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面会(2)

 十八歳でロースクールに入学。

 そして在学中に司法試験に合格した僕は二十二歳のときにロースクールを卒業。それと同時に司法修習生となり、約一年間の研修を経てから念願の弁護士バッジを取得した。


 僕がこの世界で弁護士を目指した理由、というか動機。それは――この仕事がめちゃくちゃ稼げるからだ。


 幼い頃に両親をなくした僕は15歳まで孤児院で過ごしていた。


 学校を卒業した僕はそのまま孤児院を出て、アパートを借りた。といっても別に孤児院が嫌いだったわけではない。院長はわりといい人であったし、メロドラマにありがちな虐待や暴力を受けたといったトラウマもない。


 おそらく、世間一般でいうところの孤児と比べれば良い生活を送っていたのだと思う。

 貧しいけれどそれなりに楽しい子供時代を過ごしていたのだ。

 もちろん、孤児院という性質上それなりに不自由な思いをしたことはあるが、特別それを恨んだり僻むといったことはなかった。

 

 それでも僕は、子供の頃からお金持ちという人種に憧れていた。


 絶対に迷惑をかけないという約束をかわし、僕は孤児院の院長にアパートの保証人になってもらうことでようやく十五歳で一人暮らしを始めた。


 そのときの目的は金を稼ぐことだった。


 最初は誰でもできるような肉体労働から始めた。体力には昔から自信があった。昼間はとにかく働き、帰宅してからは法律書と過去の判例、そして試験対策のための勉強をした。


 三年かけてようやく目標の金額が貯まると、それをロースクールの入学金にあてることで僕はようやく、お金持ちになるための一歩を踏み出すことに成功した。


 ロースクール時代はバイトの時間を減らし、とにかく学業に専念した。弁護士になるにあたって必要な知識は貪欲に学んだ。


 ただ判例を学ぶだけでなく、実際に法廷に出かけ、裁判を傍聴した。

 この世界にはいまだに犯罪者を審議にかけることなく簡単に死刑判決を下してしまう国家が存在しているにも関わらず、グリムベルドのようなどれほど残酷な被告人にも弁護士をつける権利を与える国は珍しい存在かもしれない。


 しかし、そのおかげで弁護士の需要は高く、生まれた環境に関係なく本人の努力次第で弁護士として働くことができるのだから、生まれたのがこの国でよかったと思える。


 司法修習生としての課程を終えて弁護士になった後、最初の一年間は刑事事件を専門としている法律事務所で働いた。


 あくまで実績を作るために一時的に働いているだけだったのだが、正直給料は少なかった。


 というのも、このときに働いた法律事務所の所長は腕は良いが経営概念がどこかズレている人だったからだ。


 今思えば、お人好しと呼ぶべき性格の持ち主なのかもしれない。当時働いていた事務所の所長は、依頼人からとる弁護士費用は常に必要最低限。それどころか明らかに金を持っていないような依頼人も困っていれば助ける。そんな人だった。


 正直なことをいえば、このときの一年間は精神衛生上よくなかった。


 僕は何回かそのときの所長にもっと金払いの良い客をとれと進言した。そのたびにその所長は困ったような表情をして、


「でも、私以外にはできない仕事だから」


 と訳のわからないことを言った。


 バカバカしいと思った。この人以外にも弁護士はいる。だいたい刑事事件の被告人は国選弁護士を雇える身分だ。


 費用は国が負担する。といっても、雀の涙のような泡銭だが。


 しかし、いや、だからこそというべきかもしれない。あのような金にならない仕事は腕がなければ人脈もない貧乏弁護士がやればいい。


 もっとデカイ仕事ができる能力があるのに、それをやろうとしないこの所長のことを僕はもしかしたら、どこかで見下していたのかもしれない。


 だから僕は、弁護士として活躍するのに必要な全知識を習得したら、すぐに独立した。


 開業に必要な金はあった。

 夢をかなえるのに忙しかったから遊ぶような暇もなかったし。だいたい勉強そのものが趣味みたいになっていたから、参考書とアパートの家賃以外は全て貯金にまわしていたほどだ。

 安い給料はコツコツ節約した。貧乏な事務所だったが給料は毎月支払ってくれたし、残業すればその分上乗せして払ってくれたので、お金が貯まるスピードは早かった。


 ……もっとも残業代を払った分、所長は自分の給料を減らしてるようではあったのだが。


 とにかく、そのようなことがあって僕はようやくロックハート法律事務所を開業、そして今に至る。


 独立してから約一年。ロックハート法律事務所は現在――


 経営危機に陥っていた。

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