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続・迷ったら月に聞け5~道  作者:
人世の道
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帰還

蒼と維明、箔翔と猛、そして裕馬の五人は、関わった全ての人から自分達が神だという記憶を綺麗に消して行った。恐らく、顔も覚えていない状態だと思う…ただ、誰かと何かを話していたな、という記憶ぐらいは残っているかもしれないが、神などという存在は、蒼達に出会う前の認識でしかない状態へと戻ったのだ。

五人は、アジア地域へ戻って来て、宮へと帰る前に都市部の様子を空中に浮いて見ていた。さすがに何事もなかったように、とはならなかったが、それでも皆の表情にはまだ、余裕があった。失われた命はなかったのだ。失ったたくさんの電子機器はあったが、それでも皆は立ち直れないほど打ちのめされているわけではなかった。

「人は強いの。」維明は、それを見ながら言った。「いわば、目を塞がれたような状態であろう?まだ、一般人が使う衛星回線とやらは、復帰しておらぬと聞いた。何しろ、それに対応しておった衛星が、太陽風に当たる位置を巡って消滅しておると聞いた。残ったのは、政府などが使う回線を担っておった衛星だろう。ならば、人同士離れた位置からでは話も出来ぬはず。人は念が使えぬから。」

蒼は笑った。

「よく学んでるじゃないか、維明。だが、隣近所結構近かったりするから、皆で話して情報交換したりしてるんだと思うよ。宮に住んでる王族の神の、箔翔や維明には想像つかないかな?家が小さくて隣り同士が近いんだよ。」

箔翔は、神妙な顔をして頷いた。

「我は知っておるぞ。留学中に用意された部屋が、二つの続き間であったのだが、それを見てついて来ていた侍従の部屋だと思うた。なので、我の屋敷はどこぞ?と聞いたのだ…それを聞いた侍従が慌てて寮ではなく、借家とやらを探して参ったがの。住まいだという認識はなかったの。」

裕馬が、呆れたように蒼におぶられた状態で言った。

「そういうのを、人の世ではいいとこの坊ちゃんって言うんだよ。全く…ま、神の皇子じゃ仕方がないな。」

蒼がそれを聞いて、同じように呆れた顔をして背後の裕馬を見やった。

「人の背中で偉そうに。ちょっと飛んだだけで気が無くなったとかいってオレに背負われてるくせに。」

裕馬はばつが悪そうな顔をした。

「蒼は元気じゃないか。研究所では、あんなに具合悪そうだったのにさあ。」

それには、維明が頷いた。

「おお、確かにそうよ。今は問題無さそうであるの。やはり、月の力が戻ったからか。」

蒼は、ため息を付いた。

「十六夜の気配がまだないから、心配しているんだ。オレは、見ての通りすぐに回復したんだけどね。母さんもだ。」

維明は、途端に暗い顔になった。

「母上…。」

箔翔が、維明に近寄って顔を覗き込んだ。

「大丈夫ぞ。主の母は強いだろうが。案じることはない。きっと、何でもない風で戻って来るわ。それより、早よう戻ろう。父達が、帰りが遅いと苛々しておるやもしれぬ。」

維明は、懸念を振り払うように頷いて顔を上げた。そしてふと後ろを見ると、猛が大きな体を小さくしてそこに浮いていた。猛は、あの危機の場面で気を失ってしまったことを、それは恥じていた。なので気がついてから、ずっとこうだった。維明は、そんな猛に言った。

「猛、そのように気にやむでない。あの場面では、箔翔でさえ最後には地に倒れたほどぞ。気を失っても空を睨んでおった主は、むしろ良いかと思うぞ?」

猛は、びくっとして維明を見たが、首を振った。

「いいえ、維明様。真っ先に気を失うなど、本来あってはならぬこと。我は、軍神などと名乗る資格もないのでありまする。ただ恥じ入るばかりでありまする。」

箔翔が、ふんと横を向いて飛び始めた。

「そんなことを気にしておるようでは、確かに軍など向かぬの。我など何度父に馬鹿にされたか…戦場など、何が起こるか分からぬ場ぞ。いちいち気にしておっては、出撃出来ぬわ。」

