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続・迷ったら月に聞け5~道  作者:
人世の道
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月の力

都市部は、大混乱を呈していた。

磁場が激しく狂い出した時に昼間であった地域でも、まだ連絡が行き渡っていない状態で、夜が明けて来た地域でも、突然に通信が利かぬだの、交通が全く動いていないだの、それは大変なことになっていた。

昔はテレビと言われていた、今は全世界共通で見れるようになった衛星テレビすら、今は全く着かない状態だった。なので各国の政府は、必死に地上波を使って情報を流し、皆に避難を呼びかけた。しかしそれすらも雑音で上手く皆に伝わらず、有線の通信で出来る限りの地域に避難を急ぐようにと叫び続けた。繰り返されるそのメッセージに、人々は何か起こっているのか理解するよりも恐怖が先立って、どこへ行けばいいのかも理解出来ず、ただ都市部から離れればいいのかと山間部へと向かう人々まで居る始末だった。

もちろん、山間部に逃げてもどうにもならない。主に都市部の地下に作られてあったシェルターへと入るより、放射線から身を守る方法はなかった。

そんな地上の様を上から見て、十六夜は維月に言った。

《やっぱり、駄目だ。親父の磁場が喪失するまで間に合わない…もう、かなり弱々しくなってるだろう。大氣が、どこまで押さえられるか分からないと言いながら、必死に本体へ戻って地を包んでるが、あれじゃあ無理だ。》

維月は、頷いたようだった。

《神は、結界の中に居るのよ。》維月は、神の宮々を見た。《ほら…維心様と炎嘉様の結界が、大きく月の宮と龍の宮、それに南の砦の領地を包んでいるわ。他の神達もそう…自分の領地は、自分で守っている。》

十六夜は、それを見て言った。

《今までの結界とは、種類が違うな。明らかに、太陽風対策の気を遮断する結界だ。神はいい、それができるんだから。だが、人は…。》

十六夜は、山間部を見た。まだ、何の予兆も感じられていないのだろう。皆、変わった空の色に驚いては居るが、何が起こるのかはまだ知らされていなかった。都市部であれほどの混乱を見ているのだ。山間部にまで連絡が行くはずもなかった。何しろ、衛星が全く利かなかったのだ。

《やるぞ。》十六夜は、意を決したように言った。《維月、力を貸してくれ。》

維月は、十六夜の命を抱きしめるように命を寄せた。

《使ってちょうだい。大丈夫よ、私達は死なないんだから。》

十六夜は、笑ったようだ。そうして、月から一気に力が湧きあがると、その力は地球に向けて放たれて行った。


海上研究所では、リックが苛々しながらモニターを見ていた。

「まだ切り替えられないか。」と、弱々しくなり、もはやこれまでではというほどに落ちて来ている磁場の波形を見つめた。「こっちのコンピュータも、狂った磁場の影響を受けておかしくなり始めているようだ。」

蒼は、リックに歩み寄った。

「何が?」

リックは、苦笑した。

「これも、衛星を使っているからな。最新機器で、その上最優先で使えるようになっているからこそ、今までこうしてもった。だが、限界なんだろう。」と、横のモニターを指した。「月の磁場が、突然に現れたんだ…弱い磁場は、これまでだって観測出来たさ。だが、こんな大きな波形は見たことがない。まるで…地球を飲み込むようだ。」

蒼は、目を見開いた。月…十六夜が、地球を守ろうとしているのか!

