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見たもの

維心がぼーっとしている中、維月が言った。

「いいわよ、十六夜。何を話しに来たの?話して。」

十六夜は、怪訝な顔をした。

「本当に大丈夫かあ?何かまだ呆けてるけどよ。」

維月は、頷いた。

「こうなると、しばらく掛かるの。でも、話していたら復活して来るから。それより、わざわざ十六夜が降りて来てまで話そうと思ったことって何?」

十六夜は、依然として維心を見ながら答えた。

「こんな維心の前でなんだけど、あのさ、箔翔のことなんだ。」

維月は、眉を上げた。

「え、どうして箔翔のことであなたが降りて来るの?」

十六夜は、ため息交じりに言った。

「お前が絡んでるからに決まってるじゃねぇか。」維月がますます驚いたように眉を上げるので、十六夜は続けた。「維明にな、話してるところを聞いたんだ。あいつら、最近仲がいいだろう。それで、この間二人で空中をぶらぶらしてるのを見かけて、目に付いたから見てたんだ。そしたら、箔翔が思いつめたような顔をして、維明にお前が気になるとか何とかいう意味のことを言ってたのを聞いちまってよ。」

維月は、思い切り眉を寄せた。

「…でもあの子、私に興味なさそうだったわよ?始めから。」

すると、いつの間にか正気に戻っていた維心が横から強い調子で言った。

「気ぞ!」十六夜も維月も、びっくりしてそちらを見た。「初対面の時は、恐らくあの騒動の最中であったから、我が維月に被せていた気を遮断する膜に包まれていて、わからなんだはず。あやつは、維月の気を感じて懸想しよったのだ!」

今にも、立ち上がって飛び出して行きそうな雰囲気だ。維月は、慌てて言った。

「維心様、落ち着いてくださいませ。だからといって、箔翔は私に何もしておりませぬし、それに何も言いもしないのですから。」

十六夜も、何度も頷いて言った。

「そうだ。あいつも戸惑っているようだった。維月の気は、誰にも抗えないものだとお前だって言ってたじゃねぇか。諦めるべきだと分かっているが、その方法が分からないで困ってるんじゃねぇか。それに維明だってな、母親でなければ、自分も望んだだろうって言ってたんだぞ?そもそも維月がこんな気になったのは、お前のせいじゃねぇか。お前好みの気に変化したから、こうなったんだからな。お前がこんな誰にでも有効な、しかも滅多にないような珍しい気を好まなければ、こんなことにならなかったってのによ。」

維心は反論しようと口を開きかけたが、またつぐんで、そして渋々頷いた。

「…仕方があるまい。我だって己の好みなどしらなんだし、まさか維月がそれに合わせて成長するとも思ってはいなかったのだからの。」と、自分を見上げる維月を見つめて髪を撫でた。「今生までこうしてこの気を戻してしまいおってからに…我を慕わしく思うてくれることは嬉しいが、我は元の維月であっても、それは愛しておったのだ。何もこの気のせいで懸想したわけではない。なので、もう少し抑えた状態でも充分であるのに。」

十六夜が、息を付いてそんな二人を見た。

「オレも元から気なんて関係なく想ってたからな。お前と一緒だ。その他の男ってのは、維月の気に惹かれてどうしようもなくて寄って来る。だから維月も、本気で相手をしないんだからな。オレがお前にだけ嫁にするのを許してるのも、そういうところがあるから…嘉韻はおまけだ。」と、窓から空を見た。「…お、維明と箔翔がまた二人で訓練場から戻って来てるぞ。どうする?いつまでもこのままって訳には行かないだろう。箔翔には、箔炎と同じ道を歩ませたくないからな。維心、お前にもわかってるだろうが、これは箔翔のせいじゃねぇ。どうにかしてやろう。今ならまだ間に合うぞ。」

維心は、眉をぐっと寄せて険しい顔をした。維月が、気遣わしげに維心を見上げる。

「維心様…。」

維心は、それを見てふっと息をつくと、表情を緩めた。

「…仕方のない。では、他の女でもあてがってやるしかないの。維月の代わりなど絶対にないが、それでも気に惹かれただけであるなら、恐らく他に目を向けることが可能なはず。前世から、維月に寄って来る男は皆、二通りであった。この気に惹かれただけであるなら、夢から覚めたように他の女を想うことも出来る。しかし、この気質と姿、それに気と三つに惹かれておったなら、炎嘉や将維のように忘れることは出来ぬ。箔翔は明らかに前者。どうにかなるであろうて。」

