面会(5)
扉を開けると、派手なビルの外観とは裏腹の落ち着いた雰囲気のあるオフィスがそこにあった。
オフィスの壁という壁は全て本棚になっているらしく、そこには過去の判例集やら法律書、そしてこの法律事務所の所長の趣味である昆虫の図鑑が置いてあった。
その奥の方に視線をやると、窓から斜めに差し込む光が大型のL字デスクを照らしていた。
デスクの上には山のように積まれた書籍と書類、そして所長と書かれた三角錐が置かれていた。
そしてデスクの向こうには、ボサボサの腰まで届くような金髪に黒縁のメガネをかけた女が、眉間にシワを寄せてボリボリと頭をかきながらなにかの資料を見ていた。
一瞬、ムッとするような異臭が鼻につく。
――うわ、この人また風呂入ってないな。臭いから察するに、一週間か?
オフィスの中に入り、後ろ手で扉を閉じると、キイッと軋むような音がして、ようやく部屋の主はこちらの方に視線を寄越した。
最初は怪訝そうに青色の目を細めてジッと睨んでいたが、これは単純にこの人の視力が恐ろしく悪いからだ。
本人に悪気はないのだが、このような目つきのせいでよく人から誤解されるらしい。
やがて目をパッと見開くと、
「あれー、ダンくんじゃない。今日はどうしたの?久しぶりだねー」
と声をあげるとイスから立ち上がり、大げさに手を広げてこちらに近づいてきて、やがて思いっきり抱きしめられた。
抱きしめられた瞬間、その巨乳がこちらの胸にあたったが、同時に顔から今まで嗅いだことがないようなぷーんとする臭いがして……要するに天国と地獄だった。
「う、くっさ……所長、離れてください」
「あ、ごめんごめん。ここのとこずっと仕事してて、着替えてないの」
――そういうレベルじゃねえ。
僕は鼻をつまみながら、改めてこのオフィスの女主の顔を見上げた。
輝くようなブロンドに透き通るような青色の瞳、シミ一つないような白い肌に、そしてスーツ越しにもわかるような巨乳の持ち主。
おしゃれやファッションにまるで関心のない、この無駄な美人こそ、かつての僕の元上司でニコニコ法律事務所なんてふざけた名前をつけた張本人、そして現在法廷で負け知らずの女弁護士、『無罪判決の女王』の異名を持つナターシャ・ホルスタインだった。