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さくら草ガーデンのガーディアン

作者: 羽生河四ノ

これを読まれる方は、是非もう一つの方もご覧下さい。

 私の名前は鈴子です。私が今住んでいるのは、さくら草ガーデンというアパートです。私は今年で小学校六年生になります。来年からは中学生です。私がこのアパートで暮らすようになってから今年で十二年になります。つまりここは私にとって誕生のルーツになるということになります。そして私にとってここはどこよりも過ごしやすいところになる訳です。お母さんと旅行から帰ってきた時などにそう思います。やっぱり家が一番だと。落ち着く場所です。ベランダから見えるビルの赤い灯がお気に入りです。

 私にはお父さんがいません。私がまだ小さい頃事故で死んでしまったそうです。残念なことに私にはお父さんの記憶がありません。写真でしか私はお父さんを知らないのです。写真の中でお父さんはいつも笑顔です。私とお母さんは毎朝それに行ってきますをします。 それだから母ひとり子一人の生活です。シングルマザーと言うやつです。なのでお母さんは、仕事が忙しく家にはあまりいません。でも、それは仕方の無いことだと私は思っています。やっぱり稼ぎが無いと生活は難しいですから。それにお母さんは、職場ですごい研究者なのでとても忙しいのです。何でもお母さんが居ないと研究が進まないそうなのです。だから私はそんなお母さんがすごいと思います。心から尊敬しています。私はお母さんをなるべく困らせないように気をつけています。

 でも私はまだ子供なので、

 「家に帰ったとき誰もいないのはまだ幼いあの子には辛いんじゃないか?」

 まわりの大人がそんな風に私や家庭の事を心配します。確かにお父さんがいないのは寂しいです。どうして私たちだけ残して死んでしまったのかと思います。それに学校の先生等は母子家庭についての様々な心配をしていました。私が非行に走るというようなことをです。でも私は大丈夫です。私は家に帰っても一人ではありません。ここ、さくら草ガーデンには管理人さんがいるからです。そして私はいつも管理人さんと遊んでいるからです。


 私が住んでいるさくら草ガーデンには、夏目凛子さんと言う名前の管理人さんがいます。

「鈴子。こないだのゲームね。あれ、何かわかんないとこあるから、カバン置いたらすぐ来て。お願いね」

 「勉強は?」

 「だいじょうぶ。鈴子には楽勝でしょ?」

 「でも、今日は理科の記号が・・・」

 「楽勝楽勝。ちゃんと教えてあげるから。で、お母さんは?今日はどうなりそう?」

 「今日も遅いよ。さっきメールがあったから」

 「そう。じゃあ、まずはおやつでも食べようか?」

 凛子さんも管理人の仕事の一環としてここ、さくら草ガーデンに住んでいるのです。なので私はしょっちゅう凛子さんの部屋にお邪魔します。凛子さんは頭がいいので勉強を教えてもらうのです。凛子さんの教え方はとても分かりやすくて、嫌いな算数の式や、理科の記号が簡単に解けてしまいます。それに勉強だけでなくTVゲームで遊んだりもします。お菓子を一緒に作ったりもします。時には凛子さんの家でご飯も食べます。凛子さんはとても優しいので私は大好きです。それに凛子さんはいつも私が帰ってると、真っ先に私に声をかけてきます。

 「おかえり、鈴子。学校どうだった?」

 「凛子さん、ただいま」

 こんな感じです。凛子さんは私がまだ小さい頃からここの管理人だったそうです。お母さんと凛子さんは学生時代からの友達だとお母さんから聞きました。その頃から凛子さんはお母さんとすごく仲がいいそうです。だからお母さんもとても安心しています。私も二人が友達でよかったと思います。お母さんが休みの日などに凛子さんを私たちの部屋に招いて買ってきたケーキで三人でお茶をすることがあります。

 そこで二人の会話を聞いていると私はなんだか幸福な気持ちになります。それは私の最も好きな時間です。私はお母さんと同じくらい凛子さんが大好きです。

 

 私が凛子さんの部屋にいるのは、お母さんが帰ってくるまでの時間です。お母さんはどんなに忙しくても必ず毎日家に帰ってきます。だから私は凛子さんの部屋に泊まったことがありません。でもお母さんの帰宅が深夜になってしまうこともあるので、私はお母さんの帰りを待てずに凛子さんの部屋で寝てしまうこともあります。本当に時々ですが。でも次の日の朝、私が起きるといつの間にか私は自分の家の自分のベットの上にいます。その理由は簡単です。お母さんか、凛子さんが眠ってしまった私を自分の部屋までおんぶしているからです。この間寝たふりをして確かめたので間違いないです。その時は凛子さんがおんぶしてくれました。私はそんな些細な事でも、とても幸せな気持ちでした。私が本当は寝ていないことに気づかない二人は、私を何かとても大事なものの様に運んでいました。本当は寝ていなかったことがわかったら怒られてしまうかもしれません。でも私はそれでもいいと思います。その後私は本当に寝てしまったのでわかりませんが、二人はリビングで何かを話していました。私もはやく大人になって、その会話に混ざりたいなと思いました。


