恋に落ちた日
王様の想いに複雑な心境になりながら廊下を歩いていると、言い争う声が聞こえてきた。なんだなんだ?
どうやら突き当たりを曲がった先らしい。高い声と低い声だから…男女だね。修羅場だろうか。回避しようか迷った所で、その声がよく知った人達のものだと気付く。おいおい、他国の城で何やってんだ…。
コッソリと壁に寄って覗き込めば、案の定の人物。フィノアと、ラスナグだ。
…物凄く現在の心境的によろしくないコンビです。
「何故来たんですか?次はハナ様を落とそうとでも考えているんですか?最低ですよ」
「だから、それは誤解だと何度も言ってきただろう。あとハナ様のことは真剣に考えているし、お前には関係のないことだ」
「誤解なんかじゃありません!それに関係ならあります!ハナ様はわたくしの大切なご主人様です!!」
白熱してるなぁ…でも話題が私の事で恥ずかしすぎる。いやー私の為に争わないでー。
しかしまた出たな。誤解とかそういったやり取り。ここで聞いてれば、真相が分かるんだろうか?
でも盗み聞きはなぁ…とウダウダ悩んでいた所に飛び込んできた言葉。
「ハナ様は、貴方の事なんか好きじゃありません!」
…………………………。
何故かその一言に、
カチンときた。
「勝手に決めないで」
気付けば足を踏み出して。
真っ直ぐ。
驚いた顔をしている二人を見つめて。
「ハナ様…何故ここに」
「立ち聞きするつもりはなかったけど、ここは廊下だよ。誰にも聞かれたくなかったら部屋でしなさい」
いや、立ち聞きしてたんだけれども。それは置いといて。
どうしても聞き逃せなかった言葉に反論する。
「は、はい…申し訳ありません…」
「あとフィノア。私は貴女に何もラスナグのこと言ってないよね?なのになんで決めつけるように言うの?私の気持ちを代弁したつもり?私は私の答えを彼に返すって約束してる。だから、勝手に、話をつけないで」
決めつけられるのは我慢ならない。私が悩んでるのを、全て否定されているようで嫌だ。
「私の気持ちは私が決める」
強く告げると、みるみるうちにフィノアの顔色が青くなっていく。ああごめん、彼女も悪気があったわけじゃないだろう。
「フィノア、私は叱ってるだけで怒って…ないわけじゃないけど、反省してくれればそれでいいから。強く言ってごめんね?」
「そんな!わたくしが勝手にハナ様の考えを作ったのが悪いんです!ハナ様が謝る必要はありません!わたくしが…」
ボロボロと大粒の涙が彼女の目から溢れ出す。それには流石に驚いた。ひょえー!美少女泣かせちゃったよ!
慌ててハンカチを取り出すと駆け寄って目元を優しく拭いてやる。おお、肌綺麗…じゃなくて。可愛いな。
「は、ハナ様、わっわたくしの、こと、きらっ、き、嫌いに、ならなっ…」
「嫌ってない嫌ってない。そんな子にわざわざ叱らないって。ほら泣き止んで?可愛い顔が台無しだよ。全く…よく恋敵の為に泣けちゃうねぇ」
性格問題あるけどやっぱ可愛い…と、キョトンと涙が止まった顔で見つめ返された。どしたの?
「恋敵…?なんの話ですか?」
「何って…フィノアとラスナグは恋人関係だったんでしょ?」
もしくはそれに似たような関係…なんですか。二人して目を見開いて。
あ、もしかしてバレてないと思ってたとかそういう展開?ごめんよ、今言うべきじゃなかった…
「「誰ですかそんなデマカセ言ったのは?!!」」
って…お?
物凄い形相で叫ぶようにハモった声は廊下に響き渡る。それをNGと思いながらも二人の言葉に私は狼狽えた。
で、デマカセ?
「え、誰ってわけじゃないけど、許さないとか名前で呼んだりとか…親密だったし…」
私の言葉にラスナグは頭を抑え、フィノアは床へと崩れ落ちた。
「いや、まさかそんな勘違いをされてるとは…フィノアと俺はそんな関係になった事は一度もありません。今後もそのような事には一切ならないと誓えます」
「で、でも美男美女でお似合い…」
「隊長のせいでハナ様に有らぬ誤解を生んだじゃないですかー!!」
突如彼女が起き上がり叫ぶ。説明していたラスナグが「俺のせいか?」と叫びに対して困ったような情けない顔を晒した。って、ちょっと待った。隊長?
