激怒した母が父を怒鳴りつける声を遠くに聞きつつ、余の意識は闇に飲まれていった。



――どことも知れぬ場所

 どれほど時間が経ったのであろうか?

 目覚めた余の目に映ったのは、白い天井であった。

 転生後の余の部屋のものではない。ましてや、転生前のものでも。

 周囲を眺めてみる。

 周囲に柵がある、パイプベッドらしきものに寝かされていた。

 その傍らにはテレビが乗った棚。そして壁から伸びたコードとオレンジのボタンがついた棒状のモノ。

 どうやらここは、病院のベッドの上であるらしい。

 それにしては、騒々しいな。

 ふと隣に目をやると、俺の両親、そして摩耶の姿が目に入った。


「……!」


 それを一瞥し、余は再び目をつむり、寝たふりをした。

 ……正座して母と摩耶から説教される姿は、息子には見られたくないだろうしな。

 そうして待つこと十分ほど。

 ようやく父が解放されたところで、余は再び目を開けた。


「ゆうちゃ〜ん! 良かった!」


 俺に抱きつく摩耶。


「ちょっ、まっ、苦しい!」


 あやうくもう一度あの世に戻る所であった……



――数日後

 その後の検査で、特に異常無しとの診断を受けた余は、程なく退院した。

 退院後、早速父に頼み込んで、あのパソコンとソフトを譲り受けることができた。

 流石に黒歴史ゲームを欲しいと言われ、父は渋い顔をしたものの、余を入院させてしまった後ろめたさから、最終的に首を縦に振っのだった。

 父に聞いてみたところあのゲームは、高校生の頃に趣味で作ったモノらしい。中学生だった頃によく見た夢が元ネタだったそうだ。父にとっては中二病時代の黒歴史であった為に、誰にも見られたくはなかったとの事だ。

 当たり前か。余であってもそうなるだろう。

 しかし、当時メーカーでやっていたコンテストに応募したところ、審査員特別賞をもらってしまった為に捨てるに捨てれなかったとか。

 ふむ、夢か。

 余も前世の記憶に目覚めるまでは、時折前世世界の夢を見ていた。

 おそらくは父も、転生者なのだろう。もしかしたら父のゲームを激賞したという審査員もそうなのかもしれない。

 そうだ。

 そこで思いついた事がある。

 もしかしたら、余や父と同じ様にこの世界に転生した者がいるかもしれん。そういった者たちならば、アストラン――前世世界の言語では、単に大陸という意味だが――を舞台にしたゲームをプレイしたら、前世のことを思い出す可能性がある。

 ふむ。

 面白い趣向を思いついた。

 もしかしたら前世世界の、余が死んだ後の情勢を知る事ができるもしれない。

 ゲーム画面を眺めつつ、余はニヤリと笑った。


「ねぇゆうちゃん、その顔悪役みたいだよ」


 摩耶よ……痛い所を突いてくれるな。

 いや……いっそ魔王みたいと言ってくれぃ。

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