呪いの効果
「トストン王は女王陛下一筋ですね。側室はいないんですか?」
「いませんね。お陰で世継ぎの問題がありますが…もうそこは諦めました」
珍しく遠い目をするサイシャ。まぁ陛下をくっついても子供は無理そうだしね。恐らくもっと前から問題になってただろうけど、この様子じゃ跳ねられたか…。
カレーの文献どうのこうのの最中だったが、王様は忙しいらしく後はサイシャに任せて退出していった。後ろにいたメイドさんも一緒に退出したので、トストンsideは彼だけだ。いいのかコレ。
フィノアが人数分の紅茶を入れてテーブルに置いてくれる。お礼を言ってまだ熱いそれをゆっくりと飲んだ。美味しい。
「それで?この文献はカレーについて記述されていますか?」
「あーうん。これはカレーに間違いないよ。正しくはカレーライス。私の世界ってか国の国民食だね。これなら問題なく作れるよ」
問題のルーは偶然にも持ってきてるし。肉はあるって言ってたから、後はタマネギだけか。
「我が王も口にするものですので、詳しい食材と調理法を教えて頂いてよろしいですか?」
「それは私も聞きたい。これ以上ゲテモノにされては正直陛下に食べさせるわけにはいかない」
サイシャの質問にアスナも便乗する。ゲテモノって…確かに魔物の卵と精力剤とか言われちゃうと頷くしかないけどさ。
「説明するくらい構わないよ。食材もあと一つで揃うし」
「おや、もう集められたんですか?」
「ジャガイモとニンジンならね」
おや、固まった。
やっぱりこの世界じゃ非常識な食べ物なんだろうなぁ…じゃあ残る一つも…。
「アスナ」
「なんだ」
「タマネギってこの世界にある?」
あれ、今度はアスナが固まった。
違う。この部屋にいる全員が固まっている。ジャガイモもニンジンも何かと危険物質だったからまさかとは思ってたけど…。
「…一応、説明するけど。私の世界のタマネギは茶色の皮に包まれてて中は白。形は球根に似ていて、大きさは拳くらいになる一般的な食材だよ」
「ああ、この世界にもそういった形状の『タマネギ』と呼ばれるものは存在する。食材ではないがな」
ええー。タマネギって言ったら万能食材じゃん。苦手な人は苦手だろうけど、私は好き。
そういえば美味しいこの世界の料理にもタマネギは入ってなかった。炒めると甘くなるしソースにもなるのに。
…ジャガイモみたいにウネウネ動く、とか?ニンジンみたいに抜くと悲鳴を上げる、とか?なにそれ怖い。まぁ調理した上口に入れたけどね。味はそのまんま。ちょっと…生態が違うだけ。ちょっとね。
「この世界でタマネギは…悪魔の種と呼ばれています」
「えっ?!…血とか吸っちゃう?」
首を横に振られて否定された。良かった…血に染まったタマネギなんぞ見たら流石に食べられなくなる。
でも悪魔ねぇ?なんでそんな二つ名がついてるんだろ?
「植物には間違いないんですがね。タマネギには他に類を見ない効果を与えるので…恐れられています」
「えー…確かに犬とか猫とかには刺激が強いから与えちゃダメって言われてるけど、人間には害がないはずだけどな。どんな効果?」
あと一つで、タマネギがあればカレーは作る事が出来る。諦めるにはちょいとね。
私の問い掛けに二人は黙りこんでしまう。だから答えてくれたのは背後に控えていたフィノアだった。
「タマネギには一般的に呪いがかかっていると言われています」
「のろい?!」
それは頂けない。異世界でタマネギ食べて呪われましたーなんてネタにしかならないっての。
諦めて他の食材で代用するしかないのかなぁ…でもタマネギの代用って何がいいんだろう。
「因みに呪いってなに?」
「目に痛みが走り、涙が溢れて止まらなくなるそうです。タマネギの中に封じられた悪魔が自分の苦しみを相手にも与えようとしていると聞いたことが…ハナ様?」
ツッコミ処が満載で、す!!
呪い?それ呪い?!そしたら地球人はもれなく呪われた人間だらけになりますとも!
刻むと涙が出て目が痛いのは…なんだっけ。タマネギに含まれるなんとか成分が目に刺激を与えるとかなんやら。成分が飛び散らないようにするには冷凍したりするのがいいって聞いたことがある。まぁそれも科学の力で切れち●う冷凍とかでやらないといけないけど。この世界で凍らせてって頼んだらカチコチになりそうだし。
…ともかく。
「それは呪いじゃないよ。タマネギ特有の…まぁ長芋を素手で擦ると痒くなる、みたいな成分だから」
「成分…?しかし涙が出るとは…」
「大丈夫だって。なんなら私がタマネギ料理作って安全だって証明してみせるよ。美味しいんだから」
そう意気込んでみせたのに、アスナは青い顔。サイシャは笑顔でまた硬直。どういう反応だよ。
フィノアだけが「ハナ様の手作り料理が食べれるなんて感激です!呪われたって幸せです!!」と喜んでくれた。でも後半の言葉はよろしくない。
「じゃあ早速城下町の市場で購入を」
「そんな物騒なものが市場にあるずないだろう」
「なら、トストンは交易が盛んな国だし。どっかの業者が販売してたりはしないの?」
「…儀式用に売り物としている所は確かにありますが、それを城内…しかも調理場に入れるわけには…」
「きょーりょく、してくれるよねぇ?」
にっこりと笑顔。
カレー作りの為。そしてそれはバカップル計画にもなるわけだ。私、ちゃんと協力してもらうって言ったよね?
怯んだアスナに笑顔で承諾させる。サイシャは…何故肩を震わせてるんでしょーか?
「ふふ…ふ…けほっ、陛下が気に入るわけです。貴女は面白い…ふふふ」
笑うの堪えてるんだか堪えてないんだか。誉め言葉じゃないでしょそれ。嫌われるよりはいいかもだけど、なんか納得いかないよねぇ?
タマネギのターンです。タマネギは色んな料理に使えますよね。ジャガイモやニンジンもですけど。