証言台(14) 証人喚問
――一人しかいない?
女検事は含みのある言い方をした。だから、追求しないわけにもいかない。
「検察側は主張しました。監視カメラの映像には外部による編集の痕跡はないと。確かに保存された映像と撮影された時間を第三者が編集、もしくは捏造することはできないようですが、日付はいくらでも改竄の余地があります」
僕は何も言葉を発しない女検事から視線を外さずに、裁判長に訴えかける。
「撮影されたCDをケースに保管するときに日付を書き込むだけならば、特別な魔法は必要ありません。誰でも簡単に日付の改竄は行えます」
そして最後に言う。
「弁護側は証人喚問を要求します。事件当日、11月10日、11日、そして12日にホテルで警備にあたっていた者全員の証言を聞く必要があります」
「ふむ。証人喚問、ですね」裁判長は渋い表情を浮かべ、白い長ヒゲを触っている。「証拠に異議が呈された以上、確かに彼らの意見を窺う必要がありますが、シェーファー検事?何か言いたいことはありますか?」
シェーファー検事はなぜか一言も言葉を発しない。それがかえって不気味で、本当に僕はケイトを追い詰めているのかわからなくなってくる。
――いや、検察側にとってまずい事実があるのは間違いない。
だが、果たしてそれは本当に、こちらにとって都合の良い事実なのだろうか?
僕が疑問に感じていると、シェーファー検事はようやく重い口を開いた。
「裁判長。検察側は弁護側の要求を受け入れます」
――なんだ?
まるで、迷いが吹っ切れたような表情だった。ケイトはただ肩の力を抜き、深く息をはくと、顔を上げて言う。
「事件当時、ホテルで警備をしていた者を法廷に召喚します。彼の証言を聞けば、裁判長もきっと納得していただけるでしょう――被告の有罪を」
最後の言葉を聞いた瞬間、身の毛が総立ちになった。
あいつ、何を言っているんだ?
今までの証拠だけでも十分こちらにとって不利なのに、まだ何かあるのか?
「本来ならば今回の裁判でこの証人を呼ぶ予定でしたが、参考人承知を断られたので証言してもらうことはできませんでした。もっとも、そのときは彼を呼べるだけの特別な事由もなかったのですからそれも仕方ありません」
シェーファー検事は残念そうな顔で発言する。しかし、それはとても、とても演技臭い話し方であった。
「けれど、こうして証拠調べの必要性が出た以上、証人には出廷の義務があります。証人喚問ならば証人も拒否できませんからね。ようやく証人を法廷に招待できそうです」
――弁護士さん、わざわざ証人喚問してくれてどうもありがとうと言うと、シェーファー検事はやけに朗らかな笑みを浮かべた。




