挑発と後悔
グロッキーです。
うぅ…満腹感より胃が何かおかしな事になってる……。
夕食のデザートはこれでもかーというほど甘い旬の果物のコンポートでした。大変美味しかったです。
この世界はあれだ。女性の敵だ。こんな甘いものばっかでは一気に横幅が広くなる、確実に。
この世界では常識ってことはカロリー消費が半端なく早いって事だ。見た所太い人はいなかったし…なんてうやらましい…。
困った。長期滞在の場所としては最悪だ。美味しいのが更にいけない。
多分食べ続ければ私も慣れてしまう。実際デザートは胃がいっぱいいっぱいなくせして食べきったわけだし。
イヤだー向こうに戻る時にはブクブクの別人になってるなんて!!
食事…ちょっとこれ本気で改善目指さないと…料理得意ではないけど自炊するべきか…。
「食材…そう、食材を見ないと…塩がないわけはないだろうから…」
「ハナ様?」
ブツブツと呟き始めた私を心配そうに見守るラスナグ。食事を終えて今後の話をする予定が顔色の悪い私を見て彼が退出を促してくれたのだ。
それに乗っかった私を部屋まで再び案内してくれた。現在は私がでっかいベッドの上にダイブした状態なので横に待機中。冷たい水まで用意してくれたよ。甘いけど。
騎士の鏡だよラスナグ…。
「無理をして食べたんですか?やっぱり医師の手配を…」
「大丈夫だって、ただの胸焼けなだけだし。ね、ラスナグ。明日厨房を覗きに行きたいんだけどいいかな?調理場とか材料とか確認取りたいんだけど…陛下と今後の話し合いはそれからでもいい?」
ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、肉なんて簡単に見つかるだろうし、色々味をみておく必要も出てきた。
素材を生かしたって言ってた…甘かったりしちゃうんだろうか…。
「それは勿論いいですよ。手配しておきます」
「ありがとう」
ようやく復活してきた体を起こして笑顔でお礼を言えば、にっこりと笑みが…返されずに視線を逸らされた。え、何で。
「ラスナグ?」
「…大変言いにくいんですが…その…」
顔が赤い。何で急に赤面なんだろうか。逸らした目線と何か関係が…。
嫌な予感がして目線を下げる。そのまま自分の格好へ。
うつ伏せでベッドにダイブしていた私は先程体を起こした。うん、そうだよね。ドレスでしちゃいけなかったね。
見事着崩れ、と言ったらいいのか。肩紐がずれて胸元が大きくはだけてしまっている。でも元々このドレスも胸元が開いたタイプだったので、私からすればそこまで変わった気はしない。だらしないけど。
完全ポロリ、とかだったら私も慌てた所だが…このくらいで赤面とは。
それだったらドレス姿で現れた時赤面してほしかった。
…そんなウブな反応されると悪戯心が芽生えますとも。
「もしかして胸元が見えそうだった?」
「っ、分かっているなら早く直してください!」
「平気で部屋に入って来たくせに…ラスナグが直してくれないの?」
ちょっと小首を傾げて相手の顔を覗き込む。
ギョッと赤い顔のまま振り返った彼はまた胸元に目をやってしまったようで怯んだ表情を浮かべたが、強く目を閉じると勢いよく上着を脱いだ。
これには私がギョッとする。
「ラスナ…っんぶ?!」
「…後でメイドに直して貰ってください。男の前で、そんな挑発するものじゃない」
そのまま上着はボスンッとやや乱暴に私の頭から上半身に被せられた。デカイ!何も見えん!
そのせいでラスナグがどんな顔をしているのか、後半何を言ったのか聞こえなかった。
モゴモゴと暗闇の中もがいていると、パタンと何かが閉まった音が聞こえた。
それから数秒。ようやく顔を出せた私は一人ポツンと部屋に残されていた。どうやら先程の音はラスナグが出ていったものらしい。
…………や、やり過ぎた?怒らせちゃった??
私の悪い癖はすぐ調子に乗る事。何かと自重すればいいものをついつい乗っかってしまう。
後悔する事もよくあるわけだが…今がそれだ。
悪いこと、しちゃったなぁ。ラスナグは私を客人としてちゃんと敬ってくれてたのに、それをからかうような事して。
もてるだろうに。私みたいな貧相な女に動揺して…あれ、何かムカついてきたぞ。
私をスッポリ覆う上着。甲冑は最初の召喚時しか装備してなかった。この上着はこの城での仕事着…軍服みたいなものかな。無くちゃ困るだろうに。
格好いい白地に金の刺繍。似合ってた、なぁ。
モヤモヤする。そうだよ、返さないと。それで謝ろう。スッキリする為に必要な工程だ。そうしよう。
また何か言われると困るので服は正しておくか。よいせと胸元を直しているとコンコン、とリズムよく扉が叩かれた。
どちら様?
主人公の悪癖。ちょっと短めでした。