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剣と治癒と王道展開




 暫く滞在するという事でお城の部屋を一室貸して貰える事になった。

 夕食を一緒にとるという約束を陛下と交わした後、ラスナグに案内されその部屋へと来たわけだが…




「…ここは王道なわけか…」




 広々とした室内に趣味のいい装飾。ベッドなんて何人寝れんだという程の大きさに目眩がする。

 私の部屋が物置小屋に見える…流石お城。


 椅子だってなんか高級ですーっという雰囲気が漂っている。これ、壊したら弁償だろうか…。



「気に入りませんか?」



 椅子を睨み付けていた私にラスナグが申し訳なさそうに言ってきた。気に入らないというか扱いが凄すぎて…こっちが申し訳ない。ジャージ装備だしな!

 王道トリップは嬉しいけど、なんというかむず痒い。




「気に入らないわけじゃないけど…私の部屋より随分広いから戸惑っちゃってね。ラスナグの部屋もこのくらい?」


「俺の部屋ですか?貴族の部屋とは違いますからね。もう少し小さいです」




 貴族の部屋なんだー…へぇー…。


 一応女神宣言は生きているって事なのか。カレーが重要視されているのか。何だか壮大だなぁ。

 とりあえず作って観光しよう。国同士の争いは言っちゃ悪いが興味ない。


 料理じゃなくてファンタジーが見たい。魔術とか魔術とか魔術とか…ああ、夕食まで時間あるからラスナグに色々聞いてみようか。




「ラスナグは水の魔術が使えるんだよね?」


「ええ、水の精霊の加護を受けていますから」


「使ってみて!」


「…え?」




 嬉々として言ってみれば、予想外の事を言われたとばかりにラスナグの目が見開かれる。そしてすぐに困ったような笑みを向けられた。




「俺、魔術はあまり得意じゃないんですよ。そんなに魔力もないので精霊も小さいですし…騎士になれたのは親譲りの剣術バカなだけで」


「ああ、隊長さんだったもんね。代々騎士とか美味しい…じゃあじゃあ剣舞とかは出来ない?」


「俺の剣は実践向きですから舞いのように人に見せられるものじゃないですよ」




 やっぱり困ったように答えられる。ラスナグは顔もいいし体も細身だけど鍛えられてるから舞ってくれたら綺麗だと思うんだけどな~。

 実践向きなら稽古とかしてる所覗けば見れるだろうか。よし、観光名所に騎士団本部とインプットしておこう。




「んー…じゃあ剣を見せてくれない?私の世界じゃ剣は珍しくて」


「剣が珍しい…?ではハナ様の世界は魔術が盛んなんですか?」


「魔術、なんて摩訶不思議なもんもないねぇ。戦いに必要なのは我慢と根性だよ」




 ふふ、それが無ければ何度教授の頭を禿げ山にしてやろうと思ったか…。

 三日でレポート十二枚って何。ふざけてんのか。言いたい事を我慢して根性で仕上げてやったら「本当に出来たのか?!」だとぉ?出来ないと思う期間を告げるんじゃねぇーっ!と一ヶ月休講したのはこの時だけど。


 必要なのは諦めと世間わたりかな。うん、母が言ってた事がよく分かる。






「…そうですね。ハナ様の言う通りです。力ではなく、大切なのは努力ですよね」


「うん?」


「どうぞ。俺なんかの剣でよければ」




 何かトリップしてる間にいい顔になったラスナグに剣を差し出され思わず受け取る。

 物凄く勘違いをされたっぽいけど…って、




「重っ!!」




 片手で簡単に鞘ごと渡してくれたものだから軽いと思ってた。両刃で太めの剣だし一応両手で持とうとしたけど重量に負けた。一気に腕が持っていかれる!

 持てないほどじゃない…けどこんなの振り回せれるわけないでしょうよ?!




