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証言台(9) 弁護側検証

 第三者の存在を仄めかした途端、法廷は今までにないような大きなどよめきが巻き起こった。


 書記官や法廷画家は一旦動きを止め、法廷全体に不穏な空気が漂い出す。


 裁判長はあっ気にとられて口を半開きにし、腕を組んでいるシェーファー検事はピクリと眉根を動かして口を尖らせていた。


 ――驚くのも無理もないよな。僕だって半信半疑で言ったのだから。


 だが、まったく根拠がないわけでもなかった。ただ確信が持てなかっただけだ。


 でも、クラウディアは僕の賭けに応えてくれた。ケイトは検事としてなかなかいい仕事をしてくれた。


 ――あとは僕がやるべきことをやるだけだ。


 監視カメラの映像に細工はない。それは先ほど証明された。


 外部の人間がCDに編集を加えようとすれば防御魔法が発生するからできない。

 防御魔法は解除も可能だが、解除をすればその痕跡が残る。魔法解析がそのような痕跡がないことを証明しているため、やはり誰かが監視カメラの映像に細工をした可能性はない。


 だが、監視カメラの映像同士を見比べると、矛盾する箇所がある。


 11月11日は雪が降っていた。だが、屋上でクラウディアが被害者に襲いかかったとき、現場の展望台には雪が積もっていなかった。


 その一方で、遺体が落下した庭園には雪が積もっていた。


 全ての映像に編集が加えられていないのならば、なぜこのような矛盾点が発生するのか?


 どちらも真実なのに、整合性がとれない。


 一つ一つのピースは正しいのに、組み立てるとおかしくなる。


 ――これじゃあまるでパズルだな。


 パズルを正しく組み立てるためには、一つ一つのピースを正しく組み合わせなければいけない。


 今僕らが見ている絵は、間違ったピースをあてはめて出来たものだ。だから全体像がぼやけて、細かいところに齟齬が生じる。


 じゃあ何を間違えた?決まってる。それは……


「どうやら僕らは、大きな間違いを犯していたようです」


 僕は法廷全体を見渡してから、最後にクラウディアを見る。


「被告に質問します」


「は、はい」


「あなたは一体、いつ現場から立ち去ったのですか?」


 この質問に対してクラウディアは困惑した表情を浮かべた。もっともそれは彼女だけでなく、傍聴席にいる人たちも怪訝そうな顔をする。


 裁判長も白いアゴヒゲを撫でつつ首を傾げている。


 ――バンッッ!机を叩く音が法廷に響いた。シェーファー検事だった。


「今更何の質問をしているのですか?そんなのは監視カメラの映像を確認すれば一目瞭然でしょ?」


「僕は――あなたに質問なんかしていません」


 手のひらを突き出して、僕はケイトの言葉を遮った。


「ラインラント被告」僕はケイトから視線を外し、クラウディアを見る。「あなたの口から聞きたい」


「一体いつ、現場から――ホテルから出て行った?」


「私は……」


 彼女はますますわけがわからないといった顔をした。眉根を寄せて、剣を握る手に力を入れる。唇を堅く結び、勝手に言葉が飛び出さないように懸命に堪えているように見えた。


「正直に答えていい」


 僕はクラウディアの今にも泣き出しそうな碧眼をまっすぐに見つめながら言う。


「何も怖くない。僕は――君の味方だ」


 一体何がクラウディアの琴線に触れたのだろう?それは僕にはわからなかった。だが、彼女は何か意を決したように顔を上げると堅く結んだ口を開き、証言台で言葉を発した。


「私は――あの晩、ホテルから出てません」


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