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必死

玉は、紅白だった。

赤組の方は赤、青組みの方は白だった。元々、そんなにいろんな色の玉を準備していなかったからだ。

玉は、確実に細長い籠の高い位置にある狭い口目掛けて飛んで行き、中へと入る。蒼は、それを見て感心していた…あんな場所にあるのに、気も使えない神が、確実に決めて来るとは。

維心は元より間違うはずなどないし、義心のアシストは完璧だった。崎も、炎嘉の宮でやった通りに玉を投げ上げ、そして確実に決めていた。義心に教わった通り、筆頭軍神の実玖(みく)にアシストしてもらい、維心ほどではないものの、きちんと外さずかなりの玉を投げ上げた。気が使えないので、体力の回復も出来ない中、汗をかきながら必死の玉入れだった。

…毎度のことながら、玉入れでも鬼気迫る。

蒼は、それを見ながら思っていた。この玉入れには、炎嘉は出ていなかったが、それでも相手である維心のことは、玉入れの間じっと睨むように見ていた。

「止め!」

翔馬が叫ぶ。それと同時に、双方からの玉の雨はぴたりと止まった。翔馬は、得意そうに言った。

「この籠は、自動で玉を数えます。下から、一個ずつ落ちて来ますので、それを数えて参ります。」

言った通り、月の宮の軍神達が進み出て支柱にあるボタンを一斉に押すと、玉が上から一個ずつ落ちて来た。

「1、2、3、4、」

玉のカウントが始まる。フィールド上の維心も、控えの炎嘉も、それをじっと見守った。そして、そのまま残りが少なくなって来て、ついに最後の一個が来た。

「58!赤組、58です!」

しかし、青のカウントはまだ続いている。そして、最後の一個が落ちた。

「69!青組、69です!では、一度控えに戻ってください!」

ここでの玉入れは、一発勝負だ。何しろ、数が多いので、時間短縮なのだ。これで、赤の優勝はなくなった。しかし、この後まだ、白と紫が残っている。これより多くの数を入れたら、それで順位が変わってしまうのだ。

引き上げて行く、青いジャージを見ながら、久島が言った。

「…69よりは多く入れねばな。あの、龍王の鼻を明かしてやろうぞ。」

他の軍神達は、頷いた。

久島は、相変わらず維心に並ぶといわれるほどの、黒髪に珍しい紫の瞳のそれは端整な顔立ちの王だった。神世で維心が容姿、力共に最も優れていると言われてもてはやされていたが、ずっと引っ込んでいた久島が出て来たことで世の意見は二分されたものだ…久島の美しさは、また際立っていたからだ。

しかし、一番人気は炎嘉であった。華やかに美しく饒舌で、そして人懐っこい炎嘉には、誰も敵わなかったのだ。

それはさておき、久島はずっと維心と争って来た。一度維月を巡って対立してから、ライバルのようになってしまったのだ。だが、久島は今はもう、それほど維月維月と追い回しているわけでもなかった。一度死んでしまったときに、思い切ったからだ。転生して来たと聞いた時は、それは嬉しかったものだったが、それでもまた龍王の妃になるのかと、失望してそのときにあっさりと忘れたつもりだった。

だが、やはり維心と戦うとなると、負けられないと思う。維月は譲っているのだから、勝利は持って行かれるわけには行かぬのだ。

久島が位置につくのを見て、蒼は苦笑した。あの真剣な表情。絶対に譲るつもりはないな。

今回は、蒼は出なかった。コントロールに今一自信がなかったからだ。なので、出て行ったのは将維と嘉韻、それに慎吾と明人だった。その他、出たい者を募って、白組からは玉入れに自信のある者達10人が出ていた。蒼は、自分で決めてしまうタイプではない。皆に希望を聞いて、それで回そうと思っていたのだ。

そして、翔馬の合図がした。

「位置について、用意、始め!」

ピストルの音が同時に鳴る。一斉に玉が宙を舞う。蒼は、久島の宮の玉入れの能力に驚いていた。物凄く速い…まるで、白い棒が久島の手から伸びているようだ。連続して投げるので、そう錯覚するほどだった。

そして、その表情はまさに必死だった。玉入れに、どうしてここまでと思えるほど、戦場で立ち合っている時のように集中して玉を投げていた。アシストしている軍神も、それは完璧だった。

しかし、将維も負けていなかった。アシストは、明人。嘉韻のアシストは、慎吾だった。ここでのアシストとは、軍神達が考えた、玉を拾って渡す係のことだ。投げる者は、投げることだけ考えていればいいのだ。

「止め!」

翔馬が叫ぶ。ぜいぜいと肩で息をしながら、久島は手を止めた。将維も、久しぶりに疲れたように息をあげている。

「数えます!1、2、」

どう見ても、久島の白の玉の方が多い。しかし問題は、いくつ入ったかだった。

「60!」と、翔馬は叫んだ。「白組、60です!」

そして、久島の方の籠が空になる。

「71!」翔馬が叫んだ。「紫組、71、よって、玉入れの順位は紫、青、白、赤となりました。」

それぞれの順位で、点数が入る。一位は5点、二位は3点、三位は1点、四位は0だった。

「よし!」

久島が、拳を上げた。いつも因縁の、玉入れで維心に勝利したからだ。維心は、苦々しげに久島を見た。

「やりおったの!しかし、次はこうは行かぬ。」

赤組控えでは、軍神達がバツが悪そうに炎嘉を見た。

「申し訳ありませぬ、炎嘉様。」

しかし、険しい顔をしていた炎嘉は、ふっと笑った。

「ああ、良い良い、こういうこともあるわ。まだ次があるゆえな。案じるでない。遊びというて、気を抜いたわ。我も本気を出さねばの。」

炎嘉にまで、火がついた。

蒼は、遠めにそれが見えて、荒れなければいいな、と密かに思っていた。


二人三脚は、相変わらず月の宮が強くて白組が圧勝だった。こういう協力し合う競技は、ダントツで月の宮は強かった。続いて炎嘉の赤組が続き、そして、青組、最後が何と紫組だった。やはり、単独で動くには強い宮でも、共同作業は苦手らしい。

