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練習

今日も五人で訓練場に設えられた俄か仕立ての競技場で、運動会の鍛錬を終えた維心は、皆と自分の居間で寛ぎながら、言った。

「何でも、炎嘉様は宮に下位の参加宮の王達を招いて、そこでいろいろと鍛錬させておるのだと聞いておりまする。」

義心が言うと、維心は眉を寄せた。

「ふん。あやつは、あまり興味もないと気が進まぬ風であったのに、結局はそうして皆の力を測っておるのだろう。維月を賭けるとは言い出さぬかと、気が気でないわ。」

すると、維月が首を振った。

「またそのような…維心様、炎嘉様をそのようにおっしゃってはなりませぬわ。きっと、何も知らないまま競技に参加させるに忍びないと思われて、教えていらっしゃるのでしょう。炎嘉様は、とても世話好きのかたでございまするから。」

維明が、それには頷いた。

「はい、母上。我が見て参ったところによりますると、そのように。皆、炎嘉様に不安であるからと泣きついたような形であるようでございます。」

やっぱり、と維月は頷いた。

「やはり…とてもお優しいかただから。」

維心が、面白くなさげに横を向いた。

「あやつは昔からああよ。何の得になるのかの。」

維月は、苦笑した。子供というか、前世からこういうところは変わっていない。炎嘉とは、何かにつけて張り合うのだ。しかし、それでも親友であることには変わりはないようだった。なので、それ以上維心は何も言わなかった。

義心が、新しい巻物を皆の前に開いた。

「では、競技のプログラムが出来たと書状が参りましたので、お知らせを。我らの組は、青。他六つの宮と同じ組でございます。」

維心が、慌ててそれを覗き込む。維月も、横からそれを見た。月の宮は白、南の領地の炎嘉の宮は赤、久島の宮、(からす)の宮は藤色のような紫だった。そして、その下にはそれぞれ六つの宮がエントリーされていた。

「…やはり、久島とは離れたの。」

それには、義心も維月もホッとしたような顔をした。同じ組などになったら、きっと団体競技の時は大変だからだ。プログラムは、こうなっていた。


『1.玉入れ

2.二人三脚

3.ビーチフラッグ

4.借り物競争

 お昼休憩

5.騎馬戦

6.大玉転がし

7.綱引き

8.リレー

※終了後宮にて宴席が設けられますので、ごゆっくりお過ごしくださいませ。』


それを見た維月は、これは午後から荒れるな、と思った。騎馬戦とリレーが、どれほどに白熱するのか、前世の記憶で知っている。しかしそれよりも心配なのは、今回から入ったビーチフラッグと借り物競争だった。神がそんなことをしているところを見たことがないので、どうなるのか予想もつかない。何しろ、玉入れさえもかなりの殺伐とした雰囲気で行なうような面々なのだ。月の宮の嘉韻は、玉入れというものをその時初めて見て、玉入れは一瞬のミスが命取りであることを知らせる奥深い競技だと思ってしまって、未だにそう思っているほどだ。

維明も箔翔も、未だ気を使わずに競技をやり終えたことがない。実際の競技中は、十六夜の結界内なので、十六夜が気を使う能力を神達から押さえて取り上げてしまうので、使いたくても使えないのだが、ここは龍の宮。そんなことは出来ない。なので、駄目だと思いながらも、土壇場になるとつい気が無意識に出てしまうのだ。そこは、義心も維心もしっかりしていて、己を律してきっちり体力だけで勝負していた。

維明は、ため息を付いた。

「…本当に、我は気を使わずで皆より速く駆け抜けることが出来るのでしょうか。不安になって参りまする。」

箔翔が、横で同じように暗い顔をして頷いて、維明に言った。

「それは我とて同じ。どうあっても、土壇場では気に頼ってしまう。あれを、最後まで己の力でやり遂げねばならぬのだからの。」

維心が、ふふんと笑った。

「実際に気を押さえつけられてみたら分かる。最初は体が鉛のように感じる。普段、意識をしておらぬところで、我らがどれほどに気に頼っておるのか分かることよ。普段から、体を鍛えておる者であったらその限りではないのであろうがの。我など、ほとんど気に頼っておったから。」

しかし、義心が横から言った。

「王は、大変に優れておられたではありませぬか。あの久島様も、大変に悔しがっておられたもの。此度も、楽しみでございまするな。」

維心は、笑った。

「おお、あのような爺に我は負けぬぞ?転生して、我は前より若いのであるから。少しハンディをやった方が良いのかもしれぬぞ。」

不安そうな二人と、楽しげな残りの三人を見ながら、維月は当日、どうか皆無事で終わりますように、と思っていたのだった。


炎嘉の宮では、一通りの競技を皆で練習し終えて、ホッとしていた。ここ数週間、皆で必死に中庭に競技場を自身らで描いて、教えられるままに頑張った。それが、案外に面白いと、まだ若い、下位の宮の王達はよくはしゃいでいた。

炎嘉は、それを見て安堵した。これで、こやつらも心のつかえが取れたようよな。

数百の下位の宮々の中から、たった五つだけ選ばれていた宮の王達とその軍神達は、炎嘉の前に膝を付いて頭を下げた。そして、崎が代表して言った。

「炎嘉様。此度は本当にありがとうございました。これで、我らも安心して月の宮へ向かうことが出来まする。組は別れても、我ら炎嘉様の組も応援いたしておりまするので。」

炎嘉は、笑った。

「そのようなことをして、崎。主は青、維心の組であろうが。維心に睨まれるぞ?よい、これは遊びなのだ。気楽にしておれば良いのよ。結果はどうあれ、楽しむことが一番ぞ。それは、ここで皆で試しに戦ってみて分かったであろう?」

崎は、頷いた。

「はい。しかし、我は同じ組の神のためにも、全力で戦いまする。」

炎嘉は、頷いた。

「おお、楽しみよな。我と同じ組なのは、麗鎖か?」

麗鎖が、進み出て頭を下げた。

「は!」

炎嘉は、頷いて傍らの猛を見た。

「猛から聞いたぞ。大層走るのが速いらしいの。我の組のリレーの人選、どうしようかと悩んでおったが、主も入れておこうと思う。宮に返ってもバトンパスの練習をしておけ。」

麗鎖は、顔を赤らめて深々と頭を下げた。

「は!仰せの通りに!」

炎嘉は、満足げに猛を見た。

「それにしても、猛は大したものよな。主、気を使わずとも生きていけるのではないか。」

猛は、恥ずかしげに下を向いた。

「は…元は、熊でありまするし。我は、気を使わずに動いておった期間の方が多いのでありまする。王にお教えいただくまで、飛ぶことすら知りませなんだゆえ。」

炎嘉は、そうだった、と思い出した。猛は、神格化してからも、気の使い方を知らなかったのだ。

「ふーん。主も我が宮代表に入れておいてよかったことよ。」と、にやりと笑った。「…維心め。いつも一人勝ちしておったが、此度はそうは行かぬやもな。将維も月の宮であるし、我はここ。あれはチームワークがからきしなのだ。楽しみなことよ。」

崎達は、頭を下げた。

「それでは、お暇致しまする。また、一週間後に月の宮でお会いいたしましょう。」

炎嘉は、頷いた。

「ああ、またの。主らもあまり構えずにな。あれは遊び。必死になったらつらくなるぞ。」

崎達一行は、微笑んで頭を下げると、それぞれの宮の方角へ飛び立って行った。炎嘉は、それを見送って、自分も少し体を動かしておくか、と腕を回したのだった。


運動会まで、あと一週間を切っていた。


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