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面会(14)

「魔王の子孫――の可能性は高い」ナターシャ所長は続ける。「もともと謎の多い人物だったそうだからね」


「わかっていることは少ないのですか?」


「彼に関する文献や資料は少ないの。出身地はおろか、家族構成もよくわかっていない」

「じゃあ、家族がいてもおかしくはない?」

「そうね。あまりにも謎が多いから、実はまだ生きているかもしれないなんてオカルト染みた話もある」

「生きててもあまり意味ないのでは?50年も昔の話ですし、もう結構な年寄りでしょ?」

「うん?そうでもないよ。魔王についてわかっていることは少ないけど、これだけは確実ということがある」

「なんですか?」


 僕が質問すると、間髪入れずに所長は答えた。「魔王は魔族だった」


「魔族っていうと、要するに亜人ですか?」

「他にいる?」

「まあ、いないでしょうね」


 この世界には様々な人種がいる。魔族はそのうちの一つの人種で、外見は普通の人間とほぼ同じだが一人一人が普通の人間にはないような個性がある。

 飛び抜けて頭が良かったり、常人離れした怪力を有していたり、人間離れした美貌の持ち主であったり、極稀に強力な魔法使いが生まれることもある。

 一人一人が特殊な才能を持っていることが魔族であることの証でもあるのだが、その最大の特徴は長大な寿命だ。

 魔族は普通の人間の3倍以上は長生きで、500年以上生きたという資料もあるくらいだ。


 ――生きていていも不思議ではないか。


 長寿長命な魔族は外見年齢が普通の人種よりも若く見える。100年生きたぐらいでは老けないのだから、その点は羨ましい限りだ。


 才能があり、おまけに長生きな魔族は当然だが実社会で有利に働く。一流のアスリートは魔族が多いし、有名な資産家の多くは魔族だ。

 国の要職に就く魔族も多く、彼らの活動は幅が広い。その一方で、トラブルの火種になりやすいのも彼らの特徴だ。

 優秀で才能に溢れている人種である彼らは同時に野心的で、協調性がないといった二面性を抱えている。


 不況真っ只中で多額の借金を抱えている企業を再生、超優良の大企業へと成長させたのが魔族ならば、代々続く有名な一流企業を破産、倒産にまで導くのも魔族が多い。

 成功と挫折の多い人種なのだ、魔族は。


 成功譚に事欠かない魔族だが、人から買う恨み辛みの数はその十倍ほどだろう。


「魔族が差別されやすいのは、50年前の世界戦争の原因となった魔王が魔族出身だからなんて言われている」


 ナターシャ所長は続ける。「でも、実際には違う」


「魔族は昔から社会の影で暗躍することの多い人種なの。全員が全員そうだとは言わないけど、確かに一筋縄ではいかないような連中が多く、国によっては彼らの入国を法律で禁止するところもあるくらい。それだけに、今回の事件はデリケートなの」


 僕は一瞬何が言いたいのかわからなかったが、すぐに理解できた。


「魔族が殺された。それも犯人は魔王を殺したつもりらしい。これは人権団体が黙っていない展開ですね」

「そうなの。世論的にはこの事件は被害者に対して同情的でね。国選で弁護士を選ぶことになったのは被疑者にお金がないからってだけじゃないの。誰もこの事件の弁護をやりたがらないの」


「なるほど、そうでしたか。……ちょっと待ってください。今なんて言いましたか?」

「私は世界一可愛い」

「そんなこと言ってねえよ。この事件って国選なんですか?」

「そうだよ。言ってなかったっけ?」

「言ってません。初耳です。じゃあ、所長が報酬を払うんじゃないんですか?」

「え?違うよ。だいたいダンくん、もううちの子じゃないし。当事務所から報酬は一切出ません」


 ナターシャ所長はやけにキリッ(`・ω・´)とした表情で言った。


 その顔を見て最初はイラッとしたが、よく考えてみれば当然だった。


 ――僕は今、独立しているんだ。他人に頼るなんてどうかしてる。それにしても……


 僕は被疑者の顔写真をもう一度見る。


 ――お前、誰にも守ってもらえないんだな。

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