久島が相当に悔しがったところで、初めての競技、ビーチフラッグが来た。

これは、四人並んで50メートル先にあるマットの上に立てられた旗を先に掴んだ者が勝ち。10組走って、一番勝利者が多い順番に順位を付ける。維心は、言った。

「志心!主参れ。絶対にこれは、主が強いはずぞ!」

志心は、苦笑した。

「確かに我はすばしこいがの。して、他はどうするのだ。」

義心が、さっきの100メートルの記録を見ながら言った。

「維明様と箔翔様、大変にタイムが良いので出て頂きまする。王も、先ほどから出てばかりで恐縮ではありまするが、出場を。我も出まする。それから、崎様、昧様、軍神、礼牟…」

義心が言う。呼ばれた順に、出て来る。維心は、頷いた。

「行くぞ、皆。ここで、一気に得点を増やしておかねば。後が追い詰められるからの。」

そうして、選抜された10人は、維心を先頭にフィールドへと出て行った。皆、緊張然りの顔つきだった。


観客席では、維月が相変わらず麗羅と並んで座っていた。その隣りは、重臣筆頭の采という男なのだといろいろ話していて知った。維月の反対側の隣りは、Bランクの格の宮の皇女が座っていた。月の宮では、神の格付けが良く分からないので、ここだけの呼び名を決めてランク分けをしているが、Sランクが龍の宮や月の宮などの力の最も強い王が治める宮で極少数、次にAランクで10ほどの宮々、その下に何十ほどのBランクが続き、他は皆、下位の宮としてまとめられていた。神世では同じように格で分けられてはいるが、こんな呼び名はない。それでは、人の世から来た者達には分かりづらいので、月の宮に限りこうして呼んでいた。

その皇女の名は、咲華(さきか)と言った。今回は父と兄が出ているのだという。

「ああ維月様、我の父が。」咲華は、歩み出て来た青いジャージの一団を指した。「あの、一番後ろから二番目でございまするわ。」

父と言っても、結構若い。神世では、老いが止まったりすることもあるので、歳は見た目では判断できなかった。

「まあ。では、あれが(まい)様?ビーチフラッグに出られるのね。」

言ってしまってから、維月はまた面倒な種目に、と眉をひそめた。何しろ、これは一発勝負であるうえに、個人種目。他の組の三人と戦って、たった一人しか勝利しない過酷なルールだ。例え二番目に到達したとしても、旗が取れなかったら0点なのだ。

「父は、とても走るのが速いのですわ。こちらから当選の通知が来た時に、宮で皆で試しに気を使わずに走ってみたのですけれど、父はそれは速くて。皆驚いておりました。」

だから、選ばれたのか。

維月は思っていた。でも、これは大変だわ…維心様、他のかたに余計なプレッシャーを与えていなければいいけれど。

維月がそんな心配をしながら見ていると、列に皆が並び始めた。維心は、第一組だ。炎嘉も居るが、第三組辺りに見える。第二組は青は志心だった。しかも、久島と同じ組だった。その上、将維まで居る…維月は、身震いした。どうか、誰も怪我なんかしませんように。

すると、横に居る咲華が、ため息を付いた。

「まあ…とてもお美しいこと。青組の、あれは、どなたかしら?」

すると、こちらから麗羅が言った。

「まあ、あなたもそう思われまするか?あの四番目に居られる黒髪のかた?」

咲華は、首を振った。

「いいえ、それは維明様でしょう。その後ろの組のかた。金髪の…ほら、今維明様とお話なさっておるかたよ。」

維月は、そちらを見た。麗羅が、同じようにそちらを見てため息を付いた。

「ああ、本当に。後ろにいらっしゃったから、よく見えなかったわ。維月様、ご存知でいらっしゃいますか?」

維月は、頷いた。

「ええ。あれは、箔翔殿。鷹の宮の皇子よ。維明の友で、今龍の宮に滞在していろいろ学んでおるところ。箔炎様がこれに出ないとおっしゃったので、せっかくだからとこちらの代表として出ておるの。」

咲華が、嬉しそうに笑った。

「ああ、維月様とお隣に座れてよかったこと。あの、維明様はまだ…その、妃は探しておられぬのですか?」

維月は、苦笑して首を振った。

「本人に任せておるから。なので、あの子が良いと申すなら今すぐにでも良いのですけれどね。」と、まだ何か話している維明の方へと視線を向けた。「あの通り、父君に似ておるから。政務や軍務にばかり一生懸命で。でも、この後の宴などで話す機会があれば、また仲良くしてやってくださいませね。」

咲華は、顔を赤くした。自分から言い出したものの、こんなことを母君に自分から言ったのが、嗜みがないと思われたかと思ったのだ。しかし、維月は微笑んでいる。特に気を悪くしたのではないようだ。

何しろ、維月はこの運動会を無理にでも開いた始めを忘れてはいなかったからだ。皆、勝ち負けばかりで必死になって忘れているが、そもそもは箔翔に他の女に目を向けさせようと考えて、こうして皇女をたくさん引っ張り出す企画をしたのだ。あんな風に美しい容姿の箔翔が、皇女達の目に付かないはずはないのだから。

そうしている間に、第一組がスタートラインについた。

皆、固唾を飲んでそれを見つめた。

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