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続・迷ったら月に聞け5~道  作者:
人世の道
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再会

数日前、炎嘉は蒼から書状を受けて、すぐに地の宮へ猛を迎えにやっていた。そうして、南の砦、炎嘉の今の領地の、宮に到着した猛は、謁見の間の玉座に座る炎嘉の前に膝を着き、頭を下げた。

「炎嘉様。これよりは、炎嘉様を王とお仕えし、お役に立つよう精進して参りまする。」

炎嘉は、微笑して頷いた。

「よう来たの、猛。主はまず、他の神との交流を覚えねばならぬだろうから、最初は戸惑うことも多かろう。だが、主の気質であるならすぐに慣れる。ここはいろいろな場所から来た者達ばかりだ。つまりは、皆よそ者だった者達。気負うことはないゆえの。」と、隣りに控える初老の軍神に頷き掛けた。「そういうわけで嘉楠(かなん)よ。頼んだぞ。」

嘉楠は、頷いて頭を下げた。

「は!」

炎嘉は、猛のほうを見た。

「これは、ここの筆頭軍神の嘉楠。我がまだ鳥の王の時から仕えておってな。延史という筆頭軍神も居ったが、あれは老いて亡うなった。これの老いが極端に遅いので、未だこうして仕えてくれておるのだ。そうそう、月の宮の筆頭軍神である嘉韻が、これの息子であるのだぞ。」

猛は、両方ともの名を聞いたことがあった。擦り切れるほどに読んだ、陽蘭から貰った神世の軍に関して書いてる巻物に出て来る名だったからだ。

「おお…まさか、嘉楠殿にお会いすることが叶うとは。我は、その名を何度巻物の中に見ておったことか。」

炎嘉は、微笑んだ。

「あの擦り切れてぼろぼろになっておった書か。なるほどの。これは良い軍神であるしな。これからよう学ぶが良い。」

嘉楠が、立ち上がって猛に頷き掛けた。

「こちらへ。主の宿舎へ案内させよう。それから、訓練に参加するが良い。任務は、それから振り分けて参る。」

猛は、緊張気味に頭を下げた。

「は!」

そうして立ち上がると、猛の身長はゆうに二メートルを越えていた。見上げるような軍神に、炎嘉は頼もしさを感じつつ、嘉楠について出て行くその後ろ姿を見送ったのだった。

そこへ、今の筆頭重臣である史銀(しぎん)という鳥の血族の男が進み出て膝をついた。

「王。使者が参りましてございます。」

炎嘉は、そちらを見た。

「何ぞ?」

今は、ついぞ神世に事件などというものは起こらない。全て、維心が一人で抑えてしまっているし、その上炎嘉も龍としてついているからだった。逆らっても、無駄だと分かっているのだ。

「この書状を、鷹の宮より。」

炎嘉は、驚いた顔をした。鷹。箔炎とは、かなり前に再会して、それからあちらが引っ込んでしまって出て来なくなったので、会うこともなかった。元々、生きているとも知らないほど交流がなかったのだから、それが箔炎の望みならと、炎嘉も維心もあえてこちらから連絡を取ることもしなかった。なので、あれから数百年、生きているとは思えなかった。あの時でも、既に1500歳を越えていたのだ。一度死んだ炎嘉や維心と違って、箔炎はずっと生きていたのだから、もう死んでいてもおかしくはなかった。

炎嘉は、恐らく残った臣下達か、それとも箔炎の後継が、世に関わって来ようと考えておるのかと、その書状を開いた。

中には、次の神の王の会合に、出ようかと思うので場所を訊ねること、それに、事前に炎嘉への目通りを求めることが記されてあった。

「ふむ、鷹の。まあ良い。知らぬ仲ではないからの。その使者を通せ。」

史銀は、頭を下げた。

「は!」

赤い毛氈の向こう、開かれた戸を抜けて、その使者はゆっくりと歩いて来た。炎嘉は、息を飲んだ…まさか?

「久しいの、炎嘉。」金髪金目の、背の高いその男は言った。「そうしておるのは、ほんに久しい。まるで鳥の頃のようよ。」

炎嘉は、思わず立ち上がった。

「箔炎!」そして、慌てて玉座から降りて駆け寄った。「何と、主、使者などと。王だと言えば良いではないか!相変わらず、そのような体裁だけは気にせぬのだから!」

箔炎は、全く老いていなかった。変わらぬ風貌で、ふんと笑った。

「いくら待っても死なぬしの。こうして出て参った。あの頃の維心と同じ…我は今、1800歳よ。」と、隣りに緊張気味に立つ、同じように金髪金目の青年を見た。「これは、箔翔(はくしょう)。我の跡取りなのだ。」

箔翔は、炎嘉に頭を下げた。

「箔翔と申しまする。」

炎嘉は、まじまじと箔翔をと、見つめた。

「お…ついに、主も観念して妃を迎えたのか。あの、女っけのない宮に、女が。」

箔炎は、面倒そうに手を振った。

「何を言うておる。妃などおらぬわ。これは、我が適当に通うた女の誰かが産んだ子よ。同じ女には二度は通うたことはないからのう。顔も覚えておらぬが、これが生まれた時にその女が死んだらしゅうて、向こうが困ってこちらへ連絡して参ったのだ。それで、知った。間違いなく我の子であるのは気を見てわかったし、男であったからの。」