 この間台風で電車が動かなくなってしまったことがあった時のことです。お母さんから、職場から今日は帰れないと連絡がきました。なので、私はそのとき初めて凛子さんの部屋に泊まりました。凛子さんの部屋に泊まるということが初めてだった私はとても、喜びました。もちろんお母さんが帰れないことは心配でしたが、それよりもその時は興奮が勝っていました。

 凛子さんと夜遅くまで、ゲームをして遊びました。次の日は土曜日なので、少しぐらい夜ふかしをしたって何も問題はありませんでした。窓が台風で時々ガタガタとなりました。私一人の時であれば、怖くなったかもしれません。でもその時は凛子さんが一緒にいたので大丈夫でした。むしろ二人で、きゃっきゃっとはしゃいだくらいでした。

 その日の深夜のことです。私がトイレに起きると、もうすっかり台風は行ってしまったのか外は静かになっていました。カーテンを少し開けて外を覗いてみると、月が出ていました。とても明るい夜でした。そこで、私は気がついて自分と凛子さんが寝ていたところを見てみました。

 凛子さんがいませんでした。私はこんな夜にどこに行ったのだろうと、心配になりました。私はその不安でものすごく怖くなってしまいました。

 するとその瞬間、外から何か音がしました。「ガキン」という金属が何か同じ様な物に当たって弾けたような音でした。鉄棒を文鎮で叩いたような音でした。なので私は、もう一度カーテンの隙間から外を覗いてみました。

 そこに凛子さんがいました。凛子さんは剣のような尖ったものを持っていました。何をしているのかと見ていると、何かの大きな動物のようなものが凛子さんに向かって飛びかかっていきました。私はびっくりしました。それはよくみると怪物だったからです。いままでどんな図鑑にも載っていないような怪物だったのです。凛子さんはそれと戦っているのでした。凛子さんの顔は今まで私には見せたこともないような怖い顔をしていました。それで私は、凛子さんは本当に戦っているのだと確信しました。

 私が見ている事に気づかない凛子さんは、正体不明のその怪物との攻防を多分10分位は続けていました。どちらも疲れを知らないような、素早い動きの連続でした。私は見ていてドキドキしました。プリキュアとか仮面ライダーとかなんとかレンジャーみたいなものを想像しました。日曜朝のなんとかタイムみたいなのを想像しました。

 「実際に居るんだ・・・・」

 そんな独り言を思わずつぶやいた程でした。

 凛子さんと怪物の一進一退の戦いは、それから間もなく決着がつきました。怪物の動きが一瞬、鈍ったようでした。見ていた私にもそれが分かりました。その瞬間を凛子さんは逃さずに怪物の脇腹に剣での一撃を加えました。本当に一瞬のことでした。凛子さんの攻撃を食らった怪物は、何かの叫び声をあげました。そして、そのまま倒れて動くなくなりました。更に驚くことにそのまま消えてしまいました。その後、その煙のように消えた怪物のいた場所を凛子さんはしばらく悲しんだ顔で眺めていました。それで両者の戦いが終わったのだと思いました。私は我を忘れてその光景に魅入っていました。凛子さんの顔ももう怖くなくなっていました。唯今まで見たことも無いような悲しそうな顔が表面には残っていました。そして私はそれをずっと見ていました。これはもしかして夢なんだろうか?私はそう思いました。その後、戦いの終わった凛子さんがこちらに戻ってくる時にカーテンの隙間から覗く私を発見したそうです。凛子さんの話によると私は、固まってじっと凛子さんを見ていたそうです。私にはその記憶がありません。私には凛子さんが心配そうに私に笑いかけてくれた記憶しかありませんでした。そしてそれらの出来事は、夢でも何でもありませんでした。その証拠に私と凛子さんはその出来事について朝までお話をしたからです。もう眠くもなんともありませんでした。


 凛子さんは、隠し事などをしない人です。私はそんなところも好感度が持てました。子供だからとごまかしたりしないで私に話してくれました。凛子さんと私はいつもゲームをするときに座っているソファーに座って、凛子さんの出してくれたコーヒー(私のはミルクと砂糖入り、凛子さんはブラック)を飲みながら話を聞きました。

 私たちが住んでいるこのさくら草ガーデンは何か、そういったエネルギーの滞留する場所なのだとのことでした。私は今までそんなこと気づかなかったので、スゲーなと思いました。そして、この世の中に居る、あるひと握りのそういったものを栄養にしているエネルギー生命体が時たま、ここに来るんだそうです。そしてそこからエネルギーを奪おうとするのだそうです。私は世の中には色々な生き物がいるのだなと思いました。その怪物に関心すらしました。

 そういった生き物はある種の感情から生まれるのだそうです。そしてそういったものを栄養にするのだそうです。

 「最近は、その数も昔より増えてきてさ。前より忙しいんだよ」

 凛子さんは、以前より三倍くらい忙しくなったという旨の内容を私の頭をくちゃくちゃと撫で繰り回しながら言いました。私は普段、お母さんに整えてもらう自慢の髪を弄られるのは絶対に許さない人間です。でも凛子さんには許可を下ろしています。

