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証言台(5) 弁護側異議

「残念ながら我が国の司法において違法に収集された非供述証拠に関する明文化された規定はありません」


 僕は裁判長に向かって言いつつ、一瞬だけ視線をズラして検事をうかがった。彼女は鬼のような形相で親指の爪を噛んでいた。


 ――悪いな、ケイト。お前がプロであるとの同じくらいこっちもプロなんだ。無罪判決を勝ちとるためならどんな手でも使わせてもらうぞ。


 僕は続けて言う。


「しかし、最高裁はかつて違法収集された非供述証拠は証拠能力がないと判決を下しました。検察側が提出した監視カメラに何かしらの細工や編集が施されているのなら、これは違法な非供述証拠になります。当然、証拠能力なんてありませんし、これを根拠に彼女を有罪とすることはできません」


「ふむ。弁護側の主張はわかりました」裁判長は今まで以上に険しい表情を浮かべる。「これは由々しき事態です。もしもこの証拠が違法な方法で収集されたものなら、これは令状主義に対する完全な冒涜です」


 カンッ――裁判長は木槌を鳴らし、検事に問いかける。「シェーファー検事、何か反論はありますか?」


 わなわなと肩を震わせるケイトを見て、僕は思う。


――どうする?違法性がないと証明できないとお前、失脚するぞ?もっとも、お前なら簡単に証拠に違法性がないことを証明できるのだろうけどな。


 だが、それでいい。それでいいんだ。


 この証拠にはどのような細工も仕掛けも加えられていない――たったそれだけのことが証明されるだけで、クラウディアの審議を先延ばしにすることができる。


 違法捜査はなかったと証明できなければ検事としてのキャリアが終わる。

 違法捜査はなく、この証拠が正しいことを証明できれば、被告が延命する。


 どっちにしてもババを引くのはお前だ、ケイト。ざまあみろ。


 シェーファー検事は爪を噛むのをやめ、一旦俯いた。前髪が垂れて表情が読み取れないが、口元がわずかに動くのは見えた


 何を言ったのかわからないが、どうせ悪態でもついたのだろう。

 

 顔を上げて僕を見返したときの表情には善意の欠片もない、冷然としたプロの表情があった。


「検察が違法捜査をした?このような侮辱は聞き捨てなりません。本来ならば馬鹿馬鹿しいと切り捨てるところですが、いいでしょう。我々がいかに日々真摯に捜査に取り組み、治安と秩序の維持に貢献しているのか、証明して差し上げます」


 彼女は冷徹な眼差しをしながら、再び口元を小さく動かした。声は聞こえないが、何を言わんとしているのか唇で読み取れた。


 ――くたばりやがれ、と彼女の唇は囁いていた。

 だから僕もお返しに口元を小さく動かして伝える。


 ――地獄に落ちろ、と。

 彼女は僕にだけ伝わるように口元を動かして、不敵そうな笑みを浮かべた。

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