「女性には少々重いかもしれません。先に言っておくべきでしたね…すいません」


「いやこれ日本人男性で振り回せれるのってハンマー投げの選手くらいじゃないかな…?あと謝らなくていーよ。私が貸してって言ったんだし」




 申し訳なさそうに剣を引き取ろうとする彼を交わす。まてまて、まだ鞘から出してもいないのに。

 日本刀でさえ実物で見たことない私にとっては人生初の長物刃物。鼻息荒く慎重に鞘から剣を抜く。





「わ、あ…」





 綺麗だった。



 多分、丁寧に手入れをしているんだろう。曇りない刃は私の顔をハッキリと映していて、真っ直ぐ伸びたフィルムは感動ものだ。


 飾りの少ない剣だけど、柄の上の所に紋章みたいなのが彫ってあった。太陽みたいなカタチのもの。この国の紋章かな?格好いい。


 しきりに感動してクルクルと刃を回していると、ハラハラとこちらを見ているラスナグに気付く。なんだい、大事な剣を汚したりしないって。

 一通り見て満足したので鞘に戻そうとした時、ついつい…というか、やってしまったというか…。








 ザクッ








「あ」


「っ!」




 大変切れ味も良好です。


 見事重さによって上手く鞘に収まらなかった刃が手の甲を傷付けてしまった。

 みるみるうちに血が浮き上がってきて垂れそうになる。カーペットが汚れると思って慌てて押さえる。痛みはあんまりない。熱いけど。


 すると勢いよく傷を負っている方の腕を捕まれ引寄せられた。咄嗟に剣を離した為、床にガランと落ちる。ちょ、今ザックリコースだったよ?!死ぬ気かラスナグ!

 危ないだろうと相手を睨み付ければ、丁度私の手が彼の口元へと運ばれた所で。



 え。





「ちょ、まっ…!」


「水の精霊よ。我に力を貸し与えたまえ…」





 フワリと、彼の口から放たれた言葉に光が集まる。

 近くにあった私の手の甲へと光が移る。正しくは傷口に。


 熱と痛みが薄れていく。ゆっくりと、傷が消えていく。


 これ、魔術だ。




「魔術は苦手じゃなかったの?」


「水の加護を受けた者は唯一癒しの魔術を行えるんです。ですので、魔力が低くても最小限の傷が治せる程度には教わるようにこの国では定められているんです」




 へぇー成程。


 完全に塞がった傷口に感心していると、少しだけ怒ったような顔になりラスナグが私の手を強く掴む。

痛いです。




「軽度でしたので俺でも治せましたが…いくら刃物を持つ習慣はなくとも、危険なものだと分かっていたでしょう」


「う」


「俺も簡単に持たせてしまったので悪かったですが…今後一切、遊び半分で刃物は持たないでください。いいですね?」


「…はぃ」




 真剣な顔で言っている。本気で心配してくれてるのが分かるので素直に頷いた。


 しかし何だ。急に人の手引っ張って口元にやるから王道の傷口なんて舐めて消毒しとけばいいんだぜな展開になるかと思った。この勘違いは恥ずかしい。

 いい加減手を離してくれと小さく引き寄せれば簡単に外れた。そして差し出されたハンカチで手に残った血を拭く。これ洗って落ちるんだろうか。


 ラスナグは剣を拾い上げ鞘に収めると定位置の腰へと装着させた。乱暴に扱ってごめん、と小さく言えば大丈夫ですよと笑みを向けられた。もう怒ってもいないらしい。





「そういえば、術をかける前に何か言いかけませんでしたか?」


「ぶふっ?!」




 そこ気付いちゃう?!


 何でもないと言い張る私を疑う彼。必死に誤魔化している間に時間は過ぎ去り夕食の時間となった。迎えに来てくれたメイドさんっぽい女性に促され、ラスナグと別れ部屋を後にする。



 つ、疲れた。剣はもう持つまいと心に誓っておこう…。




まだデレるには早いと思うんです。

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