死の証明方法
やけに凄みのある声で淡々と告げるシェーファー検事。法廷は一瞬静寂に包まれた。
明らかに、雰囲気に呑まれている。
まだ何もしていないのに、なぜか法廷全体がシェーファー検事を優勢とみなしている気配が漂っていた。
――まずい、このままだと、クラウディアの心象が悪くなる。
なんとかして反論しないといけない。でも、どうやって?
僕は思案し、そしてシェーファー検事に異議を唱えた。
「異議あり。確かにレイクサイド事件とゴロウト事件の判例より、死者が蘇ったとしても殺人罪を適用させることは可能です。でも、その両方のケースと今回のケースとでは一つだけ決定的な矛盾点があります」
とは言ってみたものの、さて、どうやって説明するか。
一息いれつつ、考える。横を見るとクラウディアがいまだに被害者の方を凝視していた。
――何をそんなに驚いているんだ?
いや、驚いて当然か?
死んだと思ってた人間が蘇った。どう考えても普通ではない。
そう、普通なら考えられないし、そもそもこうやって生きていた以上、本当に死んでいたかどうかすらも怪しい。
そう、そこが反撃の糸口だ。
「ゴロウト事件では被害者に死の三兆候はありませんでしたが、脳死が死の根拠として殺人罪が構成されました。レイクサイド事件も同様です。こちらは誤診ではあるのですが、死の三兆候があったからこそ第一審で殺人罪が適用されたのです」
僕は被害者の方を指差す。
「そこの被害者が死んだというのなら、いつ、どうやって、なぜ死んだ?そのときの死亡診断書はあるのか?医師の診断がないのであれば、死んだことの証明はできない」
――バンッ!机を叩き、威圧する。そして言う。「死んだけど蘇った?はあッ?そうじゃないだろ?本当は生きていた人間を死んだと誤診した、の間違いじゃないのか?」
裁判長を見る。今までは検事側に傾いていたように見えたが、今ではどちらが正しいのかわからないといった顔を浮かべていた。顎から伸びる白くて長い髭を擦りながら苦悶している。
「ふむぅ、確かに弁護側の異議はもっともです。人の死というのは、医療制度が進歩するごとにより不明瞭になっています。本当に被害者が死んだのであれば、その証明書が必要になります」
「私も裁判長の意見には賛成ですわ」とシェーファー検事は同意する。
――ていうか、今のは僕の意見なのだが。
「人の死を証明するのはとても難しい。たとえ生命が失われても、細胞さえ生きていれば死んでいないなんて言ったら人間は論理上、死ねなくなります」
――ですが、ここではそんな細かいことを言いたいわけではありません、とシェーファー検事は続けた。
「被害者は死んだ。そして生き返った。これは科学捜査研究所の領分ではありません。魔導心理研究所の領分です。科学で証明できないのであれば、魔法の力で証明いたします」
「へえ?魔導心理研究所のスタッフは医者なのか?」
と僕が反論すると、シェーファー検事は「そうですよ、知りませんでした?」と余裕たっぷりの笑みを浮かべた。
「魔導心理研究所のサマンサ主査は医師免許のある非常に勤勉で優秀な、お医者さんでもあるんですよ」
シェーファー検事は隣に控えているユージン検察事務官に目で合図を送る。すると、事前に用意しておいたのであろう、A4サイズの用紙を渡す。
「これはサマンサ主査による死体検案書です。死体検案書は死亡証明書と同等の死亡を証明する効力があります」
こ、この女。――用意周到すぎる。
あまりにも完璧な準備に、吐き気を催しそうだった。
「私が説明しても良いのですが、やはりここはプロに説明願いましょう。裁判長、これより被害者がどのようにして死亡し、そして蘇ったのか、検案に携わった医師に証言していただきます」
――よろしいですね?と、シェーファー検事は有無を言わせない物言いで裁判長から同意を引き出した。




