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慣れと謝罪と仲直り





 目が覚めたらすっかり朝で。




「おはようございます、ハナ様」




 笑顔のフィノアが枕元に立っていた。




「一晩中人の寝顔見てたの?!」


「違います。三時間ほど前からですよ。フフ…ハナ様って寝顔も可愛らしいですね。涎を垂らしながらスヤスヤと…時間を忘れるほどでした」




 どこから突っ込むべきだろうか。

 …や、もういいや。突っ込んだら負けだと思っておこう。

 フィノアちゃ…もうフィノアでいいや。そういう子なんだ、うん。


 いそいそと服を脱がし始めた彼女をそのままに話だけ進める。




「今、何時くらい?」


「朝の七時でございます。着替え終えたら朝食をお持ちしますね」




 そういえば時間は私の世界と一緒なんだろうか。

 聞いてみればちゃんと二十四時間で一時間は六十分だった。英語といいこの世界よく似てるなぁ。

 カレーの話といい、何処かリンクしてる部分があるのかもしれない。



 冷たく濡らされたタオルを渡され顔を拭く。彼女が持ってきたのは着替えはちゃんとお願いした通りズボンだ。スカートは昨日だけで充分。

 白地に銀色の装飾がされた動きやすいがカッチリとした服だ。ちょっとデザインが騎士服と似ている。




「女性ですぐ用意出来るズボンのものが騎士のものしかなくて…本日はこの服でお過ごしください。後日新調したものをお持ちします」


「いやいや。これでいいよ。デザインも格好いいから気に入ったし。でも女サイズってことは騎士にも女の人っているの?」


「はい。数は少ないですが、優秀な方が多いです」




 へえぇ~やっぱ訓練所とか見に行かないとね。女騎士なんて美味しすぎる。


 恭しく着せてくれるフィノアは丈などが合ってるか確認した後、満足そうに襟を直して言った。




「とてもお似合いですよ」




 …普通のメイドさんだ。

 なんかえらく感動した。これで今押し倒したりしてこなければ完璧だったんだけどなぁ…。




「今着せてくれたでしょ着せてくれたよね?何でボタンを外すのかな?」


「わたくし、着衣ありの方が好きなんです。チラリズムが最高じゃありませんか」


「なんの話?!」




 無理!慣れたら何か終わる絶対!!


 何とか押し返そうとしたらシーツが手に引っ掛かった。

 そのまま引っ張ってしまいバランスが崩れて二人共々床へと転がり落ちる。




「わっ?!」


「きゃ…」




 咄嗟にフィノアの頭の下へと手を差し入れる。

 凄い性格だが、見た目は華奢な少女。怪我した所なんて見たくない。


 そのまま押し潰しそうになったのをもう片方の腕で踏ん張ると、何とか互いに怪我なく済んだ。




「あっぶな…」


「ハナ様…」




 ん?


 自分の顔のすぐ下には顔を赤くし目を潤ませたフィノアの姿。待て。その反応は間違ってる。

 確かにこの体制は私が押し倒したような事になってるけど事故だから!これ他者から見られたら要らぬ誤解を…






「失礼します。朝食をお持ちし…」






 …招くかも。


 な、何で朝食持ってきたのがラスナグ?!昨日といい今日といい何て展開っ。

 目を見開いた彼はハッとしたようにご飯の乗ったワゴンを素早く室内に置くと失礼しましたとばかりに頭を下げてそのまま扉を閉じた。


 そして再び二人っきりに。




「いやいやいや!ラスナグ待って!誤解だ誤解、カムバーーック!!」




 下で悶えながら腕を首に回してくるメイドさんを押し退けドアに走る。

 これ以上下手に印象悪くしたら私ホントにラスナグに会えなくなるからね!


 勢いよくドアを開ければまだ近くにいた彼の背中をガッツリ掴む。

 振り向いた相手に私は慌てて言ってのけた。






「ごめん…っ」






 昨日の謝罪を。




「昨日は本当にごめんなさい。私、調子に乗ると悪ふざけが過ぎるから…不快に感じたと思う。ラスナグが怒るとは思わなくて…っていつもあんな変態発言してるわけじゃないからね?!変態といえばさっきのは偶然であって誤解だから!メイドさんに手を出すほど飢えてないのっ」




 謝罪を…というより言いたい事を一気に話した状態。

 最後の方は特に意味不明。飢えてないってどんな理由だ。私そんな肉食なのか?


 勢いに負けたのか固まっているラグナスに私もどう続けていいか分からない。とりあえず強く掴んでしまっていた手を放した。




「…ごめんなさい」




 自分でも、何に対しての謝罪か分からない。

 ふと空気が動く。俯いた頭に大きな手が乗った。それを柔らかく動かされ、撫でられていると知った。




「もう、怒ってませんよ。それに俺も…すいませんでした。あんな風に部屋を出ていくべきじゃなかった」


「っ…」




 お…



 怒ってなかったー!良かった、なんなピリピリした空気で日々過ごせなんて言われたからにゃどうしようかと思ってた。

 身長差のせいなのか日本人は童顔と言われるせいなのか、子供をあやすように頭を撫でられる。優しい手付きは何となく父親みたいな暖かみがある。


 それがまたくすぐったくて、その手にすりよるように顔を動かす。





「ありがと」





 優しいなぁラグナス。

 不安部分が解決してご機嫌に笑っていると頭に乗っていた手が止まっている事に気付いた。

 あれ、と見上げようとする前に背中に衝撃が襲う。




「ハナ様っ!朝食が冷めてしまいますので部屋にお戻りくださいませっ」


「わわっ」




 フィノアの小さな体が背中に抱きついてきたようだ。そのまま回れ右よろしく180度体を回転させられ部屋の方へと歩かされる。

 慌てて声だけで彼に伝えた。




「ラスナグっ!また後でー!」




 それだけ告げて部屋へと戻った。

 朝食は一人分しかなかったから、ラスナグやフィノアは誘えない。今度は早起きして一緒に食べようと誘うとしよう。一人じゃ味気ない。



 …相変わらず甘い食事だけどさ。早くも胃もたれでグロッキーになりかけた。






ラスナグと仲直り。

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