 「どんなものを怪物は一番栄養にするんですか?」

 私は凛子さんの話を聞いてるうちにさっきの興奮が蘇ってきて、鼻息をフンフンと荒くしながら凛子さんに聞いていました。やっぱり何か、怒りとか、悲しみとか、そういった在り来たりのものがそうなんだろうか?私はそんな想像をしていました。

 「・・・う~ん、その・・ね・・・」

 凛子さんは、隠し事などしない人です。だから、そのなんとなく濁った応対は意外でした。そんな凛子さんは初めて見ました。その日は凛子さんの初めてづくしでした。怪物の事をちゃんと私に話してくれたのに何が言いづらいのかと、私は思ってしましました。

 「凛子さん?どうしたんですか?」

 「・・・さくら草ガーデンはさっきも言ったとおり、元々そういったエネルギーの集まる場所なんだよね。でもそれだなら、こんなに忙しくはならないはずなの。そこに何か違う何かが混ざらないと三倍増しで忙しくなるなんて考えられないからね・・・」

 「・・・」

 凛子さんがコーヒーカップを見つめながら、私を見ないで話をする様は、私にとって不安を掻き立てるだけの動機として十分なものでした。

 「・・・」

 凛子さんは私を少し見て、少しだけ笑ったようでした。そしてポツリと言いました。

 「凛子さあ、似てきたんだね。お父さんに・・・笑った時の顔とかさ・・・」

 私は驚いてしまいました。凛子さんとは今までそんな話をしたことが無かったからです。 お母さんと凛子さんが、そんなことを話しているのも聞いたことがありませんでした。

 そう考えてみれば、私が寝てしまった後で二人がどんなことを話しているのか、という疑問も解けました。凛子さんはきっとお父さんとも知り合いだったのだろうと私はその時思いました。

 「まあ、ぶっちゃけちゃうと、あいつらは鈴子を狙ってるんだね。もっと正確にいえば、鈴子のお母さんが鈴子にむけている想いと、鈴子に発生するお父さんの面影に対する想いがっていう感じかな。それが混ざり合って、この場の力のおかげでとても美味しそうに怪物には見えるんだ」

 私はその時、とてもぼんやりとしていたと思います。ああ、愛情とかも狙われる材料の一つなんだな。とかを考えていたと思います。それ以外は何も考えていませんでした。でも、凛子さんの次の言葉で私はかろうじて意識を取り戻しました。

 「じゃなきゃ、鈴子にあの怪物が見えたわけないんだもの」


 凛子さんは、ガーディアンでした。さくら草のガーディアンでした。そして私を守ってくれていました。凛子さんはとてもかっこいいのです。私にとってはプリキュアとかライダーとか戦隊よりかっこいいヒーローです。ひと月の中で十日位は戦っています。私の為に戦ってくれるのは嬉しい反面、申し訳なくも思います。それでも凛子さんは、

 「いいの、いいの。腕が鈍るのもなんかもったいないしね」

 そう言って快活に笑ってくれます。そんな笑顔に私はとてもホッとするのです。

 一方、私はというと自分が怪物に狙われているという事や、お母さんの内面の感情が実はとても寂しい思いをしていることに気づけなかった事がとてもショックでしたが、お母さんにそれについて何かを言ったり、引越しの案件を話したりはしませんでした。それどころか、私はそれらのことをお母さんには何も伝えていません。お母さんにそれを伝えたりしたら、きっと、絶対心配してしまうと思ったからです。凛子さんにも、私は何も知らないから凛子さんも今までどうりにお母さんと接してくださいと約束してもらいました。

 お母さんは、私にとってとてもかけがえのない人です。私はお母さんの仕事をする顔が好きなのです。そんなお母さんを私はかっこいいと思うのです。

 「鈴子、どうしたの?何か前より甘えん坊になったんじゃいの?」

 だから、それくらいは許してね。お母さん。

 

 私は最近、凛子さんの戦いの手伝いをしています。私が狙われているのだから、それが当たり前だと思ったからです。凛子さんに戦い方を教えてもらうという日常は、今まで想像もしないことでした。それだけになんとも新鮮で刺激的で面白いものです。凛子さんは戦い方の教え方も上手だなと思いました。

 怪物との戦い方を早く覚えて、自分の身を自分で守れるようになれば、お母さんも凛子さんも安心してくれるかなと、そう思うのです。早くそうなればいいなとも思います。お母さんや凛子さんが安心してくれれば、私にとってそれほどの幸せな事は無いのではないかと思うからです。


 ところで、私がここに書いた以上のことは秘密のお話です。私と凛子さんだけの秘密です。所謂、社外秘というやつだと思います。だから誰にも言っちゃいけないです。特にお母さんには絶対に言わないでくださいね。絶対に約束ですよ。



自身の幼少の頃の作文が多分こんな感じだったと思う。

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[良い点] 凛子さん、男前で優しい人。鈴子(りんこ?すずこ?)も素直な良いコですね。 さくら色ガーデン、とても神秘的なマンションです。怪物の栄養源は、負の感情だけではなく、愛情までエネルギーにして喰…
2020/11/07 17:13 退会済み
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