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私が呼ばれた理由と本音






「そう…ティマが…ごめんなさい、怖い目に合わせてしまって」




 女王陛下はただただ悲しげに目を伏せ、そう謝罪した。


 あの後私の回復とイオン君の手当てを済ませて真っ直ぐ陛下の元へ向かった。先にアスナが伝達を兵士に頼んでいたので、陛下は一人私室で待っていた。ティマさんとは、今日会っていないらしい。

 アスナとイオン君は詳細を陛下に話した。私は口を挟むとややこしいことになりそうだったので相槌をうつくらいしかしてない。小箱のこととか深く突っ込まれても困るからね。


 謝罪の言葉を貰い何とも言えない気分になりソワソワしてしまう。




「――…では、彼の処分はどうしますか?異世界人に害を成した者は極刑が決まりですが、身分的にみて除隊と国外追放が適切かと。その前に恐らく指名手配でしょうが…」




 ……は?


 何を言ってるのかとアスナを見れば真剣な顔。対する陛下も真面目な顔で「そうね」と相槌を打っている。

 え、え、嘘っ。




「な、なんでそんな罪が重いの?」


「だから、アンタは異世界人の価値を低く見すぎ。言っておくけど、これは法律であって国の問題。被害者であれど口出し無用だからね」




 呆れた目で言われ牽制されてしまった。

 被害者は私一人じゃない。イオン君も反発なしで当然と思っているようなので、妥当なものなんだろう。


 でも…






「…陛下は、それでいいんですか?」






 私は彼女のことが気掛かりだ。

 陛下は少しだけ驚いたように目を見はると、悲しげに微笑んだ。




「ええ。…女王としても、個人としても、彼を咎めないわけにはいかないわ」


「……そうですか」




 なら、私は何も言わない。…言えない。

 潔く引き下がった私をアスナは見たけど、すぐ切り替えるようにして告げた。




「お前を誘拐したのも、奴の仕業だな?」


「どっどうしてそれを?!」


「イオンから聞いた」




 ぐおっ口止め忘れた。




「あと小箱やトストン王とのやり取りについても語って貰うからな。なんでお前は厄介ごとを抱え込む。国と国との橋渡しなど面倒な上に危険だと言うのが分からんのか」




 くどくどくどくど…。

 ああ…全て駄々漏れに…。


 説教を始めてしまったアスナの言いたいことは分かるが小箱の事とか王様のこととかバラすわけにはいかない。…けど喋らないって選択肢はないんだろうなぁ。陛下の前で言っちゃうし。

 …ならもう仕方ない!




「陛下!」




 アスナの声を遮るようにして言う。成功して静かになった空間に「なにかしら?」と問いかけられる。




「二人っきりでお話したいことがあります!」


「あら…」




 一瞬だけ迷う素振りをしたが、陛下はしっかりと頷いてくれた。




「いいわよ」


「陛下!」




 アスナが咎めるように言うが彼女は目だけで制した。イオン君は…特に何も言わない。





「二人とも、退室しなさい。アスナは魔力でティマの行方を探して。イオンはサポートをするように。頼むわね?」





 逆らえぬなにかを感じるわー…。同じ何かを感じ取ったのか、二人は厳かに頭を下げて退室していった。すみませんなんか。

 二人きりになると陛下はニコリと私に笑いかけた。




「ありがとう。あなたが私のことを心から心配してくれたのがよく分かったわ」


「陛下…」


「それで、何か渡したいものがあるのでしょう?」




 促すように言われ私は慌てて小箱を取り出す。それを机の上に置くと正面に座る女王に差し出した。




「トストン王…ではなく、ムル…様から貴女への贈り物です」

「………」




 王から王へじゃない。ただ、男が焦がれる女へのプレゼント。

 …なんだがヤバイ。トストン王の名前アヤフヤすぎて省略しちゃった。覚えにくいんだよ噛みそうな名前!まぁ特にツッコミもないのでスルーといこう。

 予想はついていたのか、静かに彼女の視線は小箱へ注がれている。


 失礼ながら…中身見ちゃったんだよね。ティマさんから返されたとはいえ中身だけ無かったり危険物入れられてたら怖いし。可能性は、低いと思ったけど。彼はしないと、勝手に思ってる。



 陛下は覚悟を決めたように小箱へ手を伸ばし…ゆっくりと開く。


 中身は――…指輪だ。



 真紅の魔石を中心に、シンプルでいて繊細な作りの綺麗な指輪。





「私は、これを受け取るわけにはいかないわ」





 その指輪を見ただけで、手に取ろうとしない。こちらへ返そうとしたが、私は受け取らない。




「女王としての献上品じゃありません。陛下…ラビスラル様へのプレゼントであっても?」




 そう言った瞬間、弾かれたように彼女が顔を上げた。

 うん、核心した。陛下は、ちゃんと王様のことが好きなんだ。




「…確かに国と国の問題もあるでしょう。でも、いつまで拒絶し続けるんですか?一生?一生…彼を想い続けるだけで過ごすと?」


「…そうしなければ、ならないのよ」


「女王だから?」


「ええ」


「なら、女王という枠を捨ててください。貴女自身の本当の気持ちを教えてほしい」




 目は逸らさない。


 核心したからこそ決めた。いや、最初に宣言した通り。




「…何故そうまでして私と彼を取り成そうとするの?あなたからすれば、他の世界の戯れ言でしょう?」




 そりゃ最初は…馬鹿馬鹿しいとも思ったけどさ。

 真剣に恋愛してますって姿を見せられて、そのせいでおかしくなっちゃった人もいて。







「陛下、私はラスナグが好きです」







 私も何か変われた気がするんだ。




「この世界の人を、好きになりました。心底、好きだなぁって思える相手を見つけることが出来ました。それって素晴らしいことでしょう?だから否定しないでほしいんです。自分の気持ち」




 私はカレーを作る為に喚ばれた。


 変化をもたらす為に、呼ばれたんだ。





「ラビスラル様、彼のことが好きでしょう?」





 深緑の瞳が潤み、一筋の涙がこぼれ落ちる。





「ええ……」





 それはポタリと、赤い石に受け止められた。






「私はルシャルのことを……愛しているわ」






トストン王の名前はムルシャルヤ=イル=ラグヤード。愛称はルシャル。主人公が覚えてたのはムルだけ(笑)

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