面会(9)
「事件が起きたのは……」
ナターシャは資料をテーブルの上に置き、言う。
「雪山の観光ホテルね。ウェストミンスターホテルって知ってる?」
「確か、リゾートホテルで有名ですね。一度は泊まってみたかったんですが……」
「5歳の頃に宿泊したことがあるわ。あそこのホテルはね、崖を背中にくっつけるようにして建っているの。だから1階と屋上にそれぞれ出入り口がある」
「屋上にも?どことつながっているのですか?」
「展望台があるわ。見晴らしがすごく良くて、有料の双眼鏡が設置されていたと思う。あと屋上から崖の上にも渡れてね、その先には森があってピクニックにはうってつけだよ」
リゾートホテル。崖の上の森、そして展望台。頭の中でメモしきれそうにないので、ノートを借りた。
「事件が発覚したのは11月12日。早朝。ホテルの警備員が1階の庭園を巡回中に遺体を発見したの」
「庭園?どれくらいの大きさですか?」
「うーん、詳しい資料はないね。私の記憶だと、結構広かった。あそこの庭園には大きな池やら果樹園やらもっさりした生垣やら……あと変な銅像があちこちにあってね、ちょっと不気味だったかな?」
銅像?なんのこっちゃ。
「遺体が発見されたのは、ちょうどホテルの付近に設置された銅像の傍だったみたいね」
ナターシャは資料をめくる。すると、現場周辺を上から見た断面図があった。
見取り図の左側には縦一本に線が引かれており、その横にはホテルと書かれてある。おそらく、この線から左側がホテルということなのだろう。すると、右側が庭園ということになる。
庭園のちょうど真ん中あたりに○が書かれてあった。
「この○はなんですか?」
「それが銅像」
「どんな像ですか?」
「うーん、ちょっと待ってて。確か資料と一緒にもらったはず」
ナターシャは机の上にバラバラになった写真を一枚ずつ見て、「あった!これだ!」と叫んだ。
ナターシャから写真を受け取る。そこには下から見上げるように撮影したのだろう、白馬に乗った戦士の姿があった。
白馬も戦士も石像であったが、青々とした空に向けて突き上げている剣は、太陽の光を反射している。どうみても本物の剣だった。
そして、その剣には赤い液体が付着していた。
「これ、血痕ですか?」
「そう。被害者の血液型と一致したし、間違いなく本物」
銅像。剣。そして血痕。
銅像がその手にかかげる剣はどう見ても2メートル以上の高さにあった。石像は地面に固定されているし、人一人の力でどうにかできる重さにも見えない。
「あの、まさかとは思いますけど、これが凶器ではないですよね?」
「まさか。凶器はこっちだよ」
ナターシャ所長はもう一枚の写真を取り出す。
「凶器はこれ。聖剣、ブルートガング、だよ」
僕はまじまじと写真を見て言う。こざっぱりした鞘に、年代ものを思わせるような質素な剣があった。正直、鈍らにしか見えない。
「なんですかこれは?」
「だから、聖剣なんだって。聖なる剣。精霊の加護を受けた、神聖なる一品なんだって」
頭痛がした。なんだこの事件?