証言台(2) 魔導心理研究所職員の証言
「変わった人ってことだよ」
と僕はクラウディアにそっと囁く。それが目についたのか、裁判長は一度「ゴホン」と咳き込むと、「弁護人、私語は慎みなさい」
――怒られてしまった。
「あの、その、ごめんなさい」
もじもじと肩をすぼめてクラウディアは謝ったが、僕は軽くため息をつくだけにしておいた。
問題はそんなことじゃない。今、意識を集中させないといけないのは、あの証言台に立っている全身防護服に包まれたサマンサ・ウォリック主査だ。
「裁判長。サマンサ主査にはまず被害者がどのような方法で蘇ったのか、その方法について証言していただきます」
うっすらとコメカミをピクピクさせているシェーファー検事。あれは笑いを堪えているのか、それともサマンサの奇天烈な格好にイラついているのか判断に迷うところだった。
「ふむ。では証人、証言を始めてください」
終始無言だったサマンサはそれを合図に証言台の前にあるスピーカーのスイッチを入れる。一瞬、キインという金属音が鳴り響いたがすぐに止んだ。
「あー、ごほん。んー。感度良好。この声、ちゃんと聞こえますか?」
「……」
「あの、裁判長?」
「は、はい?私ですか?」
いくら変な格好をしているからといって気を抜きすぎじゃないのか?裁判長はサマンサにスピーカーで話しかけられた途端に体をビクンと震わせ、目を大きく見開いた。
「あ、いえ、この声ちゃんと届いているのか、教えて欲しかったのですが……」
「あ、ああそうですね。ええ問題ありません。では証人は証言を始めてください」
「……はい」
フルフェイスのマスクのせいでその表情はよく読み取れないが、なぜかひどく落ち込んでいるように見えた。
「まず被害者のハル・アンダーソンですが」
ゴソゴソと防護服の中から音がした。もしかしたら中で書類を読んでいるのかもしれない。
「彼の蘇生方法は医療措置の結果ではありません。彼は魔法の力によって死より蘇りました」
「ほう。しかし、私の知る限り……」裁判長は白ひげをいじりながら、何かを思い出すように言った。「人を蘇らせる魔法使いは現存していないと思いましたが……実際は違うのですか?」
「いえ、そのご記憶に間違いはありません」
サマンサ主査は淡々と続ける。
「現在、世界中に存在する魔法使いのうち、死者を蘇らせる力を持つ者は存在しません。過去100年の間もそれは同様で、歴史上死者を蘇らせる力のある魔法使いがいたという公式記録はありません」
ただし、とサマンサ主査は付け加える。
「それに類する魔法道具は存在します。それは死者の宝珠です」
――死者の宝珠?それは確か……
僕は図書館で調べた文献を思い起こす。
50年前の世界戦争のとき、魔王はサドム共和国を侵攻した。その際に3つの国宝を奪った。その国宝とは龍神の刃、女神の羽衣、そして……
「50年前の戦争で失われたサドム共和国の秘宝、死者の宝珠。太古の魔法使いが精製したと言われるこの魔法道具には、死者を蘇らせる効力があります」
――被害者はそれを使用して、死より蘇りました、とサマンサ主査は証言した。




