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魔導心理研究所(2)

 リノリウムのよく磨かれた廊下をサマンサ・ウォリック研究員主査は猫背気味の姿勢で歩き続ける。


 僕も人のことを言えるほど正しい姿勢の持ち主ではないが、サマンサの猫背はお年を召したおばあちゃん以上にひん曲がっている。


 そのくせ、顎を突き出して険悪そうな顔をしながらのしのしとガニ股で歩くのだから、一見すると街のチンピラにしか見えない。


 ――白衣を着てなかったらただの面倒くさい奴だな。


 と僕は思いつつ、サマンサ研究員主査の横にまで小走りで近づくと、「あの」と声をかけた。


「聞きたいことがあるんですが……ッ!」


「しっ、待ってください」


 青白い指をたて、僕に黙るように促す。


「研究所は警察本部とは別にあるので、これから外に出ます」


「はい……それで?」


「外は二酸化炭素が多いので、ちょっと苦手なんです」


「はあ?」


「私、二酸化炭素中毒になりやすい体質なんで。外に出ている間は呼吸を止めますから、話しかけないでください」


「……それは、あの、なんと言えばいいのやら……」


 困惑する僕を尻目にサマンサ研究員主査は白衣から携帯用酸素吸入器を取り出し、マスクを口にあてながらもぐもぐと言葉にならない何かを言いながらついてくるようにジェスチャーで促した。


 ――呼吸、とめてないじゃん。


 いや、そういう問題でもないんだけど……


 いろいろと突っ込みたいのは山々なのだが、人の事情は人それぞれということであえて突っ込まず、僕はシュコー、シュコーと得体の知れない酸素音を鳴らしながら歩くサマンサ・ウォリック主査と一緒に好奇の目に晒されながら魔導心理研究所まで付き添った。


 ちなみに、ジェシカは僕より20メートル後方から、まるで僕らとは一切関係のない人であるかのような態度でついてきた。


 警察本部は築年数が古いため外観内装ともどもどちらも老朽化した印象があったが、その隣に位置する場所に建てられた魔導心理研究所の外観はパッと見た感じ最先端の研究所といった様相を呈していた。


 真ん中にはドームのような丸い建築物があり、その両サイドには高層の四角い建物が挟んでいる。あのドームの中で一体どんな研究をしているのだろうと勘ぐりたくなるような外観だった。


 魔導心理研究所の周囲にはアスファルトの道路の他に、よく刈り込まれた緑の芝生があり、サマンサと同じような白衣姿の研究員がそこで寝そべっていたり、ベンチで腰掛けて食事をとるなど好き勝手していた。


 ここまで来ると先ほどのような好奇の視線はなくなり、たまにサマンサに親しげに話しかける研究員もチラホラ出てくる。


 ――こっちでは有名な人なのかな?


 声をかけられるたびにギョロリと眼球を動かし、こくりと小さく頷きながらゴフゴフとマスクから変な声を出すサマンサを見る限り、どうやらこれが彼女のここでの普通のようだった。


 魔導心理研究所に入ると、そこは外観の洗練されたデザインとは一変、余計なデザインは一切排除するような、むき出しのコンクリートやら機械類やらが散乱する殺伐とした雰囲気のあるロビーだった。


 サマンサ主査は扉が閉じるのをジト目で確認すると、ようやくマスクを外し、色素の薄い紫色の唇を動かして言う。


「私のラボは2階だから。ついてきて」

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