目覚め
リビングの方から光が差している。先生、カーテン薄いんじゃないの。大丈夫なのか、これ。明るすぎて目が、目がああああ。先生の布団の中でもそもそと動きながら某ジブリの名台詞を頭の中で叫ぶ。楽しい目覚めだ。先生の腕時計に目を向ける。昨日眠るときに持ってきて枕元に置いた。時刻は午前11時29分。かなり遅い。おはよーではなく、おそよーの時間だ。
久々に、本当に久々に安心して寝ることができた。そういえば、風呂に入っていないし、風呂の場所を把握していない。昨日は入って先生とリビングにいた状態からどう殺すかを考えて実行に移すので精一杯だったからなぁ。どうせ、構造的に玄関の横とかなんだろうなぁ。
頭の中で考えながら布団から出る。イモムシの動きと尺取虫の動きを混ぜ合わせた動きでのそのそ動く。本当、素晴らしい朝、素晴らしい目覚め。もう昼だよという頭の中の言葉は完全無視だ。
フローリングは微かに血の匂いがする。風呂に入る前にもう一回掃除をしよう。今着ている服を脱いでそれを雑巾にすればいいや。ぐるりと家を見回す。そして服を脱ぐ。
気に入っていたポロシャツは彼の返り血を浴びていた。さっさと濡らし、床を拭く。ついでに壁も拭く。今日、ペンキ買いに行って壁の色を白く戻さないとなぁ。床はワックスをしようか。ドアに付いた血は全て拭いたし、寝室の方には血はついてない。ただし、まあ、あれだ、なんだろう、血のついた服で、尚且つ生乾きというコンボで寝たから布団はやばい。なんで、服を脱いで寝なかったんだ自分!
よし、風呂に入ろう。床を拭いたポロシャツをキッチンの流しの中に放置し、廊下に出る。左側にドアがあるのを昨日確認したんだ、やっぱりあるね。躊躇なく開ける。右を見る。多分トイレ。横にスライドするドアを開ける。よし、またビンゴ。
目の前は洗面台と洗濯機がある。左側が風呂か。風呂のドアを開けた。結構狭い。バスロマンなのか何なのかわからないけど、とりあえず何らかの入浴剤の匂いがする。やまもん、そんなに女子力高くてどうするんだよ。私なんかシャワーだけだったぞ毎日。あ、だから彼は毎日いい香りしたのか、なるほど理解。隣に来るとドキドキするような香りとか、女子力高すぎるだろう最強か。
待て、こんな事を考えるのは風呂の中でもできる。よし、シャワーしよう。しかし、お風呂に浸かるの嫌い。怖いもん。でも、一ヶ月に一回はこの入浴剤を入れて入ろう。そしたらいつまでもやまもんの事覚えておけるし、いつまでも一緒だ。やまもん、可愛いわー。そして、もう、先生とかいう敬称は面倒くさい。私が以前から使ってる愛称でいいだろう。あー、やまもん可愛い。マジ可愛い。天使だよ。自分気持ち悪っ。
パンツを脱いで、洗濯機に放り込む。靴下とズボンもだ。髪の毛を結んでいたゴムを洗面台の端に置き、洗面台の棚を見つめた。メガネはしてるが、そこまで視力が回復しているわけではなく、見にくい。鏡に水垢は付いておらず、綺麗だ。左から順にコップに突っ込まれた歯ブラシ、歯磨き粉、ひげそり、替えの刄が置かれている。流石に刄は危ないからビニールに入ったままだ。几帳面だなぁ本当に。そうだ。風呂に入らないと。風呂場も同様にかなり片付いている。シャンプーは…なんだろうこれ、シャンプーって書いてるけど、見たことない。リンスも置いてある。本当、女子力ハンパないな。私、メリットだぞ!リンスインシャンプー最高!でも、散髪屋のお姉さんが言ってたな。リンスインシャンプーが一番髪に悪いって。そして私の髪の毛散々ディスったな。嫌な記憶だ。すぅっと深呼吸をする。綺麗な風呂場のいい香りがする。
風呂の壁のタイルにくっついたカゴの中には石鹸がある、ボディーソープもある。シトラスオレンジだ。これは私も昔使ってた。かなりいい香りがしてキレイになる。壁に細いラックがある。ボディタオルと顔を洗う用であろう、もこもこのネットのようなものがある。
シャンプーやリンスの入っているかごの中に小さなボトルが入っていた。薄いピンク色をした液体が入っている。ラベルには洗顔用ソープと書かれてある。石鹸で顔を洗わないんだなぁ。めんどくさい。まあ、いいや。このベタベタする不愉快な体をさっぱりさせよう。