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サマンサ博士の鑑定実験(3)

 科学者の性か、それとも経験によるものか……


 いずれにしろこのサマンサ・ウォリックという研究者はあまり魔法に対して好意的ではないらしい。


 ――魔法ではなくそれを使用する人にか。


 嫌いなものを研究するほどマゾな人間にも見えないし。奇妙奇天烈、変人の類ではあるが科学者として、いや捜査官としてはなかなかの鑑定眼の持ち主なのかもしれない。


 あまり見た目で判断しない方がいいかもな。足元をすくわれる。


 僕はサマンサ主査がコーヒーを一口飲み、ふぅと息をついてから質問する。


「フィルム式のカメラに何かしらの魔法がしかけられたのはわかりました」


「カメラというより、空間ですね」


 サマンサはジト目でこちらを見る。睨んでいるのか、それとも眠いだけなのか判断に困る。


「先ほども言いましたが、今回提出された鑑定物、フィルム式カメラですが、これを爆破、破壊した魔法は特定の場所で特定の条件を満たすと爆破するようにプログラムされたものです」


「そんな便利なことが?」


 ――できますよ、とサマンサは口元に笑みを浮かべながら答え、そして「とても簡単に」と付け加えた。


「それほど難しいことではありません。よく訓練された魔法使いでなくてもちょっとしたコツを掴めばできるそうです。私は魔女ではありませんので詳しくはわかりませんが、魔法使いには魔法使いだけにわかる第六感のようなものがあるようです」


「第六感……霊感みたいな?」


「まあ、そのようなものです。例えば私たちが持つこの視覚ですが……」


 サマンサ主査は自分の瞳を指差して言う。


「目が見える人にとって視覚とはどのようなものであるのか、理解するのはとても簡単です。でも知ってます?暗い闇の中で生活をする生物の中には視覚に頼らずに外界の情報を知る生物もいるそうですよ」


「深海魚とかそうらしいですね」


「目を持たない生物に視覚とは何か、その仕組みを伝えるのはとても難しいです。魔法使いが持つ第六感も同じです。常人には理解しがたい魔法使いの第六感の仕組みがどのようなものであるのか、こればかりは推測の域を出ません」


 サマンサは嘆息する。ただそれは今までのような疲労からくるものではなく、どこか自分の無力感に対する落胆のように思えた。


「話を戻します。カメラを爆破した魔法は特定の場所……確かダークフォレストで見つけた家屋で発生したそうですね?」


「え、ええそうですよ」


 僕はジェシカを見る。するとピンと片手を上げている。なんというか、普段目立たない生徒がここぞといわんばかりに挙手をしているように見えた。


「よく見つけましたよね。私の記憶によれば、ダークフォレストの最奥部まで進んで生きて還ってこれた人は……200人ほどです」


 ……意外と多い。


「還れなかった人の数はその十倍以上ですから。まあ、生還するだけならばそれほどハードルは低くありません。無国籍地帯とか隔離指定区域とかなにかと誇張されるほどの場所ですので確かに危険ではありますが、頑張ればなんとかなるかなぁぐらいの割合です」


 なんとも投げやりな言い分だ。


「私の苦労って一体……」


 ジェシカはへなへなと挙手した腕をさげ、がっくりと項垂れた。


「爆破魔法とX線放射魔法は一対となって使用されたのでしょう」


 サマンサは続ける。「そうでなければデジカメが破壊されなかった理由が説明できません」


「デジカメ?ああ、そういえばそうですね。なんでフィルム式のカメラは壊れたのに、デジカメは壊れなかったんですか?」


「んー、そうですね。これはあくまで仮説なのですが、その家屋に魔法が仕掛けられたのは少なくとも10年以上前だと思われます」


 10年以上、か。やけに抽象的なだけに、逆に10年以内がありえない根拠を知りたかった。


「10年以内ではない根拠は……」サマンサは僕の心を見透かすように続けた。「デジカメが発明されたのが10年ほど前だからです」


「フィルム式のカメラの歴史はとても古いです。フィルムの発明だけみれば100年以上昔です。カメラの発展とともにこのX線魔法も一時期魔法使いたちの間で流行ったのですが、10年前からまったく流行らなくなりました。この魔法、デジカメには一切効果がないからです」


「なんで?ああ、X線を放射しても意味がないからか」


「そうです。デジカメはデータをHDDに保存しますから。たとえ爆破魔法を使用したとしても、HDDそのものに防御魔法を使用してしまえば中身のデータは守れます」


 防御魔法、ね。


「フィルム式のカメラにも防御魔法をしかければいいのでは?」


「それですとX線を防御するための魔法をかけないといけません。そんなことしたら、そもそも写真、撮れませんよ」


 ――ふむ。あちらをたてればこちらがたたず、だな。


「かつては高い効果を発揮した撮影妨害の魔法もデジカメの登場で一挙に衰退しました。科学は日進月歩、常に進化し続けます。陰湿な嫌がらせをするぐらいしか能がない魔法使いはそのうち淘汰されるでしょう」


 ――まあ、それはそれで面白いのですが、とサマンサ主査は言い、本当に解りにくいのだが、微かに笑みを浮かべた。


 腹黒いな――なんとなく僕はこの博士に対してそのような印象を抱いた。

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