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国とカレーの重要性




「ようこそこの国へ喚ばれてくれました、異世界の方。私はこの国の王、ラビスラル=ルファーナと言います」



 

 ゆったりと大きな椅子に腰掛けているのは、人の良さそうなおば様だった。


 着ている服が特殊であって豪華。私を連れてきた二人が膝まずいて頭を下げた事からこの人が陛下で間違いないだろう。

 女王陛下だったのか。なんというか…女の人だったら「女王様とお呼び!」的な高慢な美女を想像するけど、柔和な笑みが似合うおば様…お婆様になったら縁側の似合いそうな人。緑の瞳と緑のメッシュ。どうやら風属性らしい。


 しかしおば様かぁ…意外なパターンだ。


 とりあえず挨拶をされたのなら返さなければ。正式な礼なんて分からないけど、異世界人って理解されているならいいだろうと頭をペコリと下げた。




「初めまして。呼ばれて飛び出た異世界人のハナ=ミズキです。よろしくお願いします、女王陛下」


「よろしくお願いします、ハナ。こちらの都合で呼び出したにも関わらず協力的な様子、感謝します。観光も是非、していってほしいわ。我が国は豊かな農地の多い国だから」




 あれ。観光の話は陛下にどうやって耳に入ったんだ?

 驚きの表情が出たのだろう。陛下はイタズラが成功したかのようにクスリと笑う。





「私、耳はいいのよ?」





 良いにも程があるだろ。

 ため息が横から落ちてきた。見ればアスナが呆れた様子でいつの間にか立ち上がっている。




「風の精霊の力を借りただけだろう。陛下は王族とだけあって魔力は強い。そのくらい朝飯前だ」


「盗聴が?」




 いいのか女王。



 真面目くさった王様よりは茶目っ気ある方が私としても付き合いやすいけど…ああそうだ。目的を忘れちゃならん。




「あの…カレーを作らないといけない理由を聞いても構いませんか?」




 そう。おかしな展開を説明してほしい。

 何で魔術もある世界で、カレーが世界を救う事になるのか。


 若干大規模になってる気がするが気分の問題。私の質問に陛下は困ったような笑みを浮かべるとソファーに座る事を勧めてきた。長話かな。

 遠慮なくふんわりとしたソファーに腰掛けると正面にいる陛下の横にアスナが寄り添うように立ち、私の横にはラスナグが立った。落ち着かないが、先に話を進めた方が無難だろう。

 陛下へ視線を送れば、小さく頷くと彼女は話始めた。




「そうね、まずは説明しないといけないわね。この世界には六つの国が存在するの。その中の一つがこの国レナーガル。国土は一番小さいけれど、気候もよく恵まれた土地。誰もが好いて、争いのない国…私が目指している姿よ。けれど…」




 ゆらりと彼女の目が揺れる。何だろう、戦争でも起きたんだろうか。

 とりあえず真剣に話を聞こうと言葉を挟まず待っていると、意を決したように女王は続きを言い始めた。




「隣国であるトストン。我が国とそう変わらない領土を持つ次に小さな国よ。鉱物を主流とした貿易の多い賑やかな国、であるはずなのに…あの王は…」




 ワナワナと震える手は怒りによるものか。柔和だった女王の顔が赤く染まり目に鋭さが増す。

 私は緊張して背筋を伸ばした。あれだ、怒り狂う前のうちの母親ソックリだから。




「我が国を配下にしようとしている!無茶な要求をし、領土を広めようと…ああ、なんておぞましい!」


「陛下…」




 震える女王を労るようにアスナが声をかける。鋭い瞳は些か険を無くし穏やかだ。

 やっぱ王は敬愛されてるんだなぁ。



 隣国と上手くいってないのか。領土争いとはなかなか大変そうな問題だ。戦争、とまではいってなさそうだけど…時間の問題か?

 うん、と難しい顔をして理解するように頷いてみせると落ち着きを取り戻すかのように瞬時に彼女の顔に笑みが戻った。貫禄ものだ。








「そこで、カレーの出番となったの」








 ………何で?




「え、あの、申し訳ないんですけど話が飛び過ぎて…」


「カレーを向こうの王に献上さえすれば、もうこの国に干渉しないと契約したんですよ」




 女王の説明を引き継ぐようにしてラスナグが付け加えてくれたわけだが…ごめん、理解出来ない。

 カレーくれたら大人しくしてるよって隣の王様どんなだよ。あー…でもこの世界じゃカレーは神様の食べ物なんだっけ。


 価値あるものを差し出させるのは取引の基本ではあるけど納得出来ない。お金で解決の方がまだ納得出来る。それとも…用意出来るはずがないとたかをくくっているのか。




「…カレーは神様の食べ物だって聞きました。材料や作り方を私に聞くとこを見れば…どんな食べ物かも知らないんですよね?なら判断基準がないんじゃないですか?」




 つまり、これがカレーでっす。って物珍しい料理を適当に渡しても問題ないんじゃないかって思うんだ。

 私が呼ばれた意味がなくなるわけだが、疑問に思ったので問いかけてみた。女王は「向こうにカレーについて書かれた文献が存在するの」と答えてくる。向こうは知ってるんだ?




「…もう一つ。私の知ってるカレーと、この世界のカレーに違いはないんですか?」




 作り終わってからカレーじゃないなんて否定されても困る。日本式のカレーライスしか無理だけどね。ナンの作り方なんぞ料理ベタな私には難解すぎる。



 しかし今度の問いかけには不思議な答えが返ってきた。








「貴女の言う【カレー】は、辛いかしら?」








 …?


 甘口、中辛、辛口と大まかに言えば分けられる。でもカレーと一口で言うのなら…




「まぁ…辛いですね」




 一般的にそう言える。

 私の言葉に満足そうに彼女は頷くと…




「では、そのカレーは同じものだわ」




 自信満々に言ってのけた。

 首を傾げるしかない私は、この後言葉の意味を理解する事になる。




 強烈なほどに。






女王陛下はお茶目な方です。

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