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捕らわれの身






 カレー作って陛下達くっつけて…終わったら告白だ!

 そう勢いつけたのは遠い話じゃない。




 現在の状況。




 薄暗い。多分山小屋。両手足荒縄で拘束。ついでに猿轡。藁がチクチク素肌に触って痛いです。独りぼっちです。


 なんでこうなった。


 一応抜け出そうとウゴウゴもがいてみたが、縄が食い込んで痛いだけだった。ですよねー。簡単にほどけたら意味ないですもんねー。

 とりあえず体力温存という形で楽な体勢で、寝そべりながらこうなった経緯を思い出す。




 帰国する事が決まって、トストン王も一緒に来ることになって、馬車に乗って暫く。国境付近に来た所で賊が登場。明らかに王様を狙った襲撃に兵士が動く。やっぱ権力者は狙われるのね。

 相手に魔術師が存在していた為アスナが駆り出され、そんなに大変ならと渋るラスナグに援護に向かわせた。王様とは違う馬車に乗ってるし、動かなければ問題ないでしょう。兵士さんは優秀ですから。

まぁそれが裏目に出たわけだけど。


 近場で戦闘になった賊を遠ざけるべく唯一一緒に残っていたフィノアが外へ出た。役立たずの私は馬車の中で縮こまっていたわけだけど…いきなり反対側の窓から賊が入ってきたらビックリするわ。悲鳴上げる前に当て身されて気失ったけど。今頃私がいないーって騒いでるかな?

 救いは両耳につけている魔石のピアス。迷子札効果が発揮されることだろう。私はここです。早く助けてー。



 しかし何でこう…迷惑な王道展開はあるのか。王様狙った襲撃なのに私を拐うとか意味が分からな……。



 待てよ。本当に狙いは王様か?

 タイミングよく襲撃を受けるのはまだ分かる。人員も把握されていて…私の側の人は出払った。そして偶然馬車に一人でいた私を浚った…その必要は?


 人質?ならその場で交渉する必要があるはず。知られず私だけ誘拐…まぁ手紙とかでも交渉出来るだろうけど、私をピンポイントで狙ってないか?

 あああ凄く嫌な予感しかしない。早くどうにかしないとっ…いやいや動けないですからー!誰かヘルプー!



 無駄にゴロゴロ移動してみる。藁が身体中にくっついて鬱陶しい。そのうち小屋の壁に辿り着きまた動けなくなる。なんでこう…女神補正とかないんだろう。魔法とか使えたらまた事態は変わってくるんだろうけど。

 無い物ねだりでは変われない。壁には突き出た釘が一本。よいせ、と上半身を起こし背中を預ける。せめて前で手を縛ってくれれば良かったけど…そういや私犯人の顔見てなかったなぁ。気失ってたし黒装束だったし。

 ゴリゴリと釘に荒縄を擦り付ける。いて、いててて…やっぱりドラマや漫画みたいに上手くいかないなぁ…。痛みを堪えて擦り続けるが、手が自由になる気配はない。

 寧ろ…なんかヌルヌルする?切れてない?切れてるよね?

 後ろのことなので確認出来ないが大惨事になってるっぽい。余計なことしたな…とりあえず擦るのは止めた。



 私を拐ってどうするんだか。異世界人反対活動派でもいるのかな。でもそれだったらもう殺してるだろうし。

 意外と私は冷静みたいだ。迷子札のせいだろうなー不思議と大丈夫だと思う。絶対、助けに来てくれる。



 ラスナグとアスナなら、私を見つけてくれるから。

 怖くないんだ。







 ドオォンッ!!







「むぐっ?!」




 急な爆発音に体が跳ねる。な、なになに?やだよ爆死なんてオチ。前言撤回、怖くないなんて嘘ですー!爆死イヤだー!座っていた体勢から伏せるようにして藁に突っ込む。するともう一度激しい爆音が聞こえて地面が揺れた。生き埋めも嫌です。

 爆音で耳がキンキンする中、声が聞こえてきた。





「――…っ!」





 まだ小さい。小さいけど聞こえる。届く、届いてるよ。


 返事がしたいけど猿轡をされている為フガフガと情けない声にしかならない。近付いてくる。今度はハッキリと聞こえた。






「ハナ様っ!!」






 ラスナグっ!


 必死に上半身を起こした所で小屋の扉が凄い音を立てて弾け飛ぶ。と、飛んだよね?良かった扉から離れてて…。唖然とする中抜き身の刃が姿を現し、次にその持ち主が部屋へと滑り込んできた。




「ハナ様っ?!」


「ふっぐぅ!」




 名前を呼びたかったが猿轡のせいで変な声にしかならなかった。私のミノムシ状態にラスナグは青い顔を更に青くして駆け寄る。

 真っ先に外してくれたのは有難いことに猿轡だった。ぷっは、呼吸が楽に…ぐ、糸引いてる。


 拭いたいものの両手はまだ背中にある。すると彼の乾いた大きな指が唇の縁を撫でる。濡れた指が目に入り、顔が赤に染まった。




「だ…ご、ごめっ」




 ヨダレなんぞ拭かせてしまってごめんなさい。そう謝りたかったのに、出来なかった。

 強い力で引き寄せられ、彼の肩に顔が当たる。違う、抱き締められてるんだ。



 肩が震えている。


 腕の震えも、身体から伝わってくる。





「……無事で…」





 声さえも、震えて。






「無事で…っ良かった!!」






 まるで泣いているかのような、悲痛でいて安堵の声音。

 知らない。こんなの知らない。私は、こんなにも愛されているの?




「なんで?」




 気付けば言葉に溢れ出ていく。


 確かに私はラスナグが好きだ。付き合いたいとも思ってる。でもそれ以上に、それ以前に…彼は好きになってくれていた。

 分からないよ。どうして、私になんか堕ちてきたの?




「なんでラスナグは…そんなにも私を大事にしてくれるの?」




 どうして好きなの?とは何故か躊躇して聞けなかった。少しだけ強く抱き締めた後、ラスナグはゆっくりと体を起こす。空いた隙間が少しだけ寂しく思えた。

 でも、それ以上に彼の表情から目を離せない。







「貴女が、貴女だけが…俺の欲しかった言葉をくれたんですよ」







 瞳は、変わらず私をキラキラと映していて。


 その空に、また深く落ちていく自分が感じられた。






色々急展開です。

読んでくださりありがとうございます!(深々)

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