※日記
十二月五日。十年以上昔から書いている日記ですが、今日で書くことを止めようと思っています。
先日。差出人不明の封筒が私宛に届きました。その内容は、50年以上前に勇者によって滅ぼされたとされる魔王が実はまだ生存していて、世界の転覆を狙っているというものでした。
正直なことを言えば、私にはその手紙の真偽は測りかねました。今まで俗世から離れ、ただひたすら世界の平和を願っていた私には、この手紙がただの悪戯か、それとも陰謀渦巻く悪の根源にいち早く気づいた何者かによる報せなのか、検討がつかなかったからです。
今思えば、私は物事をもっと斜めに見るべきだったかもしれないと後悔しています。
私には世間一般でいうところの常識というものがありません。それは私がいわゆる普通と呼べるような生活を今まで送っておらず、そのような知識も分別も持ち合わせていなかったからです。
だから、私は信じてしまいました。
差出人が誰かもわからないこの手紙に書かれている内容は一言一句違わず本物で、この世界には今もまだ平和を脅かす悪の根源が存在し、そして私には……
それを斬るだけの力がある。
私の身体にはかつて、魔王を世界から駆逐した勇者の血が流れているそうです。
なぜ、私は動いたのか。それはもしかしたら、既に亡き勇者の血が身体を突き動かしたのかもしれませんし、もしかしたらそのようなものとは全然関係のない理由で動いたのかもしれません。
世間について何も知らない私ですが、本当にわからないのは、今の自分の気持ちです。
なぜあんなことをしたのか、未だにわかりません。
こうして最後になる日記を書いているのも、文章にすれば自分の思考を整理する役に立つと信じたから書いているのです。
決して後になって思い起こしたり、思い出に耽ったりするためではありません。
……長くなりました。
私はまだ十八年しか生きていませんが、今日ほど長く日記を書いたのは初めてです。
この数週間ほど心を動かされる瞬間を、私は今まで一度も経験したことがありません。
ああ、そうか。ようやくわかりました。私は、喜んでいたのです。
私は今までずっと、悪を殺せと教育されてきました。ただひたすら、将来生まれるかもしれない悪の化身を倒すために、身体を鍛え、剣を振るい、そしてただひたすらその時がくるのを待っていました。
とても、とても長い間待っていました。人と交流することをやめて、自然の中で孤独に生きて、季節が移りゆく様を剣を振るいながら、それでも待っていました。
本当に、長かったのです。もしかしたら、もう魔王なんてこの世界には存在しておらず、私は、世界にとって無用な存在になってしまったのではないのかと考えていました。
それはとても恐ろしい考えでした。このまま誰も私を必要とせず、このまま老いて死んでしまうのではないのかと考えると、震えが止まらず、夜も眠れませんでした。
だから、あの封筒を受けとったとき、私は本当に歓喜したのです。
やっと、この生活が終わる。新しい世界に行ける。
私はそれだけを信じて、やりました。
そうです。私は確かに、25日前の夜、魔王を殺害しました。
明日、弁護士がやってくるそうです。どのような人がやってくるのかわかりませんが、私はありのままに見たこと、聞いたこと、そしてやったことを白状するつもりです。