維明は、慌ててそれを追って飛んだ。

「箔翔!待たぬか!」

蒼は、気遣わしげにしたが、言った。

「行こう、猛。箔翔は口が悪いが、確かに言う通りだよ。オレだって王だけど、うちの軍神達に立ち合いで勝てた試しもないんだぞ?じゃ、オレって王の資格がないのか?みたいな感じだもんな。」

猛は、驚いた顔をした。蒼は、それだけ言うと二人を追って飛んで行った。

猛は、考え込むような表情で、それに続いたのだった。


龍の宮へと戻った五人は、そこに迎えに出た兆加と対面した。兆加は、急いで維明に駆け寄った。

「おお維明様!あのように不穏な空の中、どこに居られるのかとそれは案じておりました!よくぞご無事であられましたことよ!」

維明は、苦笑した。まさにあの激しい太陽風に晒されていたなどと知ったら、兆加は卒倒するかもしれない。箔翔と視線を合わせて少し笑ってから、維明は言った。

「問題なく終わってよかったことよ。父上は居られるか?」

兆加は、頷いた。

「はい。箔炎様、炎嘉様もお越しになられて、奥でお待ちであられまする。」

維明は、頷いて歩き出した。

「参る。」

兆加は、慌てて言った。

「しかし維明様、まずはお召しかえを。箔翔様も蒼様も、皆未だ人の服のままであられまする。しかも、そのように所々何やら焼けておるような。」

維明は、ハッとして己の服を見た。確かに、兆加の言うように所々擦り切れているような感じだ。恐らく、太陽風に晒されて必死に気を放っていた時に…。

しかし、蒼は首を振った。

「いや、このまま行くよ。維心様は気が長い方ではないから。帰っているのにすぐに報告に来なかったと、後で維明が叱られるんじゃないかと思うし。」

兆加は、蒼を見て確かに、と思い直したようだ。頷いて足を奥宮の方へと向けた。

「では、すぐに。」

そうして、五人はその服装のまま維心達が待つ王の居間へと向かって歩いて行った。


維心は、そこで黙って座っていた。前に座る炎嘉と箔炎は、さっきからずっと話している。よくもそんなに話す気になるものだと、維心は逆に感心していた。

「…で、我の所も問題なく済んだのであるが、我の領地内の人はどうもバタバタと落ち着かぬようよ。難儀しておったら、何某か手を貸そうかと考えてもいるのだが。人のこと、放って置いても勝手にどうにでもしよるだろうがの。」

箔炎は、呆れたように言った。

「人など。我は己の領地内に居る人に気を配ったことなどない。元々我が宮は山深い場所であるし、人も少ないからの。」

炎嘉は、維心を見た。

「だが、主は領地内にたくさんの人を抱えておるだろうが。そやつらはどうよ?」

維心は、ふっと息をついてから重い口を開いた。

「我は元より人になど興味はない。好きにさせておるわ。人には人の営みがあろうし、我がどうのすることでもないからの。あれらは短命であるし、己の良いようにすればよいと思うて。」

炎嘉は、呆れたように維心と箔炎を見た。

「そんなことだから、神など居ないと敬う人が少のうなるのだぞ。ここぞという時には、少し手を貸してその存在の欠片でも示してやれば、信仰心も芽生えようというもの。さすれば行いも自然良いものになる。闇を生み出さぬためには、それぐらいのことをしても良いだろうて。少しは神も、そういうことを考えねばならぬと思うがの。」

維心は、またため息をついた。理にかなったことは言っているが、それでも人は無数に居る。そんな者達を一人一人面倒を見ていたら、きりがないのだ。

「ま、主の意見は意見として聞いておこうぞ。」

そこに、兆加が入って来て頭を下げたので、三人はそちらを見た。兆加は、言った。

「王、維明様、箔翔様、蒼様、お戻りになられましてございます。」

維心は、頷いた。

「入るが良い。」

維明が先に、そして箔翔、蒼、裕馬、猛と中へ入って来た。三人とも、まだ人の服装のままだ。維心は眉を上げたが、何も言わなかった。維明が、進み出て頭を下げた。

「父上。戻りましてございます。」

維心は頷いた。

「よう戻った。」と、椅子を示した。「座るが良い。」

先の三人は維心の正面、炎嘉と箔炎の間の椅子へと腰掛けた。裕馬と猛は、その後ろの椅子へと遠慮がちに座った。炎嘉が言った。

「何との。主らもいろいろ苦労があったようぞ。人の服は薄くても丈夫だと聞いておるのに、その様はどうしたことよ。」

猛が、後ろで下を向く。維明が答えた。

「はい。月の結界が綻んで来た時、我らはその只中北極に居りました。気でそれを防いでおりましたが、どうも防ぎきれておらぬものが、こうして服を焼いたようで…しかし、身はこうして無事でありましたので。」

