騎馬戦2
蒼は、こちらへ向かって来る二人に身震いした…来たよ来たよ!あ~物凄く怖い顔してる!
「…あれは、必ず仕留めようとしておる時の目よな。」将維が、下で言った。「蒼、あと少しだ!粘るのだ!」
蒼は頷きながらも、ちらと炎嘉と久島を見た。赤も白も、大将を含めて二つずつの騎馬しか残っていない…つまりは、このまま制限時間を迎えても、結局は大将戦で同じ目に合うのだ。
「くっそう!一か八か、やるしかない!」
蒼は、叫んで目の前に迫った維心と腕をがっつり組んだ。お互いに、相手の帽子を取ろうと必死になる…しかし、維心の力は気が使えないなどとは思えないほど強かった。
「痛たたたっ!」
蒼が、思わず手を離すと、維心は、フッと笑った。
「もらったぞ!」
スッと頭上を維心の腕が振り抜けられて、気が付くと、蒼の帽子は維心の手にあった。将維が、悔しげに騎馬を崩した。
「あと少しであったものを!」
蒼は、とてもそうは思えなかった。偶然獲った帽子もあった。いやむしろ、それだけだった。ここまで抗えたのも、ただ運だけだ。
「志心!やつらの騎馬へ!」
維心は、もはや敵ではない蒼達に見向きもせずに志心の騎馬と共に炎嘉達の方へと駆けて行った。
炎嘉と久島は、お互いの腕を中に、ずっと睨みあっていた。どうあっても、帽子へと手を伸ばせない。途中でお互いの組の騎馬が介入して来たが、尽く崩した。今、残っているのは大将のニ騎だけだ。
「しつこいの~!そろそろ諦めよ!」
炎嘉が叫ぶ。久島が叫び返した。
「うるさいぞ!主こその!」
その時、炎嘉がハッとした顔をした。維心が、来る。ニ騎残っておるのか!
久島が、勝ち誇った声を上げた。
「獲った!」
「止め!時間です!」
翔馬の声が、叫ぶ。その瞬間、久島は炎嘉の帽子を獲った。しかし、翔馬の声が言った。
「ただ今の結果、大将を失った白組は4位、赤と紫は、紫が獲ったのですが一歩遅かった。制限時間外でございましたので、数えません。よって、同着として二位。青、二騎で一位となります!」
騎馬戦が終わって、皆まるで魂が抜けたように控えの席に戻って来ていた。人数の都合上、騎馬を組むとどうしても余る三人を除いて、皆がっくりと膝を付いていた。
そんなわけで、大玉転がしには必然的に残っていた三人と、すぐに崩れて疲れていない者達が出て行った。その競技の隙に、義心がスコアボードを見上げて言った。
「微妙な点数でございます。」義心は、眉を寄せている。「ただ今、我ら青は一位。しかし15点。赤が続いて12点。白10点、紫9点なのです。残りの競技を見ても、気は抜けません。」
維心は、頷いた。
「気力を使い果たしておる場合ではないの。しかし、この大玉転がしが終わったら、次は綱引き、そしてリレーぞ。」
義心は、大きな玉をたった一人で必死に転がす競技者達を見た。
「この競技は、恐らく取れませぬ。先ほども、最下位であったし、どうも紫が強い様子。」
維心は、目を凝らした。確かにそうだ。
「…紫、白、赤、青か。」
義心は、頷いた。
「はい。それで青15点、赤13点、白13点、紫14点になる。綱引きを取っておかないと、リレーで簡単に逆転されてしまう恐れがありまする。」
維心は、立ち上がった。疲れている場合ではない。
「よし!行くぞ皆の者!」
そうして、大綱引きも皆、必死にやりあったのだった…結果は、維心が恐れた通り、赤、青、紫、白の順で、点数は、青18点、赤18点、白13点、紫15点と、赤と同点の状態でリレーへと突入することになってしまったのだった。
「最終競技です!」
翔馬が叫ぶ。日は、かなり西へと傾いていた。気が使えないので、皆相当に疲れて来ていたが、このリレーだけは落とせない。走るだけとはいえ、それが一番わかりやすく、難しかった。
「各組10人の競技者のかたがた、前へ!」
蒼も、大概疲れていたが、これに出ないわけには行かなかった。何しろ、タイムを計ったら、この走り慣れない神達の中で、自分は結構速かったからだ。
蒼が立ち上がると、将維も立ち上がった。将維は、全く疲れていないようだった。
「我がアンカーをするゆえ!蒼、主も頑張るのだ。」
蒼は、力なく頷いた。
「ま、嘉韻と明人と慎吾が、走り慣れてるしオレより速いから。特に嘉韻が、めっちゃ速いから。」
嘉韻は、蒼を見た。
「我が先鋒を。王は、その次をどうぞ。」
蒼は、嘉韻を見た。
「頼むよ。ま、頑張るけどね。」
それぞれのスタート位置へと散って行く。これは一周400メートルのトラックなので、アンカー以外は半周するだけでいい。蒼は、久しぶりに緊張するような気がした…学生時代を思い出すなあ。
見ると、アンカーは維心、炎嘉、久島、将維だった。また、すさまじいデットヒートが繰り広げられるんだろうな…と蒼は身震いした。
「日も暮れて参りますので、手早くスタートします。いいですか?位置について。」
突然なので、皆慌てて位置についた。クラウチングスタートだ。維明、嘉韻、嘉楠、久島の宮の軍神、と一列に並んでいる。手には、しっかりとバトンが握られていた。
「用意、」
聞き慣れたピストルの音が響き渡る。一斉に美しくラインを描いてコーナーを曲がって行く。直線に入ると、維明、嘉韻、嘉楠の順でこちらへ向かって来る。昧が、緊張気味に進み出て、駆け出した。皆びっくりした…バトンは?!
