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証言台(1) 被告人

 開錠したのは係官で、その後ろにはユージン検察事務官が剣を携えていた。クラウディアはまず右手と左手の手錠をそれぞれ開錠されると、我先にとユージンから剣を奪おうと襲いかかったので最初は肝を冷やしたが、まだ足元の手錠が解かれていなかったので、足元の手錠に引っ張られて盛大にその場に倒れ込んだ。


 ――びたんッ!手を大きく前に伸ばしていたので鼻から地面に落ち、すごい衝撃音がした。

 傍聴席からはクスクスと失笑が漏れる。


「君、大丈夫か……」


 ユージンが前かがみになって彼女に手を差し伸べたが、クラウディアはユージンを突き飛ばしてそのまま剣を両手で奪い取った。


 その拍子に再び足元の鎖に引っ張られる形で前のめりに倒れたが、今度は両腕でしっかりと剣を抱きしめていたので顔面から地面にぶつかることはなかった。


 彼女はただ、ハアハアと呼吸を荒くしている。両肩を上下に激しく動かし、二度と離さないように必死に剣の鞘を抱いて地面に倒れていた。


 足首には今も手錠がつながれている。それは鉄製の椅子の脚にそれぞれつながっており、何度も暴れたのだろうか、手錠のある箇所だけ肌の色が紫色に変色していた。


 係官は特にクラウディアを止めようとはしなかった。暴れてもらった方が都合がいいからそのように検事に指示されただけなのかもしれないが、そのおかげでクラウディアは誰にも邪魔されず、大切な人との邂逅を迎えることができた――剣を抱きしめた途端に凶々しい雰囲気が消えて、ホッと安らいでいる彼女の表情を見ているとなんとなく僕はそう思った。


 足元の手錠は係官が開錠した。彼女はようやく自由に動ける。にも関わらず、しばらくは床の上でじっとしたまま動かなかった。


 やがて、彼女は自分で轡を取り外した。そしてその場に投げ捨てると、床に轡が落ちるカタンという音がした。彼女は地面に片手を付いて、もう片方の腕で剣を抱いて、ひどくゆっくりとした動作で立ち上がった。


「被告人は前へ」

 裁判長の声が聞こえなかったのか、彼女はただその場に立ちすくんでいる。一瞬、僕の方に視線を寄越したが、その瞳には見覚えたがあった。


 街中を歩いていると、たまに野良の猫に遭遇することがある。誰にも相手にされず、邪険にされ続けていた野良猫は非常に気性が荒く、全世界を敵に回しているかのような鋭い眼差しを浮かべる。


 彼女の眼差しはまさに、それと同じだった。


 ここに味方はいない。全員が敵だ。警戒心の高い眼差しで周囲を見回し、やがて証言台へと一歩足を進めた。

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