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約束と試食とまさかの話





「風の精霊よ!」


「我らに恩恵を」




 二人の声が響くと同時に風圧が緩やかになる。

 近付く地面への速度が落ちて、フワリと緑色の風に抱き込まれた。


 魔術だ。


 そのままゆっくりと地面に着地する。硬い足裏の感覚に息を吐く。いきなりバンジージャンプはキツイ。魔術で飛べると分かっていれば楽しんだのに…勿体ないことをした。




「ハナちゃんヘーキ?」


「楽しかった?」


「……寿命縮んだ」




 ニヤニヤと覗き込まれ恨むように言えば満面の笑みを返された。ドエス兄弟か。

 しかしこの二人ならノリで魔術とか使ってくれそうだ。空中散歩とか出来ちゃうかも?頼んでみるべきか…散歩が絶叫マシーンになりそうな気がする。




「そういえばハナちゃん。このカゴは何?」


「あ」




 いつの間にかニッチャンの方の手には私が持ってきていた差し入れのカゴ。い、いつの間に。

 ミアさんが持っててくれたはずだけど…上を見れば彼女の姿はない。あれ、すぐ飛び降りてきそうだったけど階段利用してるのかな?


 カゴの中身が気になるんだろう。二人は蓋を外して中を覗き込んでいる。

 さっきの衝撃でバラバラになってなきゃいいけど…特にポテチ。




「お菓子?かな~?甘い匂いがする」


「初めて嗅ぐ匂い。何のお菓子?」


「ああ、私の世界のお菓子なんだけど…今日騎士団のみんなの差し入れとして持ってきた所で」




 こんな状態になったわけだが。


 私の言葉に二人は目をキラキラさせた。お菓子好きなのか。好物を前にした子供のようだ。




「騎士団ってことはオレらも入ってるよね~じゃー一番に…」




 そしてカゴが消えた。


 え?と私を含めた三人が目を疑うと、誰かの足が見えました。ミアさんじゃない、これは…






「何をしている?ニッカル、サックル」






 ラスナグだー!


 カゴを掲げながら笑顔で聞いてるけど目が笑ってないよ!そうだ、飛び降りたのは訓練場の場所なんだからラスナグがいるのは当たり前だったね!




「隊長!オレら魔術隊員は今の時間休憩であります!」


「そうそう。だから問題なし」


「問題がないわけないだろう。訓練場を使えるのは久々なんだ。自主参加とはいえ休憩を入れているのはお前達くらいだぞ?」




 呆れたような声と反省してない二人の声。何で声だけで判断?といった理由は…



 私、視線が地面から離れません。



 ラスナグの姿が見えたとたん思わず下を…あああこれじゃ意識してますって言ってるようなもんじゃないか!

 恋愛初心者じゃあるまいし…平常心平常心。




「それに隊長ー女神さんがオレらの為に差し入れを持参してくれたんですって。訓練より優先事項じゃないですかね?」


「差し入れ…?」


「異世界のお菓子らしい。変わってるけど旨そうな匂い」




 ああ、なんか私が説明する前にニッチャンサッチャンが話しちゃってる。覚悟を決めて顔を上げれば、ラスナグとバッチリ目が合った。負けねぇよ?!





「やっ約束、した…から…作ってきたの…」





 ま、負けねぇよ?

 ひっくり返りそうな声に自分で驚いた。顔が熱い。多分真っ赤だろう。ああでも私と一緒で驚いた表情をした彼から目を逸らせない。

 澄んだ青い瞳に私が映る。綺麗…って、近い近い!


 ぼんやりしてたら彼が近くまで移動していた。慌てて身を引こうにも手が伸びてきて私の髪をひと房掴んだ。ピキンと固まる。




「…はい。ありがとうございます」




 そして蕩けるような笑みをぉおお!!!


 しかも何か第二部隊の人達皆注目してるし!人前!人前だからラスナグその顔仕舞って!!




「ほー…隊長ってば手の早い…」


「結構幼い趣味だったのね」




 案の定勘違いした二人と頷く周り。違う違う!まだ好意留まりだから!違う…よねぇ?




「と、ともかく!差し入れというか試食というか…みんなで食べて!感想聞きたい!」




 この空気を払拭したい。ともかく目的を達成して逃げるに限る!


 払拭出来たか分からないが、あっさりと訓練を止めて休憩となった。いいのかな…自分から振っといてなんだけど。




「あれ?そういえばミアさんは…」




 姿を見なくなって数分。階段を使うにしろもうここに辿り着いてもいい時間は経過している。

 私の呟きに反応したのはラスナグだった。




「二人とも、ミアを迎えに行ってこい」


「えー」


「まだ食べてないよ」


「お前達の魔術のせいだろう。解除して連れてこい」




 え。魔術使ってたの?浮遊のやつ以外?

 ミアさん魔力弱いって言ってたから魔防が低いのかも。確かにそれならここに来れない。




「私が迎えに行こうか?」


「彼らに任せましょう。ミアの婚約者なんですから、その方がいいですよ」




 へぇ~婚約者…こんやくしゃあ?!!




「ど、どっちが?!」


「両方です」


「一妻多夫制なのこの世界?!」


「基本一人だよ~オレらがミアちゃんに惚れちゃってね。結婚するとなると一人選ばないとダメだから婚約者ってことで落ち着いてんの」


「恋人だから二人で平気」




 いやいやいや、恋人でもそりゃ二股ってやつだろうよ。ミアさん承諾してるの?さっきの光景から見て付き合ってるとはとても思えないんですけど。

 複雑な表情を浮かべた私に二人は笑って頭にポスンッと手を置いた。そのまま通り過ぎるように訓練場を出ていく。うーん…。




「ラスナグ。ミアさん家庭の都合上で二人と付き合ってるの?」


「そう見えましたか?」


「…二人は好意を持ってるっぽいけど…」


「ミアはちゃんと二人を好いていますよ。婚約を受け入れたのも彼女ですから」




 う、うーん?まぁ好き同士なら私が突っ込む問題でもないし。ミアさんに直接聞いてみるか。意外とラブラブなのかもしれない。

 …あれ?私ラスナグと普通に話してないか?ミアさんの事でツッコミ入れたら何だか緊張が抜けたわ…。

 普段でいられるならそれに越した事はない。私は自然な様子でお菓子の説明を始めた。




「こっちは皆が食べなれてるだろう甘いキャロットケーキ。もう一つはポテトチップスで、塩辛いお菓子。食べてみてくれる?」




 やっぱりポテチは初めて見るタイプのお菓子のせいか誰も手を伸ばさない。オレンジ色のケーキを頬張っていく。




「…果物?食べたことない味だ…」


「俺割りと好きかも。しつこくないから数が食える」


「うーん…オレは苦手、かなぁ…」




 それぞれ評価が口から漏れた。ラスナグの隊はおよそ二十人くらい。これが多いのか少ないのか私には分からないけど、その半多数は頷きながら食してくれた。ニンジンの味は苦手な人も多いからね。でもダメってわけではなさそう。陛下に話せばニンジン栽培始めてくれるだろうか。ちょっと相談してみよう。


 ラスナグは…と見てみれば丁度食べ終わった様子。味を聞けば「美味しいです」と返ってきた。嫌いな味ではないらしい。

 それは良かったと思った所で彼はポテチを手に取った。おお、最初にいくか。チャレンジャーだなぁ。



 誰もが注目する中、パリリと小気味いい音が訓練場に響き渡った。






もうラスナグ落ちてる気が(笑)

ニッチャンとサッチャンはミアの婚約者。この三人の話をまた別の話で書きたいです。

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