逃亡します。
久々の投稿なので、楽しんでいただけたらうれしいです。
逃げよう。
ここまで流されてきたけど、これではだめだ。異世界トリップとか、ファンタジーだけど、ここまで来たら腹をくくるしかない。
右手に赤子、左手に幼児と手をつなぎ、ひっそりと城から抜け出した。
***
バイトも終わり、一人暮らしの自分の城である1Kの部屋の扉を開けた。
扉を開けた瞬間まばゆい光に包まれ、気付いたら神殿のようなところで、白装束の人々に囲まれた。
その中の一番ごてごてした服を着たおじいちゃんに声をかけられた。
「神子様、よくぞいらっしゃいました。神子様にはこれから竜王様と跡継ぎを作っていただきます。」
「……はぁ……。」
「おお、ご納得いただけましたか。では早速準備をさせていただきます。」
あれよあれよという間に、でっかい風呂に連れられ、何人もの女の人に体を磨かれ、なんだかうっすいセクシーなネグリジェを着さされ、でっかいベッドがある部屋に押し込まれた。
扉の鍵は閉められてしまったようだ。ベッドからはなんだか人の気配もするし、ここはベッドに近づくしかなさそうだ。
ベッドの上には、紅い長髪で、黄金の瞳をしたたいそう美しい男性が……。
「そなたが余のつがいか?」
「……よくわかりませんが、たぶんそうです……。」
「そうか、ではこっちにこい。」
恐る恐る近づき、ベッドまであと一歩というところで手を引かれ、ベッドに押し倒された。
まぁ、そのあとはめくるめく官能の事情でした……。
私、バージンだったんだけど……ここは貞操観念の低い現代人。大事にとっておいたわけではなく、相手がいなかっただけだし、気持ちもよかったし。
初夜からは毎晩、竜王様とかいう紅い髪の美青年に襲われ、昼まで寝て、昼からもベッドから起き上がれない日々。
そんなことを繰り返していれば、できるものはできるわけで……3か月ほどたったころ妊娠した。
10か月後には、双子の男の子を出産した。一人目は、私と同じ黒い髪、黒い瞳の男の子。二人目は、美青年と同じ紅い髪、金色の瞳だった。
二人目の子は竜王様の血が強いらしく、3日で首が座り、6か月ほどで3・4歳児くらいに育った。反対に一人目は、私の血が強いのか驚異的な成長を見せることはなかった。
二人の名前は、竜王様がつけた。一人目がシオン、二人目がディランという。意外にも子煩悩な父親で、嫌な顔せずおむつなどを変える。
ここにきて、1年強……不思議な家族が出来上がった。
2年近くもともに暮らし、体をつなげ、子供まで作れば情が出る。私はすっかり竜王様を愛していた。
だけど、私の役目は子供を作ること……できてしまった今、自分の身の振り方すらわからない。出産後半年ほどたったが、竜王様との体の関係はない。もともとあまり会話もしないので……。
このままではお役御免ということで、子供とも引き離されるかもしれない。
竜王様の愛は得られなくても、子供を授けてもらった。私は子供も竜王様も愛している。ここまで流されてきたものの、引き離されるなんて我慢できない。
逃げよう。流されてばかりいてはいけない。
今日は城に先月出て行った視察団がもどってくる。その混乱に紛れて、着の身着のまま逃げ出した。
***
それから半年、長いようで短い逃亡生活。いろいろなところを転々しているが、ディランの成長を考えればしょうがないことだった。ここ2週間ほどは片田舎の小さな村に落ち着いている。村の人は優しく、こちらの事情は聞かず、手を貸してくれる。しかし、あと少ししたら、また別のところに行かねばならないだろう。
子供たちはすくすくと育ち、シオンは一人で歩きだすようになったし、ディランのみためは8歳くらいになり、それにともなった情緒の発達をしている。シオンは身体の成長は遅いが、情緒面では、ディランより発達しているようだった。
二人はお互いを名前で呼び合う。城にいたころは、ディランはシオンを「兄様」と呼んでいたが、城を出て、おかしい思い、直させた。
城を出て、この世界のこと、国のこと、竜王様のこと、さまざまなことを知った。私は城にいたのに何にも知らなかったし、知ろうともしなかった。こんなのでは、愛されなくて当然だ……。