「ハナ様。フィノアは元騎士団員であり俺の部下だったんですよ」
「……へ?」
部下?元騎士…団員?!
マジで?!と可憐な美少女を見る。戦闘力に長けているとは思えない。本当なのかと目で問い掛ければ渋々というように頷かれた。
「わたくし…隊長の元で騎士として過ごした事が人生最大の汚点です…」
「そ、そこまで?」
「隊長は酷い男なんですよ?!わたくしのミア先輩の心を奪った挙げ句他の男に渡したんですっ!!」
はい?ミアさん?
もう何がなんだか。頭の中がこんがらがってきた。
ラスナグが「とりあえず部屋に行きましょう。話はそこでします」と仕切り直しに入った。まぁ廊下で騒ぎ続けるよりはいいので素直に従う。
私が借りている部屋まで着くと、扉を閉めた彼が深々とため息をついた。
「…まさかそんな誤解を貴女にされているとは思いませんでした。少し…ショックですね」
「え、えーと?ごめん?」
よく分からず謝罪すれば、なんとも言えない悲しげな笑みを向けられた。その顔を見て罪悪感が生まれる。
私、とんでもなく勘違いをしてるのか?
「では…簡単に説明しましょう。彼女、フィノアは貴族のたしなみとして我が国の騎士団に入団しました。今からおよそ三年前となります」
「わたくしこう見えて魔力が強いんです。入団試験も自力で合格し、不本意ながらシャルフ隊長の率いる第二部隊に配属になりました」
へぇ…フィノアって貴族なのか。なのになんで使用人やってるんだろ?これもたしなみってやつなのかな?
とりあえず私の疑問は隅にやって、話の続きを促すようにコクコク首を縦に振る。
「その時期、レナーガルの森に魔物の巣が作られまして…討伐などで騎士団が一段と忙しかった。隊長である俺も仮眠しか取れない日々が続きました。新人を鍛える余裕はなく、ミアにそれを一任したんです」
お、ここでミアさんが出てくるのか。
またもやコクコクと頷く私にラスナグは淡々と語る。
「そこでフィノアがミアを大変気に入りまして。彼女に近付く男を誰これ構わず警戒し始めて…何故か、俺がミアに好かれていると勘違いを起こして強く突っかかってきたんです」
「はぁ…?」
えーと?まぁ、確かにフィノアは男が嫌いなようだ。いや、違うな。自分が気に入った女性に近づかれるのが嫌いっぽい。実際私のピアスの時だって騒いだし。
ミアさんがラスナグに好意か…今のミアさんは敬愛という形で彼を見てた。昔はフィノアの言う通り、違うものだったかもしれないけど。
「そのあと俺に付きまとう日々が続いたわけなんですが…その間にミアをニッカルとサックルが口説いたようで。気付けば婚約という事になっていて、それを俺のせいだと叫び騎士団を出ていった…という過程です」
「…………」
許さない、勘違いはそこからきてるのね。
あーうん、嘘じゃなさそう。すっごいフィノアが拗ねている。
「隊長のせいに決まってます!あの真面目なミア先輩が婚約者を二人も持つなんて!どうせその甘いマスクでたぶらかしたんですっ!」
「だから、それは勘違いだ。それにフィノア。それだとお前はミアも侮辱していることになるぞ?」
「違います!男がっ悪いんですっ!」
こ、子供だ。子供がいる。
いつも変態よりだけど世話を焼いてくれていた少女の姿はそこにない。ただ好きなものを取り上げられて駄々をこねる子供だった。あー…確かに恋愛の線はないな。ある意味甘えてるのかもだけど。
そっかそっか。よかった…。
………よかった?
「……ああ」
ストン、と胸に落ちる音。知らず知らず納得の声が口から漏れた。
やっぱり、と思う部分もある。けど本当に?と驚く部分もある。
落ちる。正にその言葉が相応しい。
私、ラスナグが好きだ。
好きに、なってる。
読んでくださりありがとうございます。