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対面

 第一回目の公判が終わった翌日。僕は朝一で事務所を出た。


 目的地は拘置所。クラウディアと面会するためだ。


 12月の朝は寒く、一歩外に出ると厚手のコートを羽織っても底冷えするような冷たい空気が漂っていた。


 国選弁護士の費用は国がもってくれる。だが、実際に報酬が支払われるのは1ヶ月も先のことだ。

 今はとにかく経費を節約したいので、僕は空き室同然の事務所から歩いて拘置所に向かった。

 歩いて数時間ほど経過するとやがて以前見たのと同じ、無骨で無愛想なコンクリートの建物があった。


 相変わらず物々しい雰囲気を醸し出す拘置所の外観を見上げると、今日はよく晴れた青空であることに気づいた。


 太陽を遮るものはない。コンクリートの壁に直接日光があたる。それでも内側に潜む暗澹とした雰囲気を消し去ることはできず、拘置所に一歩足を踏み入れただけで気温が数度下がったような感覚に陥った。


 以前と同じような手続きを経て、僕はクラウディアとの面会の約束をこぎつけた。


 刑務官に面会室まで案内される。決して道がわからないわけではない。ただ、防犯と警戒のために彼ら刑務官は付き添っているのだ。


 面会室は殺伐とした、何もない空間だ。ただ中央に透明なガラス板と、椅子と机があるだけ。


 天井からぶら下がる電灯以外に部屋を照らすものはなかった。


 僕は椅子に腰掛け、ガラス板の向こう側にある扉を見た。


 このガラス板からこちら側とあちら側では空気が違う。


 こちら側の人間は、ルールを守っている人間が住む場所だ。


 ルールがあると確かに毎日が窮屈で息が詰まることもある。しかし、ルールを守っている限り社会から保護を受けることができる。


 しかし、このガラス板の向こう側にいる住人を社会が守ってくれることはない。それは彼らがルールを犯したからだ。


 社会から完全に見捨てられてしまった彼らを助けるのが僕の仕事だ。


 因果な商売だと思う。ここはできれば社会から隔絶しておきたい、危険な人間を収容する場所だというのに。僕はそのような忌むべき存在である彼らを助けようとしているのだから。


 ――ドアノブの開く音がした。


 こちら側ではない。向こう側の住人が――クラウディア・ラインラントが面会室に入室した。


 面会室に一歩足を踏み入れるとき、クラウディアはやけにおどおどとした様子だった。刑務官に促されるように入室する彼女は、昨日と同じように剣を両手で抱き締め、黒い髪を腰まで伸ばし、碧眼の瞳をギョロギョロと動かしてあたりを警戒する。


「はやく座りたまえ」


 刑務官はただ促しただけだった。それでも彼女は後ろから突き飛ばされたように一瞬体をビクンと動かし、「ひっ!」と小さな悲鳴をあげた。


「こ、ごめんなさい」

 クラウディアは不明瞭で聞き取りづらいかすれ声でそう言ってから僕の目の前に着席した。


 僕と彼女との間にはあって数十センチの距離しかない。


 しかし、この薄いガラス板のせいで、何万キロも遠くにいるような錯覚を感じた。

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