維心が、呆れたように言った。

「だから早よう帰れと申したであろう。母が居ったらそれこそ大騒ぎのところであったわ。残ることを許した我が責められるのであるぞ?少し考えよ。」

維明は、下を向いた。

「は…申し訳ありませぬ。」

蒼は、割り込んだ。

「維心様、では母さんはまだ?」

維心は、首を振った。

「まだ戻らぬ。だが、命を失ったのではない。大氣が我に知らせてくれたところによると、碧黎が迎えに参っておるのだと聞いた。我とて早よう戻って欲しいが、それでも命があるのならと思うて、耐えておるところよ。」

蒼は、ホッとして椅子に背を預けた。

「そうか…では、完全に碧黎様は戻ったのですね。」

維心は、ため息と共に頷いた。

「それを見た訳ではないゆえ、はっきりとは言えぬがの。しかし、こうして地が気を戻しておるのだから、恐らくそうであろうて。」

箔炎が、口を開いた。

「して、箔翔よ。主、あちらで役に立って参ったか?」

箔翔は、父に頭を下げた。

「はい、父上。我の出来ることはして参りました。関わった人から、我らのことに関する記憶は消して参りましたので、大層なことにはならぬかと。」

箔炎は、頷いて息をついた。

「良かったことよ。我は主の目を通して大概のことは見ておった…あの学友のことにしても、主が良識を持っておって安堵したぞ。」

それには、炎嘉が口を挟んだ。

「己のことを棚に上げて何を申す。そもそも主は、人に興味がないとか言いながら人に手を付けたりしおって。箔翔が居ることは心強いが、それでも人の女に手を付けることは、維心が禁じておる。これよりは慎むが良いぞ。」

箔炎は、炎嘉を睨みつけた。

「維月があのようでなかったら、我とて人になど手を出さなんだわ。あれは元は人であったゆえ、人の気が混じっておるであろう…」と、蒼を見た。「蒼、主もそうよな。我は主を見て、維月に似ておるゆえどうも憎めぬのだ。」

維心が、不機嫌に手を振った。

「維月のせいにするでない!箔炎、主がそういつまでも維月を思うておったら、維月とて落ち着かぬではないか。観念して他の女を妃に迎えよ。維月だけは許さぬからの!」

それには炎嘉が憤って言った。

「うるさいぞ、維心!己が手にしておるからと、これからもそうだと思うでないわ!」

ぎゃあぎゃあとこちらの五人をそっちのけで言い合う三人を見て、蒼は小さくため息をついていたが、箔翔は眉を寄せた。維月…維明の母。一度だけ会ったが、確かにはっきりと物を言う清々しい気質の女だった。だが、そこまで言うほど慕わしい女でもなかった。確かに美しかったが、絶世の美女という訳でもない。女神はもっと美しい者達も居る。その時は地の影響を避けるため、気を遮断する膜を掛けられていて、維明は、珍しい気を見せてやれずに残念だと言ってはいたが、これほどに皆で必死になるほどの気など、あるはずはない。箔翔自身、気で惹かれた女など一人も居なかった。もちろん、鷹の宮には父王が大変な女嫌いで、侍女の一人も居ないので、あまり女というものと接した経験はないが、この美女が多いと有名な龍の宮へ来てからも、そんな女にはついぞ会ったことがなかったのだ。

そんなことを思いながら、王達の言い合いを呆然と眺めていると、深い声が割り込んだ。

「ほんにまあ、ねぎろうてやろうと思うて来たのに。相変わらずなことよ。」

皆が一斉に声の方を振り返った…そこには、青い髪に青い瞳の、前より更に若い外見になった碧黎が、維月を腕に、十六夜と共に浮いていた。

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