しかし、すぐに維明が追いついて来て、その手にバトンを渡す。昧は、前を向いたままそれを受け取ると、一目散に走って行った。
「何ぞ!あの技は!」
久島が叫んだ。あの休憩の間、皆で必死に練習したのだ…バトンパスは、走りながら。人の世では、当然のことだったが、神世ではまだ知られていなかった。
しかし、そこは月の宮も負けては居なかった。
「王!」
嘉韻が叫ぶ。蒼は駆け出して、嘉韻から同じように後ろ手にバトンを受け取って駆け出す。断然、他より速かった。
人だったんだから。
蒼は、思っていた。これぐらいの特技がないと、何のために人だったのか分からないじゃないか。
そんなわけで順調に、青組と白組は他と差を広げながら先を走っていた。久島は、地団太踏んだ。
「くそう!我の組には、足の速いヤツが少ないのだ!」
その言葉の通り、紫は遅れ始めていた。バトンパスも、紫と赤はスムーズには行かないので、どうしてもタイムロスしてしまう。とうとう、最後から二番目、アンカーの手前の選手にバトンが渡った。
「うおおお!!」
猛だ。
走り終えて真ん中で観戦していた蒼は、その気迫に退いた。
「猛!来い!抜いてしまえ!」
炎嘉が叫ぶ。猛は、それこそブルトーザーのように大きな体で驚くほど速く走った。あっと言う間に、月の宮の明人は、猛に追いつかれてしまった。
「くそ!」
明人は、必死にバトンを将維へと繋いだ。しかし、その前をもう、維心がバトンを受け取って走って行く。将維は、その背を見て思った…まだ追いつける!
「まだ行ける!」
「させぬわ!」
その直後に、炎嘉が猛からバトンを受け取って駆け出していた。その後ろでは、久島が叫んでいた。
「早くしろ!いくら我でも、取替えせぬようになる!」
言われた相手は、必死に走っていた。しかし、先頭の維心はもう200メートルに達しようとしていた。
「父上~!!」
将維は、叫んで必死にその背を追った。しかし、前世の父と違い、今の維心は若い。体力も、半端なく強いはずだ。あの当時でも、あの速さだったのに…。
しかし、真後ろで息遣いが聞こえて、将維は慌てて見た。
炎嘉だった。
「主などではない!維心に勝つ!」
炎嘉の目は、薄っすらと光っているように見えた。気が使えないはずなのに、いったい何の力なのかというほどだった。
「くっそう!」
将維は、その速さについて行けなかった。炎嘉は、必死に維心を追っている。将維も、がむしゃらにそれを追って走った…400メートルは、やはり長い。普段から気ばかりを使って飛んでいたことを、将維は後悔した。たまには、体も使わなければ思うように動かなくなるのだ…覚えておこう。
「維心ー!!」
維心は、背後から迫る炎嘉の声にちらと振り返った。炎嘉…もうそこまで来たか!
「させぬわ!」
維心は、スパートを掛けた。足が絡まりそうだ。疲れていたところに、こうして全力で走っているから…。
残り50メートル。
「よし!」
維心が叫ぶ。炎嘉は、必死に追った。あと少し…あと100メートルあれば!
しかし、維心がゴールテープを切った。
そのすぐ後を炎嘉が、そして将維が駆け抜け、しばらく開いて、久島がゴールした。久島は、言った。
「不公平ぞ!次こそは…きっちり能力別に分けてクジを引いて、組分けしてもらうからの!」
維心がぜいぜいと息を上げながら、それでもふふんと笑った。
「まあ、それで気が済むならそうすれば良いわ。しかし、我は負けぬがの。」
翔馬の声が言った。
「ただ今の結果、一位青、二位赤、三位白、四位紫。よって、これを加算しまして」と、スコアボードに点数が現れた。「一位青23点、二位赤21点、三位紫15点、四位白14点となりました!よって、優勝は、青組でございます!皆様、お疲れ様でございましたー!!盛大な拍手をお贈りくださいませ!!」
こちらも疲れて来ていた客席からは、盛大な拍手が沸きあがる。しかし、選手は皆疲れてへとへとだった。とにかく、この疲れを何とかして欲しい。
すると、十六夜の声が降って来た。
《お疲れさん。長いこと疲れただろう。じゃ、気を戻してやるよ。》
途端に、フッと体が軽くなる。蒼は、皆を見て浮き上がった。
「では、出場選手とその親族のかたは宮へ。控えの部屋と、宴の準備がされてある。まずは控えの部屋へ入って頂いて、ゆっくりして欲しい。侍女に案内させよう。」
維心も、浮き上がった。
「ああ、気が戻って体は楽になったが、少し湯を使って着替えて来たいからの。それにしても、走った。」
炎嘉は、自嘲気味に笑うと、同じように浮き上がった。
「ああ。何をむきになっておったのか、我も必死に走ったものよ。だが、心持ちはすっきりぞ。不思議よの。」
久島も、頷いた。
「毎度ながら、戦い終わるとすっきりするわ。全力を出すということが、あまりないからかも知れぬ。」
維心が、ちらと振り返って頷いた。
「全力の。気を全開になどしたら、大変であるからな。たまには、こうして動くのも良い。」
皆、そうして己々の思いを胸に、宮の方へと飛んで行ったのだった。




