ツンデレ王に質問
「それで?何故ワシの所へ来た?」
ははは。そんな面倒臭そうな顔しないでくださいよ。しょうがないでしょう、ブレイクタイムしか会話出来る時間がないって言われたんだし。
テラスで優雅に紅茶で寛ぐトストン王と向かい合わせで座っている現在の私。香る紅茶はいい匂い。置かれている茶菓子のクッキーからも紅茶の香りがする。手を伸ばしたいけど我慢我慢。
勤務に勤しむツンデレ王に再び謁見を求めたわけだが、やっぱりスケジュールはギュンギュンで。なんとか捩じ込んだのが現在の休憩時間ですよ。そんなリラックス時間に遠慮なく入り込んだ私でありますが…どうしても聞きたい事があった。
「カレーを作れ、と提案したのはそれは陛下が出来ないと判断しての発言でしたか?」
「前にも似たようなことを言ったと思うが、あいつが叶えられない約束をしてこちらの条件を飲ませようとしたんだ。出来ないと確信していたが…お前が喚ばれた」
「では何故、私のカレーを食べると言ったんですか?文献などを用意せず、これは違うものと否定すれば良いのでは?」
「ワシは、お前を気に入った。真っ直ぐな人間は嫌いではない」
「諦めるつもりはないのにですか?」
そんなに好きなら、なんで?
強引とも言えるカレー契約。でも、彼は最後の最後で選択肢を表示している。
彼女からこちらに手を伸ばすのを待っている。
「…ワシとあいつが出会ったのは、婚約が決まって二年過ぎた時だった」
呟き始めた王の目は何処か遠くを眺めていて…ああ、本当に好きなんだなぁと何故か納得してしまった。まぁだからこそのバカップルなんだけど。
「親の決めた婚約者など、ただの義務としか考えていなかった。だが一目だ。一目で…ワシは恋に落ちた。向こうもそうだ。お互いに一目だけで愛し合えた」
わぁ…聞いてるほうが恥ずかしい。
なんだか体がモゾモゾと動いてしまう。でもちゃんと聞かないと。馴れ初めの所で二人にとってのヒントが転がってるかもしれないし。
「前王が急死し、ワシやあいつが跡をを継いだ。国は大事だ。民は大事だ。それはわかっている。分かっているが、何故己の気持ちも諦めねばならない?手を伸ばせば届く距離にいて、何故側にいてはいけない?あいつにとってワシがただの王と映るなら、諦めもついたかもしれん。だがな、変わっておらんのだ。あの瞳は、出会った時から変わっていない」
今でも。
愛していると語っている。
……もう、本当なんでくっついてないんだ二人。アスナやサイシャが遠い目するのがなんとなく分かったわ。
御馳走様でした、と私は熱くなった頬を手で扇ぎたい衝動にかけられたが一応権力者の前なので自重した。つまり。王は陛下のことを今でも好きでアプローチしている。陛下も好きだけど、王としての責任があるから一緒になれない…そんな感じか?まだ陛下に確認とってないけど、嫌いではないんだろうなぁ。
あとひと押しって所だろう。問題は二人がくっついた後の政。国のトップ同士がくっつけばやっぱ嫁ぐとか婿入りとかで片方いなくなるのかな?跡継ぎはいないみたいだし…うーん。
……手がないわけじゃ、ないけど。
「…お前、そのピアスは魔石か?」
「え?」
思考に潜っていると彼の声で現実に戻った。視線の先は耳元。ピアス…はい、今日もしておりますよ。
「はい。頂き物です」
「二人からか。同時につけるとはな。魔石の贈り物の意味は理解しているのか?」
「…一応は」
ええーやっぱ駄目ですか。片方は恋愛要素含んでないものだけど、はたから見れば二人の男を弄んでる図?なんだその悪女。
どう説明していいか悩んでいると、小さな言葉を耳が拾った。
「報われているな…そやつらは」
…そういえば。彼は陛下に自身の魔石がついた装飾品を贈っているって言っていた。身に付けて貰えないのは、さぞかし苦しいことだろう。
ラスナグも、そんな気持ちだった?
でもラスナグだって…フィノアのことはもういいのか。許さないって言ってた。二人に何があったかは知らないけど、何かは絶対あったんだ。
ああ、嫌だなぁモヤモヤする。この真っ直ぐな王様の話を聞いた後だと特に。ラスナグの事は嫌いじゃない。好きの部類。でも付き合いたいかと問われれば、まだ分からない。彼は私の事を…多分好きだろう。告白まがいのこと言われたし。
まだ返事が出来ないくせに、変な独占欲が沸いてくる。私のこと好きなんじゃないの?フィノアと何があったの?どうしたいの。
どう、したいの?私は。
「…王様」
「なんだ」
「長い間、それだけ独りの人を好きでいて拒否されてきて…揺らがなかったんですか?」
私だったら、怖い。
自分に向けられていたはずの好意が、他を向いてしまうことに。
「揺らがないさ。言っただろう、見れば分かると。お前も、もっと素直に行動してみればいい」
ぐ。お見通しか。
素直にったって…私はいつだって素直に行動している。してる、つもりだ。
だって、まだ数日しか経ってない。
なのに好きだって言えるものなの?私の何を知ってるの。
分からない。私は疑うことしか出来ない。
「十分素直です。だから、ひと目で恋とか…分かりません」
知り合って、時間を重ねて、笑ったり起こったり。経験しないと生まれない感情でしょう?よく落ちるのに時間は関係ないって言うけど…そんな経験ないしなぁ。格好いいし優しいし、所々黒いけど優良物件だわね。
だからこそ、確かな気持ちが見えない。
自分に自信があるのなんて童顔な顔つきくらいだしなぁー性格はいいとは言えないし。ああだから私の恋愛は後回しだって。充てられたのか変な思考になっちゃってるわコレ。
「お前はもう少しすれば分かるじゃろうな…しかし前々から思っていたが、随分とワシとラビスの恋愛成就に積極的だな。カレーを作る事を承諾しながら、何故そんな思考になる?」
「あー…っと、それはー」
しまった。やっぱ気付かれたか。自分が召喚された理由がバカップルのイザコザで腹が立ったのでいっそくっ付けようと思いましたーなんて素直に言えるはずない。
こ、ここはなんと答えるべき?無難な言葉を……
「…まぁ、よい。お前が味方であるなら、これを渡しておいてほしい」
私が言い訳を用意する前に、彼は懐から小さな箱を取り出した。
渡しておいてって事は…陛下にって事だよね?
中身を見るのは何となく駄目な気がして丁重に受け取り、しっかりと内ポケットへと仕舞う。
「…ありがとう」
そう小さく告げた王様は、
ただの優しい男の人に見えた。
ラビスは女王陛下の名前の愛称です。ツンデレ王が意外に早くデレました。