面会(19)
「それで……」僕はケイトに質問する。「なんで裁判所にいる?」
「そんなの被告を有罪にするために決まってるでしょ?ここは裁判所。私は検事局だけで働いてるわけじゃないんだよ、ダニエルくん」
――確かにそれもそうだ。だが……
僕は腕時計を見て確認する。
「まだ昼前だぞ。早くないか?」
「私は誰かと違って有能なの。正義の鉄槌は誰よりも早く下すをモットーにしている。ダニエルくんにも見せてあげたかったわ、徹底的に論破されて顔面が青くなった弁護士と被告の様をッ!」
キャハッ!とケイトは笑う。そして思う、弁護士は気の毒だったなと。
ロースクール時代の頃から薄々感じていたのだが、ケイトリン・シェーファーという女は徹底的に相手をコテンパンにする癖があるようだ。
どんな議論であっても必ず勝利を追求し、相手を完膚なきまでに叩きのめす。
たとえ反論をしても、まるでこちらがそのような反論をするのが前もってわかっていたかのように悠然と反論を潰しにかかるのだ。
おそらく彼女には見えているのだろ、二手先、三手先の展開が。
ケイトは両腕を組んで、鳶色の瞳で僕を見据えた。黙っていれば結構な美人なのだが、彼女が黙ることはまずない。
「それで?ダニエルくんはどうしてここにいるの?起訴されたわけでも逮捕されたわけでもないのなら何?私の靴の裏でも舐めにきたの?」
「そんな趣味はねえ。ケイトと同じだよ。弁護士なんだから、裁判の準備をするためにきた」
意外な答えだったのか、ケイトは目をぱちくりと瞬かせた。
「裁判?民事の?ダニエルくんの裁判の予定なんてあったかしら?」
思案顔の彼女は顎を右手の親指と人差し指でさすり始めた。これは彼女が何かを思い出すときのポーズだ。
「さっき予定を入れた。あと、民事じゃない。刑事訴訟だ。以前働いていた事務所の弁護士に代わって、今回僕が被告の弁護を引き受けることになった」
「以前?確かダニエルくんって、ホルシュタイン弁護士のところで働いていなかったっけ?」
これは意外な答えだった。司法修習生の頃、彼女には勤め先を教えなかったはずなのに。どこで知ったんだ?
「彼女は有名だからね」まるで僕の心を見透かしているように言う。「いつ裁判で会うかわからなかったし、マークしてたの。でも、まさか彼女に代わってダニエルくんがねえ。これは明日の裁判もすぐに終わりそうだわ」
ケイトの言葉に嫌な汗が流れた。
「明日の裁判が、どうしたって?」
「あれ、聞いてなかったの?ナターシャ・ホルシュタイン弁護士が引き受ける予定だった訴訟案件は一件だけ。そしてその訴訟の担当検事は、この私。つまり、明日君が裁判で相手をするのはこの私、ということだよ」
終わった、という気分だった。
「また負け犬のような気分を味あわせてあげるよ、ダニエルくん」
と彼女は言うと、その場を高らかに笑いながら去っていった。




