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調査(6) 面接

「ふぅー。少しくらいなら濡れても平気かなって思ったんですけど、全然ダメでしたー」


 少女はテーブルの反対側のソファに座ると、タオルで首筋を拭いていた。その間も「えへへへ」と恥ずかしそうに笑みを浮かべる。


 ――本当に、こんなのが傭兵なのか?何かの間違いだろ?


 不安は増すばかりだった。彼女は腰にあてがった剣をソファの脇に置くと、「ヘイ、マスターッ!ホットココアくださーい!」


 初老のマスターはモフモフとした口ひげをわずかに動かした。「畏まりました、お嬢さん」


「へへ、えへへへ」少女は不気味な笑いを浮かべる。「お嬢さんって言われちゃった、恥ずかしいな、もう」


「あの、君がさっきの電話の人で間違いないのかな?」


「あ、はい!私、ジェシカ・ベルキューズと言います。今回は傭兵として雇っていたがき、誠にありがとうごんじます!」


 噛み噛みだった。そのことに本人が気づいているのかどうかはわからない。


 ――たぶん、気づいていないだろう。ニコニコとまったく動じていないその言動を見ればそれは明らかだった。


 どうしよう、断った方がいいのかな?でもこんなに若くしてフリーの傭兵なのだから、もしかしたら凄い逸材なのかも。


 とりあえず、もう少し面接を続けよう。それでダメそうなら断ればいい。


「僕は弁護士のダニエル・ロックハートです。今回依頼したいのは……」


「モンスターハンティングですかッ!」


 まだしゃべっているのにジェシカは遮ってきた。テーブルをバンッと両手で叩き、こちらに身を乗り出してくる。


「いえ、違います。まあ、モンスターと戦う可能性はあるんですが、できれば戦闘は避けてください」


 証拠品を持ったまま戦闘なんてゴメンだ。


「お任せください」ジェシカは無い胸を張って堂々と宣言する。「こう見えても私、魔法剣士なんです。逃亡系の魔法は大の得意ですッ!」


「へえ、そうなんだ」

 

 僕は思う――今のは自慢か?


「あ、もちろん戦闘も大得意ですよ。この剣、フランベルジュにはある特殊な魔法がかかっていて、斬り傷に火をつけることができるんです」


 ジェシカは剣を手にとって鞘から抜く。光沢がゆらめくその刀身は炎のように波打っていて、殺傷能力はかなり高そうに見えた。


「火をつけられる?斬った相手を燃やせるということですか?」


「その通りです。一度火がついたら最後、相手を焼き尽くすまでその火は消えません」


「へえ、それはすごい能力だ」


 素直に感心した。


「と言われています」


 感心して損した。


「え?どっちなの?結局燃やせるの、燃やせないの?」


「優れた魔法剣士なら、できます。でも私の魔力では、ちょっと焦がすのが精一杯なので……」


 ジェシカは恥ずかしそうに頭をポリポリと掻いた。そして「えへへへ」と調子外れの声で笑った。どうやらこの笑い方は気まずいときに使うようだ。



「でもでも、大丈夫ですよ、ダニエルさん!」


 なんだか妙に馴れ馴れしかった。


「フランベルジュは剣としては一流の業物ですから。この剣と私の腕前があれば、モンスターの一匹や二匹、あっという間に撃退ですッ!」


 君に依頼したいのは、一匹や二匹どころか何千何万というモンスターがひしめき合う森の中での探索なのだが……


「一応聞きますが、モンスターとの実践経験は?」


「聞いて驚かないでください」


 ジェシカは待ってましたといわんばかりのドヤ顔を浮かべる。もしもこれで、今まで一度もないなんて言ったら依頼は断るつもりだった。


「実はドラゴンを退治したことがあります」


 普通にすごかった。じゃあ、実力はあるのか?


「あ、疑ってますね。そんな弁護士さんに証拠を一つ、見せちゃいます」


 まず彼女は前髪を右手でかきあげた。


「これ、一年前にドラゴンと戦ったときの傷なんです」


 彼女の額には生々しい傷跡があった。ただ一つ疑問はあったが……


「傷、小さくない?」


 僕としてはもっと大きい傷を期待していた。人の不幸を期待するのもおかしな話なのだが、そちらの方が説得力はあるだろ。


「え、えへへへ」髪をおろしたジェシカは調子はずれの声をあげる。「ま、まだあります」


 黄色いコートの懐に手を入れると、彼女は財布から一枚の写真を取り出した。


「これ、ユグドラ村に出現したドラゴンを退治したときの写真です。村長さんにどうしてもってお願いされて、記念に撮影してもらいました」


 僕は写真を手にとってみた。確かにドラゴンがいる。大きさは2メートル大といったところか。


 僕は本物のドラゴンを見たことがないから確実なことはいえないのだが、もしもこれが世間でいうところの凶暴なモンスター、ドラゴンの真実の姿というのなら、拍子抜けもいいところだ。


「く、苦労して倒しました」ジェシカは顔を背けた。ぼそりと言う。「すごく強かったんです」



 ――まあ、ドラゴンが倒せる程度の実力があれば問題ないか。


 正直不安だった。だが、僕の予算ではこういう輩しか雇えないのかもしれない。とりあえず、実力についてはこれで妥協することにした。


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