十六夜は、ホッとしたように頷いた。

「よかった。何か考えてくれるんだな。」

維心は、頷いて侍女を呼んだ。侍女が頭を下げて入って来ると、言った。

「兆加を呼べ。」

侍女が、頭を下げてまた出て行く。それを見送って、維月が心配そうに維心に言った。

「維心様…まさか、でございまするが、維明の相手を探すとか、そんな風に言うて皇女達を集めるとか…。」

維心は、維月を感心したように見た。

「おお、よう分かったの。やはり月として生まれると違うの。そうよ、それしか神世の女を集める口実などない。維明はまだ誰も考えられぬと言うておったが、良い機会ぞ。もう成人しておるのだし、本来神世では一人ぐらい妃が居ってもおかしくはないのだ。それを、我のこともあるからと思うて、何も言わずに来ただけ。そろそろ良いかもしれぬ。」

維月は、突然にがばと立ち上がると、とんでもないと首を振った。

「そのような!本人が望んでおるのならこの限りではありませぬが、元より維心様と同じ命。維明は、あの前世の叔父君の生まれ変わりであるのですわ!それを、二人で今生こそ幸せにして差し上げようと申していたのではありませぬか。維心様の(めい)であるなら、維明は従わなければなりませぬ。王だった将維も、皇子の維心様が生まれ変わりと知っておったから、無理に縁付けたりしなかったではありませぬか。そのようなこと、私は反対でございまする!」

今にも怒って出て行くのではないかというほどの勢いで、維月は最後は叫んでいるように言った。維心は、驚いて言葉を失っている。その修羅場と言ってもいい場に、到着した兆加は目を白黒させて戸惑って、ただおろおろしていた。

十六夜が、それを見て慌てて維月を抑えた。

「維月、落ち着け!何度も言ってるが、維心は神世に生きてるんだから、その常識しか知らねぇんだっての!お前だって、嫌ほど知ってるだろうが!」と、維心を見た。「維心、他に方法があるだろうが。」

維心は、首を振った。

「神世の皇女ばかりを呼ぶ口実など、他にあるはずはあるまいが。我の妃を探しておるのだと思われるわ。」

すると、兆加がおずおずと言った。

「あの…差し出がましいようでございまするが」三人が、兆加を一斉に見る。兆加は、身を縮めたが、言った。「皇女ばかりをこの宮に呼ぶと考えると、王がおっしゃるように維明様か王の妃を探しているという趣旨の茶会しか開くことが出来ませぬ。では皆を呼ぶから何か催しをといって、こちらは由緒正しい龍の宮、昔から決められた行事の他、開くことは神世から見て奇異でありまするし、それにそのような時の余裕がありませぬ。しかし、月の宮であればいかがでしょうか。」

十六夜が、ああ!と手を打った。

「そうか!あっちは確かに変わった催しばっかり開くから、神世でも珍しがっていつも出席率が100パーセントなんだ!しかも、決まってないから思いついたように開けるんだよ!」と、呆然としている維心と維月を見て言った。「ちょっと蒼に話して来る。そろそろ運動会の季節だって、この間も蒼と話してたところだったんだ。ここ数百年は、運動会もしてなかったからなあ。」

それには、維心が眉を寄せた。

「またあれか。我はまたあやつと競わねばならぬか。」

あやつとは、(からす)の宮の王、久島だ。転生して来てからも、会合で何度か会っては居るが、あまり話はしなかった。そもそも維心は、炎嘉の他の王と親しく話すことがないのだ。

十六夜は、立ち上がって窓へと歩きながら、笑った。

「前の運動会の時は、維月がかかってたからな。必死にもなっただろうが、今度はそんなものじゃねぇからさ。楽しく皆で駆けずり回ろうや。」と、維月に手を振った。「じゃあな、維月。また来るよ。」

慌しく戻って行く十六夜を見上げながら、維心と維月と兆加は、いったいどうなるのかと気を揉んだのだった。

第一回運動会のお話を知りたいかたは、新・迷ったら月に聞け4~王の妃達をお読みください。

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