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出会ってから今日までずっと






 一目で分かった。

 ああ、自分はこの人を一生愛し続けるだろうと。




「初めて出会って、初めて恋に落ちたわ。それ以来ずっと…好きよ」




 独り言のように話す陛下は、まるで少女のようだと思う。初恋を焦がれるというか…私の世界ではあまり見ないくらい、純粋だと感じる。可愛いなぁ陛下。




「でも国を壊したくない。両親が死に、この国を継ぐとき感じた誇り。慕う民達が起こしてきたこれまでの軌跡。トストンにだって、存在するもの。壊してまで私は彼の元へ行く勇気がなかった。これまで築いてきたものを、失いたくなかった…!」




 とうとう泣き崩れてしまった。

 震え嗚咽する彼女の元へ駆け寄り、背中からそっと抱き締める。


 小さな陛下の体。すっごいなぁ、私だったら逃げ出してるよ。




「そんな陛下だから、城下町の人達も応援してくれてたんですよ。二人がくっつけるように…」


「…そうね。前国王が健在していれば、私達は結ばれ、子を産み、国を継いでいったでしょう。皆もそれを信じて疑わなかった…その名残があるのよ」


「それもあるかもしれません。でも陛下。民にそれだけ心を捧げて、幸福になった人達が陛下の幸福を願うのは自然なことだと思いませんか?」




 一瞬だけ彼女は迷うような素振りを見せたが、すぐに首を横に振った。




「無理よ。王が幸福になるのを先駆けていたら国に影響が」


「つまり。国に影響なくて民にも影響がない方法があれば陛下はバカップル…もといトストン王とくっついても問題ないんですね?」


「え?そんな上手い方法なんて」


「問題ないんですよね?」


「…え、ええ……」




 はーい。お言葉頂きましたー。

 私はニヤリと悪い顔で笑う。きっと、上手くいく。






「では、女神様が願いを叶えてみせましょう」






 最後に愛が勝つなんて夢物語みたいだ。でも沢山の人が望んだ結末。

 やってみせよう。異世界人の底力見せてやる!










 **











 はてさて。そんなこんなで決戦の時。


 沢山の臣下とトストン王にサイシャが椅子に腰掛け、アスナやイオン君はその後ろに控えている。

真っ白なテーブルクロスの上にはスプーンが置かれ、彼らの反対側に立ち鍋と皿を置いた私はニッコリと微笑んだ。




「お集まり頂き誠にありがとうございます。本日は私がこの世界に喚ばれ目的となったカレーの御披露目となります」


「待て。…一人まだいないだろう」




 案の定トストン王からの指摘が入る。アスナ達も言いたげにこっちを見ている。でも女王陛下直々に私が取り仕切ることになってるから口を挟まないよう言われてるんだよね。なので突っ込みたくても突っ込めない状況。…胃に悪そうだな。




「分かっています。陛下はもうすぐ此方へ来られますので、ご安心ください」


「カレーが上手く出来ず逃げ出したわけではあるまいな?」


「するとお思いですか?」




 彼女が貴方との勝負事から逃げ出すと?


