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モニタリングルーム

「ほぅ。そうですか――では、弁護人の意見をうかがいましょう」


 裁判長のやけに鋭利な眼差しが僕に突き刺さる。一つでも間違ったことを言えば、そのまま切り裂かれてしまいそうだった。


「……」


 この事件を終わらせる。それも被告を、依頼人を守って。そのためには、被告が人を殺していないことを証明するか、もしくは真犯人を告発するしかない。


 自白も、証拠も、目撃証言も揃っているこの状況は一見すると袋小路だ。だが、よく見れば穴がある。それは……


「以前の裁判でも問題視されましたが、現場で撮影された監視カメラの映像には矛盾点がありました」


「ああ、またその話をするの?」


 シェーファー検事は深々と嘆息する。あまりにも大げさなジェスチャーのせいで、むしろここに最大のヒントがあるようにも感じられた。


 やっぱり、誘っているのか?


「それだったら解決されたでしょ?それに、今となっては事件と関係なさそうな些細な問題じゃない。それでもわざわざここで取り上げるってことは、それが事件解決の鍵になるんでしょうね?」


 あからさまな誘いだ。だが、あえて乗ろうと思う。


「監視カメラの映像の矛盾が些細な問題?とんでもない。むしろここがこの事件の最大の焦点だ」


 僕は虚勢を張って、法廷に轟くように声を張り上げた。


「いいですか、先ほどの魔王……証人の言葉をよく思い出してください。証人は確かに言いました。被告が襲ったのは証人、つまりハル・アンダーソンではなく、勇者でありもう一人の警備員であるアンドレ・マクハーシュであると」


「それが?」


 女検事は訝しむ。


「だが、それはおかしい。検察側は監視カメラの映像が11月11日に撮影されたものと主張した。11月11日に被告がホテルで被害者を襲ったのであれば、その被害者はアンドレ・マクハーシュではない。シフト表によれば、その日勤務にあたっていたのはハル・アンダーソンのはずだ」


 傍聴席がざわつき始めた。「そういえば、確かにそうだったよな」



 だが、検事は特に動じず、当たり前のように反論した。


「だったら、実際に現場に訪れたのは11月10日だったんじゃないの?」


「え?」


 以前までまったく認めなかった検事が、ここにきて突然手のひらを返し、あっさり認めてしまうので驚いた。


「何を驚いてるの?あの監視カメラの映像が実は11月11日に撮影されたものではなく、10日に撮影されたものであるという可能性を主張したのは、ほかならぬ弁護人のはずでしょ?」


「いや、まあそうですが……」


「そうね。確かに言われてみればそうだわ。きっと被告は10日にやってきたのよ。んん?でもそうなると、変ね。シフト表によれば11月10日にホテルに勤務していたのはアンドレ・マクハーシュよ」


 ……あれ?

 冷や汗が流れた。


「11月10日に被告はホテルに現れた。だったら、別にアンドレ・マクハーシュが襲われたことに矛盾はないんじゃない?」



「うっ、……しまった」


 思わず口走ってしまった。


 クラウディアが心配そうな顔でこちらを見ている。


 やっぱり、間違ってたか?これ以上真実を追求しても、無意味なのだろうか?


 ……いや、違う。確かに不利な立場に立たされたが、真相には近づいているはずなんだ。


 問題はここからどうやって魔王と真犯人を結びつけるか、そこに糸口がある。


 一度深呼吸し、頭を冷静にして考えてみた。すると一つだけ、疑問点が生じた。


「では、なぜそんな間違いが起こったのでしょうか?」


「うん?」


 女検事はぴくりと眉根を反応させ、怪訝そうな顔を浮かべる。


「証拠品の捏造は犯罪です。もっとも、あの監視カメラの映像には二重三重の仕掛けがあったため、たとえ警察であっても捏造することができない代物です」


 それは前回の裁判でも証明されている。監視カメラの映像には特殊な防御魔法がかかっているから、内容を編集することはできない。ただし、日付を除いてだが。


「監視カメラの映像は一旦CDに保存されると、その内容は一切編集できなくなります。ただし、日付については例外で、ケースに書かれた日付だけならばいくらでも改竄することが可能です。では、一体誰がそんなことをしたのでしょうか?」


「我々はそんなことは絶対にしません」


 シェーファー検事はすかさず反論した。


「それは知っています。ただ一つ伺いたいことがあります。そもそも警察はどうやってこのCDを入手したのですか?」


 僕の主張に一瞬、法廷に沈黙が訪れた。


「監視カメラの映像は、警備室の上にあるモニタリングルームで保存されていました。このモニタリングルームに入るためには生体認証システムをクリアしなければなりません。それも入室できるのは当日警備にあたっていた警備員だけで、勤務日外になるとたとえ警備員でも入室ができなくなる仕組みになっていました」


「ふむぅ。それほど複雑な仕掛けがあったのですか?」


 裁判長が目をパチパチと瞬かせて答える。


「しかし、どれほど複雑であっても警備会社がそのシステムを解除してしまえば、入室は誰でも可能になるのでは?」


「はい。確かに裁判長の言う通り、どれほど厳重なロックもその管理責任者が解除してしまえば意味はありません。警察ぐらいの国家権力があれば、警備会社にセキュリティを解除してもらうのは造作も無いことでしょう。しかし、わざわざそんな面倒な手続きを踏む必要があったのでしょうか?」


 僕は女検事を見て、そして魔王を睨む。


「警察は事件発覚後、ごくわずかな時間で被告を逮捕しました。まるで捜査員が全員、被告の顔写真を知っていたかのようです。いくら国家権力といえど、動きが少し早すぎる気もしますね。実際はどうなんですか、検事さん。どうやって被告の顔写真、いいえ、映像を見たのですか?」


「……国家権力国家権力、うるさいわね。まるで私達が悪の秘密結社みたいじゃない。いいわ、別に隠すようなことじゃないから教えてあげる。警察は現場にいた警備員に捜査協力してもらって、CDを押収したのよ」


「なるほど。その現場にいた警備員というのは当然、あなたのことなんですよね、魔王さん」


 魔王は冷たい表情を一瞬ニタリと下衆顔にすると、「ああ、そうだよ」と答えた。

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