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調査(11)

 バスを降りるとそこは森の中だった。未舗装の道路の土は湿っていてひどく歩きづらい。


 12月の森の中はとても不気味だった。木々の一本一本が丸裸で、凍てついた樹皮に生命の息吹は感じられない。


 ――死んだ森だ。


 鋭く尖った枝先に触れると、ポキリと音をたてて簡単に折れてしまった。僕は枝を道端に投げ捨て、先を急いだ。


 春になるまでこの森に命が宿ることはないだろう。この場所に生きた心地はしなかった。


 ホテルまでの道のりは短く、歩いて十分もすれば写真で見たのと同じ外観をしたウェストミンスターホテルに到着した。


 ――思ったより大きい。


 曇り空を背景に、目の前の古城を見上げた。古城の外観を覆うレンガの色は黒く、明るさが欠片もなかった。


 魔物でも潜んでいそうな場所だった。一流観光ホテルと聞いたからもっと清潔感があって、キラキラと輝いている印象を勝手に抱いていたのだが、これはまるで違う。


 ――魔王が住んでいる。


 僕は何故かそう思った。このホテルならば、きっと魔王が住んでいてもおかしくない。


 ホテルに向かって一歩足を踏み出したとき、背後から誰かに見られているような気がした。


 思わず後ろを振り返ると、そこには何もない、ただの裸の樹木が地面から生えているだけだった。


 誰もいない――いや、いた。


 背の高い樹木の枝の上に、黒い物体がいた。


 カラスだ。カラスがじっと僕を見て、一度大きく鳴くと翼を広げて曇天の空へ羽ばたいた。


 冷たい風が吹き、背中に悪寒が走った。


 誰かが――いる。それは誰なんだ、クラウディア?


 お前は一体誰に招待されたんだ?


 誰が、手紙を寄越した?


 樹木に釘付けになった視線を無理やり外し、僕は再びホテルに向かって歩きだした。なぜか心臓が早鐘をうっていて、正面玄関の扉を開けてホテルの中に入っても鼓動の激しさが静まることはなかった。


 玄関ホールは薄暗く、緑色の非常灯がついているだけだった。それでも窓から差し込む光のおかげでぼんやりと中を見ることができる。


 ホテルの中身は外観と違い、僕がイメージする一流ホテルのそれと同じだった。よく磨かれた大理石の床に休憩用のソファ、洒落たテーブルにアンティークな壁時計。天井からぶら下がるシャンデリアは意匠を凝らしていて、きっと電気がつけば華やかに輝くのであろう。


 だが、それは営業中の話だ。今、このホテルに人気はなかった。


 レストランとスポーツジムがやっていると言っていたが、本当だろうか?疑わしい。


 僕はロビーの隅にある案内板を見た。それによるとレストランとスポーツジムは地下にあるらしく、一階はこれといってめぼしいものは何もないようだ。


 とりあえず、どこから見て回ろうか?


 一瞬考え込み、まずは庭園を見ることにした。

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