炎嘉は、それが神世で許されることではないことは分かっていたが、恐らく相手は、妃になりたいとも言えないような身分の女だったのだろう。それを選んで、わざと箔炎は通ったのだ。そんな風に女を物のように扱うのは、幼い頃から母を蔑み、ついには殺したほど憎んだその経験からなのだとは、知っていた。しかし、炎嘉は言った。

「箔炎…そのようなことをまだ言うておるのか。もう、良いではないか。女は、何も主の母のような者ばかりではないぞ。知っておろう。」

箔炎は、険しい顔をした。

「知っておる。それに、我の好みに合うような女が、そう居ないのも知っておる。」と、ふいと横を向いた。「…維月も、転生しておるであろうが。」

炎嘉は、驚いた顔をした。知っているのか。そうか、引きこもっては居ても、情報は入って来ると言っていた。ずっと、ここ数百年のことも知っているのだ。

「箔炎、まさか主、まだ維月を?それなのに、引きこもっておったのか。」

箔炎は、炎嘉を睨んだ。

「どうせ手に出来ぬ女ぞ。接触する回数が増えれば、我も押さえが利かぬようになろう。つらいだけよ。龍の宮や月の宮では、我は密かに忍ぶことも出来ぬしな。しかし…ここは別ぞ。」

炎嘉は、箔炎が何を言いたいのか分かった。自分が、維心の手助けをすることの引き換えに、維月を年に一度こちらへ来させることを、箔炎は知っているのだ。それが、これからは半年に一回になるが、それは言わないほうがいいだろうと炎嘉は思った。

「粘り勝ちということよ。我は耐えたしの。」炎嘉は、話題を変えようと手に持ったままだった書状に視線を落とした。「して、主はまた会合に出て参るのか。あれほど神世に関わらぬと言うておったのに。」

箔炎は、頷いた。

「我は良い。だが、これはの。」と、箔翔を見た。「何も知らぬ。これではならぬからの。我とて、いつ老いが来てもおかしくはない歳になった。老いが来なかった維心でも、1800歳で一度逝ったというのに。これが王座に就いた時、何も知らぬでは済まぬ。なので、これからいろいろと神世に関わらせ、鷹族がどうするのか決めさせようと思うておる。我のように潜んで過ごすのも良し、他の宮と交流して過ごすのも良し。こやつ次第よ。」

炎嘉は、箔翔を見た。相変わらず、固い表情で立っている。炎嘉はため息をつくと、頷いて促した。

「では、こちらへ。臣下に詳しい会合の日程など記させようぞ。参れ。」

そうして、炎嘉は箔炎と箔翔を連れて、そこを出て行ったのだった。


兆加は、龍の宮の筆頭重臣だった。

前世の五代龍王であった維心の下でも仕え、そして六代龍王、将維にも仕え、そのあと転生して来た七代龍王となる今の維心にも仕えている、臣下の中でも何でも知っている重臣だった。

その兆加は、相も変わらず里帰りした妃を追って、月の宮へ突然に行ってしまって数日、とても困っていた。何しろ、今度の神の会合は、この龍の宮で行う番で、それがもう、一週間後に控えている。まさかそれまでには戻って来るかと思うが、維心に限っては分からなかった。何しろ、五代龍王だった時に比べて今の維心は同じ維心でも違った。前世では、こういう公の行事などには、必ず出席していた維心が、今生は突然に断る、つまりはドタキャンをすることが多かったのだ。

確かに維心一人が出なくてもいいと言えばいいのだが、龍王が来ないとなると、他の宮の王達も、ではこちらもと欠席するようになるかもしれない。そんな、神世の乱れは兆加としては避けたかった。

しかし、維心はそんな兆加の気持ちなど何処吹く風で、維月維月と何を考えるのもまずは妃のことだった。

そんな維心を諌めるのが維月なのだが、維月自身がこうやって時々に月の宮へ帰ってしまうので、そうなると困ってしまった。前世の維心の方が、暗く影があったような雰囲気でとっつきにくかったが、今は時々に駄々っ子のようになってしまうことがある。こちらが言うことにも、横を向いて拗ねてることも時にあったのだ。維月が居ないと、それは苛々するようで、こちらの話もあまり聞いていない時があった。

兆加は、龍の宮でため息をついた。

そこへ、炎嘉から書状が届いた。兆加は慌てて使者を待たせたまま、その書状を開いた。

『此度の会合、鷹も出席するため、準備をせよ。』

いろいろと書いてあったが、要はそういうことだった。兆加は、驚いた…鷹。確か、もうかなり前に神世から姿を消して潜んで出て来なかったのに。これは、どうしても王にお帰り頂かなくては…。

兆加は、慌てて月の宮へと書状を送った。

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