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証言台(2) 被告人

 クラウディアは証言台に立った。今もその手で剣を抱きしめていて、二度と手放さないように背中を丸めてじっとしている。


「ふむ。では、改めて人定質問をさせていただきます」裁判長は威厳のこもった声でクラウディアに問う。


「被告人。名前と年齢、それと住所を述べるように」


 クラウディアはやけにオドオドとした様子だった。あまりにも挙動不審な態度に裁判長がきつく睨むと「ひっ」と小さく悲鳴をあげた。

 彼女は敵意のある眼差しをギョロギョロと動かし、常に周囲を警戒している。

 左手の人差し指と親指で黒い髪の毛を不安そうにいじりながら、彼女はかすれ声を出した。


「く、く、クラウディア……ラインラント、です……」

「ふむ、間違いないようですね。では、年齢と住所を答えなさい」


 先ほどよりも若干だけ裁判長の語気が荒かった。どこかイライラしているようにも見える。


「年齢は十八……住所は、森の中……」

「こら被告人ッ!もっと真面目に答えなさいッ!」


「ひィッ!」

「裁判長ッ!被告を怒鳴らないでくださいッ!」


 僕がすかさず裁判長を諌めると、裁判長はゴホンと咳こみ、「ふむ。これは申し訳ない」と言った。


「被告は無国籍人です」シェーファー検事は腕を組んで悠然とした態度で言った。「住所はそもそも不定ですので聞いても答えられません。住所以外の質問をされたらどうでしょうか、裁判長」


「確かに、それもそうですね。では、何を質問しましょう」

「職業――で、いいのでは?」


 なんだその態度は?

 僕はどこか投げやりなシェーファー検事の物言いに若干イラついたが、すぐに感情を抑える。

 そして後悔する。


 ――まずい。職業なんて質問されたら最悪だぞ。


 止めようと思ったが、裁判長に「そうですね。では被告人、職業を教えてください」と先に言われてしまった。


「職業は――」


 僕は耳を塞ぎたかった。だが、本当に塞ぐわけにもいかない。クラウディアの声は小さくかすれていたにも関わらず、法廷の中でやけに明瞭に響いたので、僕にもよく聞こえた。


「――勇者です」


 ああ、言ってしまった。

 僕は思わず脱力し、机にゴツンと頭をぶつけてしまった。


 法廷が凍りつく。裁判長も傍聴席も、一瞬何を言っているのかわからないといった表情を浮かべていた。


 だが一人だけ、事態を把握している検事だけは口元に笑みを浮かべ、こう言った。


「あら、そうなの?でも勇者って普通、魔王とか倒した人を呼ぶのじゃないの?」

「私は……私は魔王を殺しました。だからやっぱり、私は勇者です」


 一体、今までの苦労はなんだったのだろう。クラウディアのその言葉に僕はもうノックアウト寸前だった。

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