昔この大陸には、竜と人間が互いに干渉せず暮らしていた。しかし、竜の力に目がくらんだ人間は竜に戦を仕掛けた。人と竜の力の差は歴然、人は戦に敗れた。竜はとても愛情深い生き物で、戦に敗れ、疲弊した人々に知識を与え、道を示した。国が安定してきたころ、竜は人との寿命の違いにさみしさを覚えたそうだ。そんな頃どこからともなく女があらわれ、竜のつがいとなり、子をなしたそうだ。これがこの国の始まりであり、以来ずっと、竜の子孫が国を守っているらしい。
現在の竜王様の名前はオズワルド・クリス・アルデリン=セジュマ。歳は28らしい。今度つがいを迎えるらしく、そのための旅にでたらしい。
無理やり迎えさせられた私ではなく、本当に好きな方を見つけたようだ。複雑ではあるが、幸せを願う気持ちももちろんある。気持ちに整理がつき、竜王とつがいとの間に子が生まれたら子を連れて、会いに行こうと思っている。
***
そろそろ、場所を変えようと荷物をまとめていた。今日はなんだか外が騒がしかった。
バン―――
勢いよく扉があいた。子供たちがかえって来たのであろうと思った。いつものように迎えようと思って振り返った。
「おかえ――……。」
「……やっと見つけた。」
振り返った先にいたのは、子供たちではなく竜王その人だった。竜王様の足元には子供たちがへばりついている。
「「かあさま、とうさまきた。やっときたよー。」」
「……え…………なんで……。」
思わず、疑問を口にしてしまった。
「なんでだと……。お前が、余の前からいなくなるからだろう。シオンが知らせてくれていなければ、私は未だにお前を捜索し続けなければならなかった。」
「え、シオンが知らせた……。まだ、満足に歩けないのに……?手紙だって書けないのですよ……。」
「竜の伝心能力だ。まだ幼く、力は弱いが、近くに来た余に、所在を知らせてくれた。ディランのほうが身体的に竜の力をついでいるようだが、能力はシオンが上だな。」
「そうなんですか……。でも、なんで……探しに来たんですか……。子供たちが理由ですか……。」
「何を言っている……。」
竜王様の苛立ちが伝わって、肌がビリビリするようだ。
「とうさま、かあさまとケンカ~?かあさまなかせたらゆるさないよ。」
「でぃらん、とうさまとかあさまはケンカしてるんじゃなく、はなしをしているだけだ。すこしそとにでていよう。」
「シオンがそういうなら……。」
「いこう。いってきますね。」
「ああ。」
ディランは納得した様子ではなかったが、シオンに連れられ?連れて?出て行ってしまった。
二人っきりになり静かになった室内。沈黙を破ったのは、竜王様でした。
「……なぜ、余の前から姿を消した……。そんなに余が嫌いだったのか……?」
「ちが……」
「何が違うのだ。お前と子供たちがいなくなったと聞いて余がどれだけ心配したと思う。誘拐されたのかと思ったんだぞ!!!もう、生きていないかもしれないと考えたこともあった。そんなことばかり考えて、この半年ほど生きた心地がしなかった。」
「ご……ごめんなさい……。」
竜王様がそんなに子供のことを考えているとは思わなかった。無理やりあてがわれた女の子供でも、やっぱり子供はかわいいらしい。
「本当に悪いと思っているのか?」
「はい……子供たちを勝手に連れだして本当にごめんなさい。」
「……さっきからお前は子供のことばかりだな……。余は子供たちはもちろんだがお前のことも心配していたのだぞ。お前はこの国おことなど何も知らないのだからな……。なぜわからないのだ。そんなに私が嫌いか。だから2年たっても余に名を教えないのか。こんなに……愛しているというのに……。」
ありえない言葉を聞いた気がした。
「……あいしてる?」
「ああ、愛している。無理やり連れてこられたお前には迷惑なことかもしれないが……愛しているんだ。」
「……うそだ…………。」
「うそなものか。」
「……ぜったい、うそだ……。」
「なぜ信じぬ。」
「…………だって名前も教えてくれなかったもの…………。何も、名前すら聞いてくれなかったもの……。」
「何を言っている……。お前が私に教えなかったのだろう。名を名乗ってくれぬものに名を名乗れるか。」