その磁場は、孤を描いて不自然に地球へと大きく向けて巡っていた。リックが、自嘲気味に笑った。

「まるで、オレ達の願いが現われたかのようじゃないか、ええ?」

蒼は、涙ぐんだ。

「月だよ。」それに気付いた裕馬が、気遣わしげに蒼の肩に手を置いた。蒼は、続けた。「月が、命を削って人類を守ろうとしてるんだ。あんな波形、絶対に不自然だろう?あんな小さな月が、この地球を包もうだなんて。」

リックは、驚いたように蒼を見た。

「なんだって?月?…って、あの時見た、あの?」

蒼は、頷いた。

「信じなくてもいいさ。だが、十六夜は本来物凄く優しいんだ。慈愛の月と、神の間でも言われていて…人を、見殺しに出来なかったんだろう。きっと、一人でも多くの人を避難させようと思って、ああやって力を放っている…だが、長くはもたない。」

その時、ぴーっと側の機械が鳴った。リックは、慌ててそれを押した。「リックだ。」

相手は答えた。

『お待たせしました。切り替えます、すぐにこっちへ下りて来てください!』

「分かった。」

リックは、通信を切ると、蒼達に向き直った。

「さあ、君達も。それとも、このままここでも平気なのか?平気だろうな、きっと。」

蒼は、首を振った。

「オレの力は、今は無いようなものだ。同じ月の力だから、あっちへ取られてどうにも出来ない。一緒に行かせてもらうよ。」

そうして、蒼は裕馬と共に、リックについて地下避難所へと向かったのだった。


維心は、昼間であるのに暗く変な色になった空を見上げていた。気を遮断する結界を張ったので、外からの気も感じ取るのが難しい。しかし、それを貫いてじっと感覚を研ぎ澄ませていると、ある程度の気は読み取ることが出来た。ついに、十六夜が気を放出し始めたのだ。

「…あのように愚かな人を助けようてか。」維心は、誰にともなく呟いた。「主らは死にはせぬが、それでも意識を失うかもしれぬ。いや、死なぬとは勝手な考えで、碧黎と陽蘭と共に、黄泉へと向かうのかもしれぬ。それでも、主らはやるか。」

維心の問いかけに、誰も答えない。維心は、自分だけが取り残されてしまうのかもしれない、と思った。しかし、とにかくは民達を守るという責務を果たし、しかる後に後を追おうと思っていた。黄泉…共に一度逝った場所。長くは待たさぬ。しかし、逝くでないぞ。

ふと、地が震えた…それは、恐らく維心や炎嘉、箔炎ほどの大きな気を持つ神にしか気取れないものだっただろう。しかし、維心が宮に向けて叫んだ。

「来る!皆備えよ!我の結界は絶対に抜けさせぬが、何が起こるか分からぬぞ!」

途端に、空の色が一気に変わったように、維心には見えた。




碧黎の磁場が、完全に消え去った。

それを感じた大氣が、月に向かって叫んだ。

《十六夜!維月!来るぞ!》

十六夜と維月は、自分の体に突き刺さるように吹き付けて来るその気に、必死に抗った。十六夜の作った磁場は、それを受け止めて流して行く。しかし、それは思っていたよりずっと強い力だった。まるで炎の暴風が吹き付けて来るようだ。

《おおおお!》十六夜は、声を上げた。《こんなものを、軽くいなしてやがったのか、親父の気は!》

維月は、本体の中で十六夜の影に当たる場所に居たので、もろに食らっているという自覚はなかった。十六夜は、いつもそうだった。小さな頃から、自分を庇って前に出た。なので、維月は守られてばかりだったのだ。

《十六夜!私の気も…》

十六夜は、応えた。

《駄目だ!お前の気なんて一溜まりもねぇ!一瞬でなくなっちまう!後に残しておけ!》十六夜は、必死の声だった。《どれだけもつか、わからねぇ!くそう、甘く見てた!》

大氣の声が、気遣わしげに言った。

《それでも、主はあれを横へ流してくれておる。こっちへは、僅かしか影響がないゆえ、我がいつものように守っておれば済むことぞ。》と、地上を見た。《見よ…人類も、まだ避難を続けておる。本来なら、もうかなりの人がやられておったはずぞ。》

十六夜は、それを見るだけの余裕がなかった。だが、少しでも長く自分がこれを食い止めたら、人が助かるのだと分かって、ホッとしていた。

後は、これを何時間続けられるか…いや、もしかして数十分しかもたないのかもしれない。どうしたらいい…親父は、一体どれぐらい磁場を回復しないんだ。それとも、もう回復しないのかもしれない…。

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