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証言台(1) 真実とは?






「真実?」


「そうさ。あのとき、あの場で何が起きたのか、正しい事実を教えて進ぜよう」


 まるで小馬鹿にするようなニタニタとした表情を浮かべる魔王に、検事が反応した。「……クソうざいわね、あんた」


 ……どうやら腹を立てているようだ。


「ハハハ、まあそう言うな、検事さん。警察のお株を奪ってしまってこちらも心苦しく思うのだが、やっぱり法廷に登場する以上、嘘はいけないよな。真実は語らないと」


 イケシャアシャアとよく言う。


 ――カンッ!木槌を鳴らし、裁判長が言う。「ふむ。それでは証言をうかがいましょうか?」


「別に、難しいことを言うわけじゃない」


 魔王は表情を引き締め、視線をギラつかせながら証言する。


「確かに俺は一度死んで蘇った。だが、それは先月の話じゃない。50年も昔の話だ。今はもう死者の宝珠なんて持ってない。だから蘇るのは不可能だし、致命傷を負えば死ぬかもしれない」


 ――昔は不死身に近い体だったのになと、魔王は愚痴をこぼした。


「復活したときに生前の力はだいぶ失われてな。まあ、それでもこの場にいるやつら全員、皆殺しにはできるが。でもなんでやらないと思う?実は俺、今のこの暮らし、けっこう気に入ってんだよ」


「御託はいいよ」


 僕は感情を押し殺し、つとめて冷静な声を出そうとした。


「魔王のプライベートなんてどうでもいい。事件と関係のある話だけしてもらおうか」


「おっと、失敬。復活して以来、赤の他人に真実を打ち明ける機会がなくてな。つい嬉しくて魔王トークをしちまったよ」


 軽妙な口ぶりで魔王は続ける。


「ただ事件と関係ないってのは心外だな。関係ならある。ただ説明が面倒なだけだ」


「ほう、それはどうして?」


 裁判長が合いの手を入れると、魔王は目を細くして答える。「そもそも、死んだのは誰なんだろうな?」


「俺は蘇ってない。だったら、現場にあった右腕は誰のものなんだろうな?」


「……ん?」


 魔王の発言に、法廷が一瞬氷ついた。クラウディアは眉根を寄せ、剣を握る手に力をこめる。


「俺が50年前、サドム共和国から盗んだものは一つではない。死者の宝珠と女神の羽衣、それと龍神の刃だ」


 ――龍神の刃に斬れないモノはない、と魔王は言った。


「あらゆる生命も、この龍神の刃ならば斬ることができる。ただし、龍神の刃が斬れるものは二つだけ。刃の使用者と、そいつが敵と定めた相手だ。それ以外は斬れない」


 魔王は指差す。その先には、クラウディアが持つ聖剣があった。


「その聖剣の正体は俺が50年前に盗んだサドム共和国の秘宝の一つ、龍神の刃だ。俺の弟、ローラン・ラインラントはその竜神の刃を使用して俺を殺しに来た」


「……はあ?」


 思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。だがそれは法廷にいる全員も同じで、ただただ呆然と視線を魔王に注ぐだけに終始していた。


「おいおい、なんだよその反応。ここ、けっこう大事なところなんだけどな」


「ちょ、ちょっと待て」


「なんだよ、どうでもいい質問だったらぶっ殺すぞ」


「勇者は、あんたの弟だったのか?」


「そうだよ。言ってなかったか?」


 言ってねえよ。


 ニタニタと嫌な笑みを浮かべる魔王の視線の先にはクラウディアがいた。


 ――勇者が魔王の弟?


 じゃあ、クラウディアは……魔王の親戚なのか?


 瞬き一つせず、クラウディアはじっと魔王を注視していた。体を微動だにせず、一言も言葉を発さない。ただ黙って聞いていた。


「まったく、最低の気分だったぜ。まさか弟に裏切られるとはなあ。昔からクズで才能の欠片もないゴミだとは思っていたが、あそこまで馬鹿だったとは思わなかったよ」


 ――馬鹿ってのは死んでも治らないのかな、と魔王は続ける。


「よく、わからないわね」


 饒舌だった魔王の証言を遮ったのは、シェーファー検事だった。


「さっきからぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、仕事だから仕方なくその気持ち悪い話し声を我慢して聞いていたけれど、正直もう限界。これ以上無駄口に付き合ってられないわ。魔王のお涙頂戴なメロドラマになんて、こっちはこれっぽっちも興味ないのよ」


「おいおい、別に俺はお前らをセンチメンタルにしたくてこんな話をしてるわけじゃないぜ。ただ、ちょっと余興が過ぎたかもな。わかったわかった、教えてやるよ。いいか、よく聞けよ。実は50年前、俺が死んで蘇ったときにちょっとした奇跡が起きたんだよ。これは俺も予想外だった」


 ――死者の宝珠は生まれたときの状態で蘇ると、魔王は前置きをして言う。


「50年前、死んだ俺は0歳時の状態で再びこの世に生を受けた。ああ、安心しろ、0歳時っていってもそれまでの記憶も意識もあったから、自力で生活することはできた。わずかだが魔力もちゃんとあったしな。だが、問題はそこじゃない。俺は驚いたよ。死者の宝珠がちゃんと作動して蘇ったことにも驚いたんだが、なによりももっと驚いたのが、俺の隣にいたもう一人の赤ん坊だ」


 ――生き返らせたんだよ、生まれたときの状態で、と魔王は言う。


「俺達は双子だった。俺が死んで蘇ったとき、俺は生まれたときと同様に双子の状態のまま蘇った。わかるか?なんで現場にあった右腕のDNAが俺と同じだったと思う?答えは簡単だ。俺と同じDNAをもつ一卵性の弟が死んだからだよ」


 ――残念だったな、小娘。お前が殺したのは、お前の祖父だよ、と魔王は勇者に告げた。


 クラウディアは悲鳴をあげた。



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