「聞けば教えたもの。」
「聞くなんて、非常識なことができるわけがない。」
「……へ、どうして非常識なの……。」
しばらく沈黙が続いた……。
「……そうか、お前はこの世界のものではなかったな。こちらでは常識過ぎて失念いていた。それに、誰かが教えていると思っていたが……そうではなかったのだな。」
「……何のはなしですか……。」
「今から説明する。よく聞いておけよ。」
「はい。」
「この世界では、女性から名を名乗ったら相手のことを愛している、婚姻してもいいという意思表示になる。この意思表示に対し、男性が名を名乗ったら婚約、場合によっては婚姻の成立だ。男性側から女性に名を聞くのは、結婚を急かす意味合いにとられ、失礼とされ、余裕がないと思われる。」
「名前呼ばないと不便ではないのですか?」
「この行為のとき名乗る名は、真名だ。それ以外のときは通り名を使う。」
「そうなのですか……。じゃあ、シオンやディランにも真名があるのですか?」
「もちろんあるが、それは名付け親と、本人、将来の伴侶しか知らなされない名だ。」
「そうなのですか。少し残念です。」
「で、わかってもらえただろうか?余が名を聞かず、名乗らなかった理由を……。知ったうえでお前はどうする。余は、お前を手放すことなどできないのだが……。」
竜王様と関係を持って、初めてこの方を真正面から見た気がした。
その瞳にはうそ、偽りがないことがありありと見て取れる。
そもそも逃げ出したのも、この方を愛しているからだ。答えなどとうに決まっている。
「こちらで、私の名を真名と呼ぶかはわかりませんが、私は、晃《あきら》、大蔵晃といいます。」
ガバ―――
名乗った次の瞬間には抱きしめられ、熱いキスをされた。
「……ぅんん……んはぁ……」
「アキラ、アキラ、アキラ。ああ、やっとだ。アキラ、愛している。」
「私も愛しています。竜王様。」
「竜王様ではない。オルドと呼んでくれ、アキラ。余の真名はオルド・グリフという。」
「まとまったようですね。」
いつの間にか扉があいて、子供たちが帰ってきたようであった。
オルドに抱きしめられている現状を思い出し、すぐさま離れようとしたが、放してはくれなかった。
「ちょっと……オルド……」
「ああ、アキラ。そう呼んでくれるのか。もっとだ、もっと呼んでくれ。」
「うまくいったようでなによりです……。」
「とうさまとかあさまなかなおり?」
シオンのあきれたような目線が刺さる。
ディランは嬉しそうにしている。
「ああ、うまくいった。お前たちのおかげだありがとう。さぁ私たちの家に帰ろう。帰ったら婚礼も上げなくては。」
***
城に戻ってすぐ、婚礼が行われた。
侍女たちに聞いた話だが、婚礼の準備はバージン喪失の次の日からなされていたらしく、私が名乗ったらすぐにできるようになっていたらしい。
誤解もあったけれど、思いが通じ合ったオルドは私に甘く、これからもっと家族が増えるであろう。そんな予感を持ちながら、幸せな日々を送っている―――。
たぶん続かない。
~オマケ~
婚礼も終わり、いわゆる初夜。聞きたいことを聞いてみた。
「いつから私のこと好きだったの?」
「…………いいではないか、そんなこと……。」
「大事なことなの。これからすれ違わないようにするために……。」
「……はぁ……初めて見たときからだ……。いわゆる一目ぼれか……。」
「この部屋で会った時ってこと?」
「まぁそういうことになるか……。そう言うアキラはどうなんだ。」
「子供たちが生まれたときには好きだったわ。少しずつ少しずつ好きになっていったの。はっきりいつとは言えないわ。」
「そうか。」
「ええ。」
「ところで、アキラ。今夜は初夜だ。もちろん楽しませてくれるな。」
「え……。」
「『え』ではないだろう。余の気が済むまで付き合ってもらう。子供が生まれてから1年も待たされたんだからな。」
「ま、待たせてなんかいないわ。そっちが興味をなくしたんでしょう。」
「そんなわけあるか。出産後は身体がきついと聞いていたから我慢していただけだ。それなのにいなくなって……容赦しないからな。」