 口には出さず含めて問い掛ければ、トストン王は苦虫を噛み潰したような顔で黙った。よく分かっていらっしゃる。

 彼女が来るのに時間がかかるのは仕方ない。だってねぇ、一生に一度の大勝負。

 緊張しないわけがない。私も緊張している。ラスナグ、間に合わなかったなぁ…自分で行かせておいてなんだけど、歴史的瞬間を一緒に見たかったよ。



 スルリと風が頬を撫でる。ああ、決めておいた合図だ。大きく息を吸って心を落ち着かせると真っ直ぐ、皆を見渡して


 トストン王を見る。




「お待たせしました。陛下がいらしたようです。トストン王、迎えに行って頂けますか?」


「なに?」


「すぐ扉の向こうです」




 にこにこと話す私。何言ってんだコイツと言わんばかりの顔。

 流石に馬鹿にされた、甘く見られていると思ったのかサイシャが席を立とうとしたが王様に止められた。無言で立ち上がり扉へ向かう。その過程で私の横を通過するわけだが。




「…何を企んでいる?」


「企みは秘めてこそです」




 大丈夫。害あることじゃない。

 小声の会話は誰にも咎められず終わる。彼は扉の前に立つとドアノブを掴んだ。






 ゆっくりと、開かれる。




 ああ、やっぱり綺麗だ。






 息を飲む音がした。一人のものだったのか皆のものなのかは分からなかったが、誰もが驚いているだろう。


 特に、扉を開けた王様は。




 そこには女王陛下が――…違う、ラビスラル様が立っていた。いつもの仰々しい立派な服装ではなく、一般向けのゆったりとした格好。そして身を飾るのは数々の赤い石の装飾品。



 一つとして同じものはない。彼女の為だけに作られた贈り物。



 とても似合っている。

 彼女は少しだけ躊躇した様子を見せたが、意を決したように左手を伸ばした。私が提案した通り、あの指輪は薬指に納まっている。


 唖然としたままの王様の手に陛下の手が触れる。皺の寄った指と指。でも私にはそれが凄く綺麗に見えた。






「…ルシャル」






 王様の名前。きっと、王位を継いでから一度も呼んだことはないんだろう。


 まだ唖然とした様子で彼は目の前の彼女を見る。その目には、出会った日の少女が映っているのかもしれない。






「私は、貴方を愛してる。出会ってから…今日までずっと」






 彼女の告白に王の体が揺れる。震える指先に力がこもり、一層強く彼の指を掴む。

 頑張れ、ラビスラル様。




「……そしてこれからも」




 煌めく瞳。


 これがきっと、トストン王が言っていた瞳。








「貴方を、愛しても、いい?」








 泣きそうでいても、焦がれる瞳。

 さぁどうする王様。大注目の返事は。



 野次馬ばかりで申し訳ないが、これは皆の前でしなければならなかった。だって、やっぱり陛下の本心見せておかないと変に勘繰られるからね。

 臣下は…まぁ私の召喚を温かく見守ったくらいだから大丈夫だとは思ってるけど。





「……馬鹿にしているのか」





 固い声が響き渡った。

 今度は陛下がビクリと跳ねて繋いでいた手を放す。しかしすぐに許さないとばかりに王様が腕を掴んだ。




「何年…何十年待ったと思ってる」


「ルシャル…」


「愛しているラビス。昔も今もこれからも変わらず…!どれほどこの時を夢に見たか…!」




 強く引っ張ると、陛下の体は吸い込まれるように王様の腕の中に。








「お前を抱き締めることを、どれだけ願ったか…!」


「っ……」








 陛下もしがみつくようにして王様の背中へ手を伸ばす。

 良かった。ちゃんと、二人は素直になれた。



 一安心した所でギャラリーが湧いた。ワァッと祝福の声があがる。おおー有難い話だ。二人は周りに人がいたことを今今思い出したようにしている。女王陛下が真っ赤になって慌てた姿を王様が隠すようにして閉じ込める。いよっバカップル!




「よくもまぁあの女王様を説得出来ましたねぇ」


「ふはは。私に不可能はなくてよ」




 いつの間にか背後に回ったサイシャに笑う。彼はヤレヤレと肩を竦めてみせたが二人のバカップルぶりは容認してくれたようだ。最初から反対じゃなかったもんね。




「一番は陛下やトストン王が素直になることだったからね。ツンデレをデレにするなら根本な部分を解決すれば良かったわけだし」


「つん…?では、何を解決させたのです?」




 ツンデレの言葉はスルーにしたらしい。

 まぁこんな言い方されたら気になるよね。あの陛下が傾くくらいだし。

 なのでこちらも素直に答えてあげたのだ。






「王同士がくっつくなら、国同士もくっつければいいんだよ」






 当然と言わんばかりに。






王様達おめでとう!

そして忘れ去られているカレー…あれ、カレーの必要性って…(ゴニョ)

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