調理
キッチンは綺麗にされている。さすが先生A型、素晴らしい。私の理想通り。
あまりにも理想に近いため夢に思える。まさかとは思うが、夢オチ。それは最悪だ。また先生を殺さないといけなくなる。二回も殺されるのは嫌じゃないのだろうか。私は先生じゃないからわからないが、もう一回殺してもいいならもう一度殺したい。若干不安になりそっと自分の頬を包丁で切る。痛い。だからこれは夢じゃない。そう信じることにした。
キッチンはまな板を置くと小さく見えた。捌けるかどうかが不安だが頑張るしかない。愛さえあれば問題ない、きっと。
まな板の上に彼の腕を乗せる。切りやすいように骨に沿って肉を捌く。こういう時に、資格を持っていてよかったと思う。調理師免許、なんてちょろい資格だ。
普通の包丁では切りにくい先生の腕。大量に出てくる血と腕の脂、筋肉や筋は相当だ。顔に血肉が飛んできた。ゾクゾクする。数十分前までは生きて喋っていたものが私によって殺されてそして捌かれている。また、快感が体中にめぐる。そっと顔についた血を舐めてみた。生臭い。とてつもなく生臭い。しかし、山田先生だ。私は包丁を流しに浸けて、持ってきていた包丁を軽く濯いだ。
捌いた彼の肉は美味しく頂くことにした。冷蔵庫の中から塩コショウを出して肉に全体的にふりかけた。包丁の背で肉を叩き柔らかくする。もう一度振りかける。私の家と同じ塩コショウだ。やっぱり、これの味がいいよね。
冷蔵庫に片付けるついでに、先生の見開いたままの眼球も二個抉り出した。ぐちゅっという鈍い生々しい音より、丸い球体が先生の頭蓋骨より私の指、スプーンを経て取り出された。眼球を取り出す作業というのは、想像以上に難しいんだ。一回、死体の解剖をしてみるといい。分かるから。抉り出した眼球は未だ神経が繋がっている。それを引っ張り出したまま、またキッチンに戻った。包丁があれば多分神経も切れるはずだ。一回手を洗わないと。血でぬるぬるしている。これでは包丁を持っても私が危ない。怪我とかしたくないからね。念入りに手を洗わないと血はなかなか落ない。ついでに包丁も洗う。綺麗な包丁で眼球の視神経を切った。眼球を抉り出すよりは簡単だが、結構硬い。両目とも切り、またキッチンまで行く。フライパンを下棚から出して軽く濯いだ。モノを見つけるのって結構容易いよね。まあ、ストーキングしてた家だからっていうのもあるんだけど。とか、なんとか思いながら、フライパンを火にかけて水気を飛ばす。油を探している間に水分が飛んでいった。
見つかった油はおそらくお中元でもらったものだろう。消費期限が危うい。少し多めにフライパンに入れる。捌いた肉をいれ、蓋を探した。ジューっという音と肉の焦げる匂いがする。牛や豚と違って匂いが変だ。急いで換気扇を回し、見つけた蓋をした。眼球を流水で洗い、フライパンに投入してみた。肉はいい感じの色になっている。私はしっかりと焼いた肉が好きだ。ひっくり返してもう少し焼こう。
人間のお肉を食べるのは初めてだが一体どんな味がするのだろうか。カニバリズムとはよく言うが、結局動物であることに変わりはない。人肉を食べると、染色体や遺伝子の数が変わるとも言うが本当にそうなのか経験していないから分からない。はいはい、そうですか。そうなんですね。という言葉で終わらせることのできるのは高校数学だけにして欲しい。全ての事象には理由があるんだから、確実な証明の下で答えを教えて欲しい。
焼けたかどうか確認するためにふたを開けた。肉の匂いは食欲をそそる。美味しそうだ。眼球も焼けたのか蒸されたのかいい感じになっている。コンロの火を止めてもう一度冷蔵庫の中を見る。醤油とビールとその他のソース類と梅干や保存食が入っている。殺風景だ。野菜室も見てみた。レタスときゅうりとトマトが少しある。これで付け合せを作ろう。皿はどこだろうか。水切りはあるが食器棚がイマイチわからない。